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魔術師ソフィアの青春  作者: 華月 理風
魔術学院1年生
12/172

入学式



 入学式の朝。

塔の入り口に7時きっかりに新入生は全員集合後まとまって講堂に移動すること、と通知があったので、時間より少し早く、ステラ塔の入り口に行った。

 ステラ塔の中では誰にも会えていない。

だから、同じ塔の新入生に会えるのが楽しみだったけれど、時間が来て、黒狼ステラが現れても、私一人だけだった。

「ついてこい」

黒狼ステラが歩き出したので、

「あの。まだ、全員集まっていないのでは?」

と、慌てて声をかけたら

「ステラ塔はお前しかいない。」

「え?」

「ステラ塔は、お前の他にも住んでいる者はいるが、全員、教授だ。学生はお前しかいない。」


講堂の近くまでくると、他の黒狼を先頭にぞろぞろ歩いていく新入生の行列と合流した。どの黒狼の後ろも、たくさんの新入生が居る。

黒狼の後ろにひとりしかいないのは私だけみたいだ。


講堂の扉の前で黒狼たちは扉の横に控え、新入生だけが扉をくぐって講堂に入っていく。

講堂の中には大勢の学生がすでに座っていた。

上級生だろう。


「新入生たちはー、前列へー!」

講堂の正面の壇上に演台があり、その上に立つ背が高く、白髪、白い長いひげに碧眼、赤らんだ顔のおじいさん先生が声をかけてきた。


演台の後ろにはずらりと、黒いマントに身を包んだ、おそらく教授と思われる大人たちが座っている。


前に移動していくと、1つだけ光って見える椅子があることに気付いた。


「新入生たちよー!君たちには、1つだけ光っている椅子が見えるはずだー。そこが君たちのが座る椅子だー。急ぎ、着席せーよ!」

おじいさん先生の朗々たる声が響き渡る。


マイクも使っていないのに、講堂の隅々まで響き渡る。

これも魔術の一種だろうか。


光って見えた椅子に着席する。

「あら?」

「ソフィ!」

私の左側はリズ。右側がジェニファーだった。

「わあ、二人と隣り合わせで安心したわ。」

思わず、ほっと安どのため息をつく。

「わたくしも!」「私も!」

リズとフェニファーの声が重なる。

2人はお互いにまだ知らないので、不思議そうな顔を見合わせたけど、すぐに軽く会釈して自己紹介を始める。

「まあ、クリス商会の!うちもよく利用させていただいているのよ。紅茶はクリスのしか飲めないって、母が言っているわ。」

「ありがとうございます!学院にも紅茶は持ってきているので、お茶にいらしてくださいね。お店に出していない特別な茶葉もありますので。」

「あら、それは楽しみね。気に入ったら特別に購入できるのかしら。」

「そこは要相談で。」

こそこそと話をしているうちに、新入生全員がようやく自分の席に着いたようだ。


「さて!今から、入学式とー、ランドール歴3250年度の始業式を始めーる!」

おじいさん先生の声がそこに響き渡り、講堂内が一瞬、静まりかえる。


「新入生諸君、ようこそ、ランドール国立魔術学院へ。2年から6年の生徒諸君、また会えたことをうれしく思ーう。わしは学院長のアイザック・ハッカレーであーる。今年は、96名の新入生を迎えられて、大変、喜ばしーい。18歳までの6年間、君たちはここで、魔術を学び、自分の適性を探していくことになーる。」

「注意しなければならないのは、全員が進級や卒業できるわけではなーい、ということだー!」

「残念ながら、成績や素行不良、国家への反逆などで、学院を追放される者が過去に何人もいたー。昨年も卒業できず、追放された学生が悲しいことに2名出たー。諸君たちも知っていると思うが、学院を卒業できなかった者は追放と同時に魔力を失なーう。」

