グレイスに洋服を2
翌日、フィロスはまた出掛けていった。
「午後には戻る。」
その間にグレイスに会いに行った。
「好きな色、見つかったかしら?」
と問えば、グレイスがうれしそうに、うなずく。
「…全部、青と、金じゃないの…。」
グレイスが、色見本帖の気に入った色のところに、付箋を貼っておいてくれたけれど、驚いたことに全部、青と金だった。
グレイスが困ったように、笑う。
「全色、拝見いたしましてございまするが…。」
「ん。わかったわ。これらの色で服を作ってもらいましょう。」
頭の中で、すばやく考えをまとめる。
これらの色で作ると同時に、濃いワインレッドとダークグリーンの洋服も作ろう。
銀色の眼に、この2色はとても似合う気がする。
フィロスが戻るまでの間、フローラ様のメモでよくわからないところを、また、グレイスに聞いて過ごした。
フィロスが戻ってから、グレイスに洋服を作りたいので、ご用達のドレスメーカーに連れて行ってほしいとお願いしたところ、メイドの服なので、首都ランズまで出る必要はなく、領地のドレスメーカーを呼べば良いと言われ、すぐに呼んでくれた。
呼ばれたデザイナーは首都ランズの本店で学んでからこちらに戻ってきて店長をやっているのだという。安心して任せられそうだ。
グレイスのイメージを伝え、サイズを渡す。
彼女が持ち込んできた生地の中から、グレイスが好きだと言った青色の生地を数枚、選び、さらに、ワインレッド、ダークグリーンも1枚ずつ選ぶ。
本来は、季節に合わせたドレスを仕立てるけれど、グレイスは魔術人形で暑さや寒さを感じないため、春秋に着るイメージで選ばせてもらった。
それぞれの生地に金糸で少しだけ刺繍も入れてもらうことにして、その柄を選ぶのも楽しかった。
ドレスの型は侍女という立場にふさわしく、華美にはせず、お茶会などに付き従う時の侍女の正装という意味合いのデザインでお願いする。
自分のドレスを作る時よりも念入りに打ち合わせをしている私を見て、フィロスは、とても複雑な顔をしている。
「私は、君のドレスにこそ、君の希望をたくさん取り入れたかったのだが…。」
「フィロスに選んでいただいたドレスは、どれも素敵よ?」
「しかし…。」
「お嬢様のドレスも今、ここでお選びになりませんか?」
デザイナーがちゃっかり、フィロスに取り入っている。
まだ袖を通していないドレスが何枚もあるのでこれ以上要らないと言い張ったけれど、フィロスに押し切られ、しぶしぶ、冬休みに帰ってきたときに着るためのドレスを選ぶ。
建国祭のイメージカラーが赤と緑なので、思い切ってその2枚もお願いしてみた。
鮮やかな色のドレスは今までに着たことが無いので、似合うか不安だけれども、フィロスの機嫌が良い。
残念ながら、これらのドレスが出来上がるのは夏休みが終わってからになる。
「グレイスには、建国祭のプレゼント、になっちゃいますね。」
「…そうだな。」
グレイスのドレスは私の給与から支払う予定だったけれど、いつの間にか、フィロスが支払ってくれていた。
次回から、また学院が舞台です。