異世界にて8
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「いつまで、寝ているの?さっさと起きなさい。」
うっすらと目をあけた。
私を覗き込んでいるのは、腰まである流れるようなさらさらの金髪と碧眼を持った美しい女性。
…だれ?
耳元を草花にくすぐられ、草原に寝ていることに、気付く。
あたりは何もなく、水色の空とそよ風がやわらかい緑の草原だけが広がっていた。
コロシアムは?
どうして、ここに?
「あなたは…?」
草原の上に起き上がり、立っている女性を見上げる。
「フローラ・スナイドレー。」
「フローラ様!?」
「そ。あなたをここに巻き込んじゃった、フローラ様、よ。」
にっこりと、女性が妖艶な笑みを浮かべる。
「ここは?」
「生と死のはざま、かしら?」
「わたくしは、死んでしまったの?」
「死んだ、ともいえるし、そうでない、とも言えるかしら。」
意味がわからなくて、首をかしげる。
「あなた、次第よ。」
すっと、フローラ様が手を差し出す。
その手には、真紅に染まったダイヤモンドが1粒。
「これは?」
「あなたが望んだ魔術具。身に着けた者に向けられたすべての魔術の攻撃を与えた相手にはじき返す効果がある。」
そのダイヤモンドを受け取った。
ほんわりと温かい、それを。
両手で包み込み、胸に押し当てる。
ああ、完成したんだ。涙で、視界がにじむ。
「この魔術具、あなたが望めば、フィロス・スナイドレーの手元に送ってあげる。これがどのような役割の魔術具かは手に取ればわかるでしょう。」
「わたくしが、直接、お渡しすることは、できない、のですね?」
「あなた次第、よ。」
「わたくし、次第?」
「そう。あなたは本気でフィロス・スナイドレーのところに戻りたいの?あなたを拒絶した、あの、陰湿な子孫のもとへ。」
陰湿な、子孫。
ぷっと、噴き出してしまった。
そうね。普段、あの人はとても、陰湿かも、しれない。
笑いをおさめ、目尻にたまった涙をふきとる。
「わたくし…。彼に直接、これを渡してお礼を言いたいのです。」
「…お礼?」
「はい。わたくしに向けられた愛情ややさしさは、お母様に向けたものだったのかもしれませんが、それでも、わたくしはとても幸せでした。だから、魔術具を直接、手渡して、お礼を言ってから、彼の元を去りたいと思います。」
「その後、どうするの?」
「学院に戻って卒業します。そのあとは、お母様と同じように治癒師になります。」
「…あなたには、求婚者が2人いたと思うけど?」
「そうですね…。リチャードは好きですけど。でも、フィロスのように命を懸けて愛することはできないって、わかっているので。わたくしは、一生、フィロスへの想いをこの胸に抱いて生きていくつもりです。わたくしが遠くから彼の幸せを祈るのは誰の許可もいらないはず、だから。」
ダイヤモンドを握っている両手に力をこめて、目をつぶる。
浮かぶのは、フィロスの笑顔。
あの時の、あの笑顔は、お母様でなく、確かに、私に向けられていた。
それが、一時的なものだったのだとしても。
その思い出があれば、ひとりでも、生きていける…から。