異世界にて10
「これは?」
「そなたが作り出した魔術具の対になる石だ。そなたが今、手に持っている魔術具はフィロス・スナイドレーのもの。彼以外には何の効果もない、ただの石。」
「そして、我の手にあるこれは。そなたのもの。」
魔術創成の神のルビーの瞳がやさしく、明るく、楽しそうに、光る。
「そなたが持っていた心配事は2つ。ひとつが、彼の命。それを守るために、そなたは、守りの魔術具を望み、叶えた。さて、もう一つが、死んだことがわからないかもしれない。という不安。…これは、この2つめの不安を取り除く。」
「え!?」
「フィロス・スナイドレーが死んだら、守りの魔術具は砕ける。砕けると同時に、我が手中にある、この対の魔術具も砕ける。フィロス・スナイドレーの死を知ることができる、魔道具だ。」
ついっと、フローラが横から二人の手の中のダイヤモンドを取り上げる。
「ピアスにしてあげるわ。わたくしから、子孫へのプレゼント。」
フローラが、私に2個のダイヤモンドを返してくれた時、ダイヤモンドは白金の金具が付いたピアスになっていた。
全く同じにしか見えない2つだけれど、どちらが守りの魔術具か触れれば、わかる。
「ありがとう、ございます…。」
2個のピアスをそっと、両手で包み込む。
「さて。生と死を隔てている、門まで、一緒に行こう。
…だが、ソフィア。
フローラが言ったとおり、門をくぐれば、元の世界に戻れるが、満身創痍で戻ることになる。先ほどの試練は、そなたの世界では治癒の余裕なく、即死していた。
この世界は、死が無い世界なので、治癒の魔術で何度も復活しているが、そなたの世界に行けば、その治癒は、無かったことになり、傷がぶり返す。
…かなりの確率で死ぬだろう。
同じ死ぬなら、そのような苦痛を2度と味わいたくない、のが人間だと、思う。しかし、それでも、万一の可能性にかけて、帰るかね?」
「はい。絶対に、死にません。」
「…そうだな。死なせてもらえないだろうな。」
「はい?」
ふふっと、魔術創成の神が笑いかけてくる。
「そなたが先ほど対峙した、フィロス・スナイドレーは偽物だ。」
頭をガン!と殴られた気が、した。
「偽物の両親を見破ったように、彼も偽物だ、と見破ると思ったのだがな。」
楽しげな、笑い声が響く。
「無理もない。テネブラエ、闇の魔術は、心を操る。…そなたの心の奥底に眠っていた、不安を引きずり出す攻撃なのだよ?先ほどの彼の言葉は、そなたの心の奥底にくすぶっていただろう、不安をそのまま、偽物が言っただけに、すぎない。」
「じゃ、本当の、フィロスは…。」
「あなたを愛しているに決まっているじゃないの。」
フローラ様が呆れたように、両手を腰に当てて言い放つ。
「向こうで、わたくしをののしりながら、魔術陣の解析に励んでいるわよ。なんとしても、あなたを取り返すために。」
「わたくしの、陰険な子孫を、よろしくね?」
フローラ様の笑顔が、はじける。
「はい!」
「では、行こうか。生と死の狭間から、元の世界に戻るために。」
歩いていけば、炎の円環が見えた。
魔術学院の門とそっくりだ。
真紅と青白の2双の龍が絡み合い、ゆっくり回っているように見える。
「ソフィア。いつか、こちらの世界に戻って、そなたと再会できる日を楽しみに待っている。その日まで、そなたに幸多からんことを。」
「ゆっくり、戻ってくるのよ?すぐ戻ってきちゃ、ダメよ?そして、戻ってきたらまたお話しましょうね。」
うなずいて、2人に深々とお辞儀をすると、覚悟を決めて門をくぐった。