異世界にて5
「はああ。諦めが悪いねえ。そなたは。」
いつの間にか、金色の鎧の騎士が、消えている。
「わたくしは、フィロスのために死ねません!」
「なぜ?」
「二人で、幸せになるために。」
くっと、魔術創成の神の口元から、笑い声が漏れる。
「そう。…テネブラエ。」
目の前に現れたのは、お父様とお母様。
「え?なぜ?お父様?お母様?」
母が近づいてきて、私の頬に手を当てて涙ぐむ。
「痛かったでしょう…?」
「え?」
「ずっと、見ていたの。痛かったでしょう?」
「それは…。」
父が近づいてきて、母と私の両方を抱き込む。
「もういい、もういいんだ。もう戦わなくてもいいんだ。君は、十分、頑張ったよ。」
「お父様?お母様?なぜ、戦いをやめるように、言うのです?」
お母様が、ぐしゃっと顔をゆがめ、泣き顔になる。
「当たり前じゃないの!子供が傷つくのを見るのが、どれほど親にとって辛いことか!」
母がぎゅうぎゅうと私を抱きしめてくる。
「ね?だから、もう、戦わないで。お願い、私達と行きましょう?」
「そうだ。ソフィア。君には休む時間が必要だ。私達と一緒に、少しゆっくりしよう?」
唇を噛む。
そっと、両親を腕で押して2人から少し離れる。
「お母様、お父様、ごめんなさい。それでも、わたくしは。諦められません!」
とたんに、両親の顔が険しくなった。
「なぜ、私の言うことを聞かないの?ソフィア。私はあなたを大事に育てるために、苦労して命を削ったのに!」
お母様の声が、突き刺さる。
「なぜだ、お前のお母様を苦しめた相手のために、なぜ、必死になる。私達親よりも親を苦しめた男の方が大事なのか!あいつは最低のことばかりしてきたんだぞ!」
お父様の叱責が、突き刺さる。
「私達は命を懸けてあなたを育んできたの。そのあなたが死ぬのを見たくないの。ねえ。わかるでしょう?あなたは私達のいのちをもらって、生きてきたのよ?あなたのために、どれだけ、私が大変だったか。その恩を忘れたの?」
最後の言葉に、はっとする。
違う、何かが違う。
かぶりを振った。
「わたくしの、お父様とお母様は、絶対に、そんなことを言わないっ!」
そう。知っている。
母が何の見返りも求めずに多くの人を助けてきた姿を。
父のことはほとんど覚えていないけれど、母の話から、そして、施術院に集まっていた多くの人が教えてくれた思い出から、父も多くの人に慕われていたことを。
そのような2人が、私に見返りを求めるはずもない!
「わたくしの、お父様とお母様を侮辱しないで!」
2人の姿が突然、掻き消えた。
周囲が真っ暗になる。
そして、正面にぽぅっと白い光が浮かび、その中に、フィロスがうつむいて立っていた。