魔術師の忠誠心
プケバロスに味方をする魔術師が、いる。
考え込んでステラ塔に向かっていたら、またも、誰かにぶつかった。
「君はあ、私を転ばすのが、趣味なのかねええええええ。」
「きゃああ。学院長。申し訳ありません!」
じたばたと駄々っ子のように地面で手足をばたつかせている学院長に、あわてて手を差し伸べ助け起こす。
「また、何か、考え事かね?」
服についた砂埃をぱたぱたとはたきながら、学院長がいたずらを見つけたかのように、にやっと笑っている。
「魔術師はこの国に忠誠を誓っているのに、なぜ、プケバロスの味方ができたのか考えていました。」
「ほぅー。」
「誓約書があるってことは、この国に盾ついたら魔力が無くなるような気がするのですけれど?」
「国への忠誠は、立場によって違うからの。」
「はい?」
「プケバロスに味方をしている魔術師が我が国の滅亡を望んでいたのならば、契約違反で魔力を失うであろうが、今の我が国の在り様を変えようとして、プケバロスを巻き込んだのであれば、それもまた、我が国への忠誠。」
「…。」
「入学当初に、君も聞いたはずだ。忠誠は王家に対してするものではない。魔術庁に対してするものではない。つまり、誰か人に対してするものではない。と。」
「…そういうこと、でしたか…。価値観の、違い…。」
「その通り。」
さて、わしはもう行かねば。とのんびり、学院の方角に歩いていく学院長を見送って、この国が思ったより危険なことに気付く。
「そうか。魔術師の中に、プケバロスが侵略してきたとき内側から反旗を翻す人がいるかもしれないんだ…。」
では、フィロスの仕事は?
もしかしたら、その、反旗を翻す人たちの調査、ではないのだろうか?
何をしているか話せないのは…。きっとそうだ。一種、スパイのようなものだ。命の危険と隣り合わせの、極秘の任務。
「何があってもきっと帰るから、例え誰かから死んだと聞いても、私の遺体を確認するまでは早まったことはしないと、約束してくれるね?」
ふいに思い出す、彼の言葉。
体がすーっと冷えていくのを感じる。
遺体さえ残らない…。
死んだと確定できないけれど、死んだと聞かされる可能性があることに。
あるいは、死んでも、それを私が知らないまま待ち続ける可能性があることに。
何よりも、フィロスを、…いつ、…失ってもおかしくない、この状況に。