戦闘魔術の自主練習1
「リチャード、お願いがあるのだけれど?」
ある日の放課後、リチャードに声をかけた。
「俺に?俺ができることなら?」
「わたくしに、戦闘魔術の個人教授をお願いできませんか?」
「はあ?戦闘魔術ぅ?…なんで?将来、俺と一緒に、魔術師団に入りたいとか?」
「魔術師団に入るつもりはありませんけれど。わたくし、強くなりたいんです。」
「…魔術師団に入らないなら、強くなる必要、ないだろ?後ろで守られていれば。」
「守られるだけじゃなく、守りたい、んです。…せめて、足手まといになりたくない。」
リチャードが、頭をがりがりと、掻いた。
「守りたい、か。スナイドレー教授?…でも、あいつは守る必要ねえ。半端ない強さだからさ。」
「…わかっています。だからこそ、足手まといにもなりたくないんです。」
リチャードが、じっと、私を見つめる。
「変わったな。」
「え?」
「君の目。入学してきた当初は、子供のくせに諦めたような投げやりな目をしてたのが、どんどん生き生きしていって、今は強い意思を感じる。変わったよ。」
「リチャード?」
「わかった。つきあってやる。けど、放課後は俺も忙しい。早朝だ。朝食の1時間前から。もともと、俺は毎朝、自分の練習をしているから、そのついででよければつきあってやる。」
「ありがとう!」
「教えるんだ、代価はもらうよ?」
「わたくしに払える金額なら…。」
「お金じゃない。君は治癒魔術を使えるだろう?俺が怪我したら治癒魔術をかけてくれ。それが代価だ。」
ほっとする。
「それなら、いつでも、大丈夫。」
「おしっ。決定だな。じゃ、明日の朝から、起きられたら闘技場に来いよ。」
「お願いします。」
翌朝から、朝食の1時間半前に闘技場に行くようにした。
リチャードは1時間前でないと来ないけれど、来たときにすぐ動けるよう、剣の基本の型のおさらいや素振りでウォーミングアップするために。
「昨夜、考えてみたんだけどさ。教えるって言っても、君は女性で男性と体格が違うし、何より君には残念だけど、俺にはどんなに頑張っても勝てない、と思う。」
私もうなずく。
「ええ。わたくしもそれはわかっているわ。だから、攻撃よりも守りで誰にも負けないようになれないかしら、と考えているの。…勝てなくても、生き残る術を。」
「なるほど…。戦闘魔術の授業ではそれは教わらないな。勝つことが目的だもんな。」
うなずく。
「ふぅん。だったら。」
リチャードが考え込む。
「俺が君に攻撃を仕掛けるから、君はそれを防げば練習になるのか。…でも、それだけだったら、あまり上達しねえな。…あ。ダングレー。オートターゲットを知っているな?」
「オートターゲット?弓の練習の時に使う、動く的?」
「そう。あれ、魔法陣で動いてたよな?ちょっとおっきい箱にその魔法陣張り付けて勝手に動くようにして、それを俺が攻撃するから、君はそれを守る。って練習は?」
「あら、それ、すごくいいかも。」
「だよな。…あ、でも。」
「どうしたの?」
「魔法陣がわからねえ。」
くすっと笑った。
「あの魔法陣は、わたくしが描けるから、大丈夫。」
「魔法陣の授業は来年からだぞぉ?」
「学院で学ぶ魔法陣はすべて暗記しちゃったもの。…来年からの魔法陣のテストでは、学年一番になるって、宣言しておくね?」
「うそだろぉ…。」
ともあれ、勝手に動き回るオートターゲットを作ってくることになった。