異世界にて6
「フィロス?」
なぜ、ここに?
思わず、近づこうとしたら、
「近寄るな!」
びくっと、思わず、立ちすくむ。
彼が顔を上げる。
その目には初めて会った時と同じ憎悪の炎が冷たく燃えていた。
「私のために、だと?」
「フィロス?」
「ふざけるな!お前の自己満足だろう?私を護るための魔術具だと?本心は自分の不安を解消するための、自分のため、ではないか!」
フィロスが指を私に突き付けてくる。
「もう、やめてもらおうか。私に恩着せがましく、あれこれ押し付けてくるのは。」
「何も、押し付けたつもりは…。」
「ふん。私の正直な気持ちを教えてやる。お前はリディアナの代用だ。」
ずきっと、心が痛む。
「私が愛しているのは今でも、リディアナ、ただ一人。リディアナを奪っていった、あの憎いアクシアスそっくりのお前を誰が愛するものか。」
心の底に押し込めていた、不安。
お母様の代わり。
それでもいいと、思っていたけれど。直接、言われると、堪える。
「なぜ、今、そんなことを…。」
「疲れたからだ。お前を愛しているように見せかけるのに。」
「!」
「一人ぼっちが辛かった。だれかに居てもらいたかった。そこに、お前がのこのこと現れた。だから、代用品でもいいと、思った。でも、しょせん、代用品は代用品。埋められなかったのだよ、この孤独を。お前では。」
声が、出ない。
「もう、疲れたんだ。婚約を解消しよう。もうほっておいてくれ。私を愛しているというのなら。」
フィロスが唇をきつく結んで睨む。
あなたのそばに、いたかった。
…でも、それが、あなたにとって辛いことだというのなら。
「…わかりました。フィロス。あなたの望み通りに。
でも、ひとつだけ。私が今、望んでいる、あなたを守るための魔術具は受け取って!
わたくしの自己満足かもしれない。
でも、あなたさえ、生きていてくれるなら、離れていても、わたくしは幸せ、だから…。」
そう。
私はずっとフィロスに幸せになってほしかったから。
フィロスに笑っていてほしかったから。
生きていてほしかったから。
それだけが、私の、望みだったから。
だから、それが叶うなら、婚約解消だって、そばにいられなくなったって、構わない。