フローラ様の魔術陣
もうすぐ新しい年を迎える、という時刻に、フローラ様の書斎の外の内庭に立っている。ドレスではなく、女性用の騎士服を着て。
髪も後ろに1本にまとめた。フィロスにもらった水色のリボンで。
騎士服のポケットには、ダイヤモンドが入っているのを、もう一度、確認する。
うん。ある。
あえて、この場所を選んだのは、邪魔が入らないようにするため。
マーシアには、ソフィア様の寝室で寝ることを伝えてあるので、翌朝、自室に私が居なくても、それほど心配はされないだろう。
すぅ、と大きく息を吸う。
もしかしたら、これで命を落とすかもしれないけれど。
攻撃されたら攻撃してきた相手にそれを返すバリアを作るために。
どうしても、私は、フィロスを、守りたい。
…フローラ様の書斎の机の上には、万一、私が命を落とした時のために、フィロス宛の手紙も置いてきた。
もう一度、深呼吸をする。
「よし。」
フローラ様の書かれた不完全だった魔法陣を自分で改良して書き直した紙を取り出し、魔術でその上に乗れるくらいのサイズに拡大する。
「刻印。」
ずんっ、と微かな振動とともに、紙に書かれた魔法陣が土の上に刻印され、銀色に光りだす。
私は魔法陣の上に立ち、陣を起動するために必要な粉…、調合に何カ月もかかってしまった…が入っている袋に手を入れて、粉をつかみだす。
粉を魔法陣の銀色の線の上にかかるように注ぎながら、起動のための呪文を唱える。
「我がのぞみ 叶えしために 異世界の 扉をひらけ われのため」
「扉をひらく 代償は 我が愛、いのち 我が魔力」
魔法陣に光が満ちていく。
「扉をひらく許しを与えよ!我が名は、ソフィア・ダングレー!!」
魔法陣にドーンと金色の光の柱が立つ。
その光の中に、吸い込まれていくのを感じた。
「ソフィア様っ!いけませぬ!」
グレイスがドアからかけてくるのが、最後に視界に入った。