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魔術師ソフィアの青春  作者: 華月 理風
魔術学院4年生
121/172

消えたソフィア



 フィロスは屋敷に向けてペガサスに乗って天空を駆けていた。


「なんだ?あの光は?」


屋敷までもう少しのところで、彼は屋敷の真ん中…内庭があると思しき所から、金色の光の柱が天に向かってそびえているのを目にした。


「何が、起こっている?」


内庭には、フィロスも知らない結界が張られ、空からは直接、降りることができないようになっている。

そもそも、上空から見ても、内庭は見えず、屋敷の屋根しか見えない認識阻害がかかっている。だから、屋敷の屋根から光の柱が立っているように、見える。


屋敷の玄関前にペガサスで降りると、皆を起こさないよう、そっと速足で自室に向かい、寝室にとびこめば、タペストリーが上がっていることに気付く。


「ソフィアは、ここか?」


魔力を通して、扉を開けた瞬間、


「旦那様!大変でございます!」

グレイスが涙をぼろぼろこぼして、フィロスの腕をつかむ。

「お願いでございます!ソフィア様を連れ戻してくださいませ!」

グレイスが、すごい力で、フィロスを引っ張っていく。

「グレイス?ソフィアがどうした?」


書斎まで引きずられてくれば、窓の外は真っ暗なはずなのに、金色の光がまばゆい。

腕をつかんでいるグレイスの手を振りほどき、書斎のドアから内庭に飛び出せば、地面に魔法陣が浮かび、金色の光の柱が天に向かって立ち上がっている。


そして。

ソフィアの姿は、無い。


「グレイス!ソフィアは、どうしたのだ!」

「あの魔術陣の中に、消えました。ああ、あの、魔術陣。ああ、フローラ様のお命を奪った、魔法陣!」

「グレイス?」

「ソフィア様も、死んでしまいます。フローラ様のように、真紅に染まって。」

「グレイスっ!?」

「連れ戻してくださりませ。お亡くなりになる前に!」


グレイスは泣き崩れて、それ以上、話を聞けそうにない。

フィロスはぎりっと歯ぎしりして、魔法陣に近づく。

その光の中に入ろうとして、バチッとはじかれた。はじかれた場所のマントが焦げている。

マントを脱ぎ捨て、光の柱に手をそっと伸ばせば、同じく、バチっとはじかれて、手袋が焦げ、指が火傷したように赤くなっているのがわかった。


「グレイス。この中に入る方法は、わかるか?」

「ぞ、ぞんじませぬ。」


フィロスは、舌打ちをする。

魔法陣の文様を光の柱ごしに見るも、今までに見たことが無い文様だ。


「フローラ様と同じ、と言ったな?」


もしかしたら、フローラの書斎にあった本の中に、魔術陣の情報があるかもしれない。

彼は書斎に飛び込み、そこの机の上に自分の名前が書かれた封筒を見つけた。

ソフィアの文字、だ。



*****


フィロスへ


帰ってくる予定ですけれど、帰れる確率がとても低いので、わたくしはこの手紙をあなたに残します。


わたくしはどうしても欲しいものがあるので、異世界に行ってきます。

フローラ様のメモから、あの世界がとても危険な場所とわかっているけれど。


この手紙を読んだ時、わたくしの生死が不明でしたら、少しだけ、そう、少しだけ、わたくしを待っていてくださいね?


でも、ひと月経っても戻ってこなかったら…

あるいは、わたくしが命を落として戻ったときは…

あなたに黙って勝手なことをした、わたくしを忘れて、

どうか、あなたにふさわしい方と新しいご縁を結んで、くださいね?

きっと、そういう方が、必ずいるから。

そして、幸せになってくださいね?


わたくしの望みはただひとつだけ。あなたの幸せ。

わたくしの生命も、愛も、すべて、あなたのために。


全身全霊かけて、あなたを愛する、ソフィアより


*****



 フィロスは、ソフィアの手紙をぐしゃっと握りつぶす。

目が血走っている。


「ソフィア!私を置いて死ぬなど、絶対に、許さぬぞ!」


 棚に残っている本を取り出す。目を通す。

最悪だ。

どこに、あの魔法陣があるのか、わからない。

文字は流し読みし、魔法陣が描いてあるページのみ、目を通していく。

どれもこれも、該当しない!

置かれている本は10冊ほど。

しかし、どのページにも、庭に浮かび上がっている魔法陣らしきものは見つからない。


「グレイス!ここ以外には、ソフィアが調べていた本は無いのか?」

「ここにある本だけ、と存じまする。…あ、ソフィア様は、ここの本を持ち出せないから、とメモを取られていました。そのメモはこちらにございませぬ。」


フィロスは舌打ちし、普段用のソフィアの部屋へ駆け込む。

あちこちの抽斗をあけても、メモらしいものは見つからない。

綺麗に整頓されているので、メモがあれば一目でわかるはずだ。


見つかったのは、大量、かつ、あらゆる種類のポーションと、魔力を回復する虹色のお菓子が詰まった瓶。

彼のために用意されたものだと、すぐにわかる。

こんなもの。

ソフィアが居なければ、無用の長物なのに。


「学院の、寮室か?」


ぎりっと、歯ぎしりの音が、しんと冷えた部屋の中に響き渡る。

学院の寮室は、その持ち主が卒業または退学、または、死亡するまで、持ち主以外、誰も、学院長であろうとも、入れない。


フィロスは壁に両手の握りこぶしを激しく打ち付ける。

すーっと壁につたいおちる、血。

壁に頭をつけたまま、フィロスは慟哭する。


「頼む。帰ってきてくれ、頼む…。」



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