異世界にて4
「素晴らしい魔力だね。そなたは。…さて、テラ。」
赤銅色の鎧の騎士。自分の体より大きなハンマーを持っている。
それを、大地にドン!とたたきつけた瞬間、大地に全身をめりこませられた。
「うっ!」
立てない。這いつくばった状態。重力が重い。
「ぐっ!」
上からハンマーが振り落とされる感触。
口から真っ赤な血が噴き出す。
…内臓、破裂?…肋骨も、折れた?
息ができない。…肺にささった?
「…終わりかな?」
低い声が、どこかで響く。
「終わりじゃない!」
あきらめない、絶対に。
ごふっと、血がまた噴き出す。それに構わず、かすれた声で唱える。
「|最高の、完全なる癒しを《ペルフェクティオ・サーナーティウス》!」
全身が真っ白の光に包まれる。
「爆発せよ!!」
膝をついたまま、レイピアに魔力を流し、炎のボールを赤銅色の騎士に向けて放つ。
大音響をあげて、騎士が爆発した。
「…なんとまあ。大地の怒りを食らった以上、死んだと思ったのだが。…治癒の最高魔術、ペルフェクティオ・サーナーティウスを使えるとはね。最近は、使えるほどの魔力持ちが減ったと聞いていたのだが。…気に入った。そなたの魔力を回復してやろう。」
ふいに、私の身体に魔力が満ちる。
枯渇しかけたら、例の魔力回復のお菓子を食べなくてはと思っていたから、助かった。
「では、トニトリス。」
オレンジ色の鎧の騎士だ。レイピアを正面に掲げ持っている。
無数の雷が私に向かって天上から降り注ぐ。
「大地の柱!」
とっさに、私の身長より高い無数の土の柱をあたりに乱立させる。雷はそれらの柱に逸らされて落ちていく。でも、幾つかの雷撃は避けきれなかった。
唇から血が伝う。
それに構わず、
「わが剣よ、放出せよ!すべてを流し去る、大河の激流!!」
レイピアから騎士に向けて、一気に激流を放出し騎士を押し流す。
水が消えたとき、騎士の姿も無かった。
全身しびれが残っているし、火傷もあるけど、これくらいなら、問題ない。
口元の血を、ぐいっと手の甲で拭った。
「ふん。ルクス。」
まばゆく輝く黄金の鎧の騎士。その手には、弓。
私を見ることも無く、天に向けて、騎士は矢を射る。
とたんに、何十本となく、天から金の矢が降り注ぎ、私の身体に何本も矢が貫通する。
耐え切れず、膝をつけば、その視界の外にまた騎士が弓を天に向けて矢を放つのが見えた。
「盾を、上に上げないと。」
だけど、その盾を持っている左腕にも矢が刺さっていて、すでに盾が消失している。
ドスッ!ドスッ!と、自分の身体に矢が食い込んでくるのを感じた。
「…痛いだろう?もう、抵抗はやめよう?死んだ方が楽だよ?」
耳元で、低く、ささやかれる。
声が、出ない。動けない。
私、死ぬのかな。
くやしい。もう少し、もう少し、だったのに。
ああ、でも、もう痛すぎる。もう、立ち上がれない。
意識が遠のいていく。
その時、私の頭の中に、フィロスの声が響き渡った。
「頼む。帰ってきてくれ、頼む…。」
その声は。
魂を引きちぎられそうな苦痛に満ちていて。
私の目から赤い涙がつーっと伝う。
「わた、くし、は、…かなら、ず、…帰るっ!」
「消滅せよ、我が身に刺さりしすべての矢!!…そして、|最高の、完全なる癒しを《ペルフェクティオ・サーナーティウス》!」