「くれぐれも自己研鑽を厭わず、日々努力されることを、わしは望ーむ。」


「さてっと、新入生諸君。君たちがー、学院へ来た理由はー、なんぞや?校歌にー。それが簡単にー、歌われておる。聞いてもらおうー。新入生はそのまま着席。2年生以上、全員起立ぅ~っ!」

ガタガタ、と私達の後ろの2年生以上の生徒が立ち上がる音がする。

校歌斉唱。


  我らの誇り たぐいなき力

  我らは望む 楽園の創造

  我らは学ぶ 力の制御

  我らは捧ぐ

  力与えし神に 感謝と忠誠を

  ランドール ランドール

  魔力の満ちる国



「さーて、では、諸君らの教師たちを紹介しよーう。皆、この国でトップクラスの魔術師だから授業以外は学院にいらっしゃらないことも多ーい。教えていただけることをありがたく思い、尊敬の念をもって接するようーーーーに!」


「副学院長で、歴史学を受け持つ、アンナ・オバレー教授。日常生活一般で相談がある場合は彼女に相談するようーに。」

オバレー教授は立ち上がり、モノクルごしに隻眼を光らせて軽く会釈し、また着席する。


「次はー…・」


その時、また背筋が凍り付くような感触を覚え、ぞくっと身を震わせた。

学院に来た初日に感じた、視線。あれと同じ視線。

壇上に吸い寄せられるように視線を向ける。

黒髪黒目、白というよりも青に近い顔色の悪い、眉間にくっきり数本の皺を深く寄せた、30代後半くらいの険しい顔の男性がそこには居た。

間違いない。

あの時、階上から見下げていた男性だ。

その眼には明らかに憎悪の炎が燃え盛っている。

憎まれていることを感じたけれど、会ったことは絶対にないはずだ。

なぜ、こんな目で見られないといけないのだろう?


教授達の紹介がどんどん進んでいるけれど、彼から目が離せない。

誰?


と、その時、

ゆっくりと、彼が立ち上がる。

その瞬間、呪縛が解けたかのように力が抜けた。


「フィロス・スナイドレー教授。薬学魔術の教授。魔法薬に関しては、わが国で一番と言って過言ではなーい。」


エリザベスがこそっと、うれしそうに声をかけてくる。

「スナイドレー公爵が教授だったなんて!公爵は全く社交界に出られないので、どんな方なのか気になっていたの。まさか、教授をされていたなんて。それも存じませんでしたわ!」


休暇で実家に帰ったら社交界で皆様に話すのが楽しみだ、とうれしそうにしていたエリザベスだったが、


「これで、教授達の紹介は終わりだーが!学院から出たら、教授の名前はもちろん、どのような人物で何を教えていたか、一切、話すことを禁じーる!!!」


新入生たちが、ざわめく。


すっくと立ち上がり、オバレー教授がハッカレー学院長の隣に立つ。


「皆さんは選別の門を通ってこの学院に来るときに、門の内側で起こったことを外に漏らさない誓いを立てているはずです。

学院の教授の皆さんは全員、この国のトップクラスの魔術師であり、皆さんを教えている教授という地位は彼らの本来の職業ではありません。彼らは本業を持っていますが、それらはあなた方にすべて明かされることはないでしょう。

とはいえ、教授について、たとえ、家族であろうとも、話をすることは許されません。些細な情報であっても、彼らの本業に差しさわりが出る可能性があるからです。

これは、国王からの勅命でもあります。くれぐれも違反することのないように。違反したものは学院から追放となります。」


「そのほかの細かい規則については、一番最初の授業日、明日ですね。に説明します。その後、規則を守るという誓約書にサインをしてもらいます。」


ハッカレー学院長が鷹揚にうなずく。

「オバレー教授、ありがとーう。」



オバレー教授は学院長に軽く会釈し、学院長の後ろに半歩下がる。


「ではー!

3250年度の授業を明日から始める!今年も優秀な学生が多く出ることを期待すーる!

かいさーん!」


授業が始まるまでもう少し。

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