レシピを教えて
1週間、様子を見に放課後、薬学教授室に通ったけれど、フィロスには全く副反応が起きなかった。
魔力だけを純粋に回復し副反応が起きない薬は魔術師たちが、当然、フィロスも長年、研究してきただけに、フィロスから、すごい勢いでレシピを教えてほしいと、ねだられる。
「教えてもいいんだけれど…。」
「なんだ?」
「公表、したくないの。」
「もちろん、公表はしない。特に今の時期は、な。」
それなら、と、レシピのメモを見せる。
読んでいたフィロスが額に手を当てて、大きなため息をつく。
「これは…。量産できぬな…。」
同感だ。
「ええ。材料費がとんでもなく高額だし、膨大な魔力が必要だから、作れる人は本当に少ない、と思うわ。」
「材料費はどうでもいいが、魔力がな。」
うっ。さすが、4大公爵。
全部買ったら、ウン百万ドールするだろう材料費をどうでもいいとは。
一瞬、意識を別のものにすりかえようとした私に、フィロスから衝撃発言が飛び出す。
「…時間短縮をかけて1時間、か。君の魔力は、たぶん、この国でも一二を争う量だろう。おそらく、私をも凌駕している。」
「えー、そんなことは?」
「ある。実際に、これを作れるとしたら、君以外、3人がいいところ、だろう。」
「3人?」
「私と、学院長。魔術庁長官。」
「うっ…。」
「とりあえず、このレシピは、封印だ。…が、改善の余地もありそうだ。…落ち着いたら、改善させてもらえるか?」
「改善、できるなら、ぜひ…。」
フィロスがうれしそうに笑う。そして、今は時間が無い、と残念そうだ。
「あの、フィロス?」
「このお菓子、」
そこで、ごくっと、唾を飲み込む。
「戦争が始まったら、持っていく?」
フィロスが、目を見開いて、一瞬、固まる。
「戦争に、私が行く、と?」
「リズに聞いたわ。開戦したら、出るみたい。って。」
「君の周りは、余計なやつが多すぎる。」
フィロスが舌打ちする。
「フィロス!」
「…わかった。心配しそうだから、黙って行くつもりだったが、やめだ。そう。開戦すれば、私も出る。軍人として、ではなく、攪乱のための、単独行動に移る。」
やっぱり。
胸がぎゅっとしめつけられるのを感じる。
「…大丈夫だ。君が待っているのだから、必ず、帰る。」
「約束してくれる?」
「ああ。誓おう。」
フィロスが、私の手を取り、キスする。
それでも。
その約束が、100%でないことを、私は、知っている。
それでも。
フィロスに余計な心配をかけないように。私は、笑顔を向ける。
「じゃ、このお菓子、今から作って、持っていけるように、準備しますね?」
「ありがとう。でも、君に負担がかからない程度で、頼む。」
「はい。」