塔の属性
一斉に教授たちが立ち上がり、壇上から次々消えていく。
転移魔術だ。
教授達が消えると同時に、上級生達から退場していき、新入生たちもぞろぞろと寮室に帰るために出ていく。
講堂の外には黒狼たちが待っていてくれるかと思ったけれど、姿が無い。
「残念ですわ。スナイドレー公爵のことを皆様にお話しできなくって…。」
エリザベスは残念そうに、ため息をついている。
「寮には自分で帰らないといけないのですね。明日から授業ですもの。迷子になっていられませんしね。」
エリザベスもジェニファーも、自分が入寮している塔の仲間と一緒に合流して帰っていくようだ。
「あら、ソフィ。あなた、ステラ塔でしたっけ?同じ塔の方が見つからないの?」
一人で帰ろうとしたところを、ジェニファーから心配そうに声をかけられる。
「ステラ塔、他にいないみたいなの。」
「え?うそでしょう?」
エリザベスもジェニファーもびっくりしている。
96名も新入生がいて、学院全体なら600名くらいいるはず。
生徒が入寮できる塔は7塔だから、1塔あたり平均85人になるはずなのに、ステラ塔は1人って、わたくしだってびっくりだ。
「君、ステラ塔なの?」
突然、後ろから声をかけられて、思わず飛び上がった。
背の高い上級生。
制服の襟のバッジの色で学年がわかる。
彼のバッジは、緑。4年生だから15歳か。
ちなみに私、新入生のバッジは赤。2年生が橙で、3年生が黄。5年生は青で、最上級の6年生が紫になる。
「まあ、リュシューじゃない?」
「リズ。びっくりだ。君に魔力があったとは知らなかったなあ。」
「リュシューこそ!…あ、ソフィ、彼はリュシュリュウ・ライドレー。ライドレー侯爵の長男よ。」
「リュシュー、彼女はソフィア・ダングレー侯爵令嬢。」
「へえ、ダングレー。」
「で。ダングレー、聞きたいんだが、君は本当にステラ塔なの?」
「はい、そうですけど…。」
「驚いたなあ。ステラ塔にかつて生徒が入寮したのは、15年だか20年だかくらい前だと聞いている。それ以前もあまり入寮した話を聞かないんだよね。」
エリザベスは不思議そうに首をかしげる。
「もともとは、教授専用の塔なのですかしら?」
「いや、そんなことはないと思うんだが…。もっとも、教授達がどこの塔に住んでいるか知らない教授が多いんだけれど。」
「どういう基準で入る塔が決まりますの?」
「その人の持つ魔力で最も強い系統だそうだよ。
ルクスは光。テネブラエが闇。…僕だね。アクアが水。」
「あら、わたくし、水が強いってことね?」
「リズは、アクアか。うん。そうなるね。…で、イグニスが火。ヴェントゥスは風。テラが土。」
「ジェニファーはテラだったわよね?」
「そうなんだ。で、ダングレー。君のいるステラは、星。」
「星?」
「星属性ってなんですの?」
「すべての属性をバランスよく持つものと言われている。すべての属性を持つなら、相当、魔術師として優秀と思われるんだが、その記録は見たことがないし、むしろ、魔力が弱くて落第した生徒の記録が残っていたりするので。よくわからないんだよね。…ダングレー。君の魔力はどうだろうね?」
初めて聞く内容に、固まる。
「ああ、みんな、かなり遠くに行っちゃっているな、3人とも大丈夫?」
「あら、大変。また明日ですわ!」
エリザベスとジェニファーは慌てて、他の生徒の後を追って小走りで立ち去っていく。
「ステラ塔まで送ろうか?ダングレー?道、わかる?」
少し考えた。
たぶん、大丈夫だと思う。
「ありがとうございます。明日から授業に行かないといけないですし、がんばって一人で帰ってみます。」
「…そう。うん。わかった。ステラの生徒だってわかったら、注目をどうしても浴びるだろう。でも、頑張ってね。」
ライドレーはにっこり微笑んで、軽く手を挙げてから去っていく。
ステラ塔まで歩きながら、今聞いたことについて考え込んだ。
「ステラは星属性。だけど、何か、わかっていない?」
私の魔力って、何が強いんだろう?
基本的な魔術は一通り使えると思う…
例えば、火や水、風を出すことはできる。大地から土の壁を出すこともできる。
光は癒し、自分に癒しをかけたことはある。何しろ、おばあ様からよく鞭で打たれていたから。もっとも、自分で自分を癒す場合、効果が低い。
闇は、はて、なんだろう?確か、精神を操るとか聞いたような気はするけど、よくわからない。
でも、闇以外は使える…と思う。
でも、そういう話ではないのかも。
もしかしたら、まんべんなく使えるけど、魔力が弱いのかもしれない。
お母様に魔力の効率的な使い方の訓練を学んだけれど、弱いから訓練させられたのかもしれない?
すーっと、顔が青ざめていく。
魔力が強いか弱いかなんて比較対象がいなかったから、わからない。
そもそも、自室で試せる魔術なんて、たかが知れてる。
大掛かりなのを試したら、侯爵家のだれかに魔力持ちと気付かれてしまっただろうし。
「落第したら、どうしよう…。」