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魔術師ソフィアの青春  作者: 華月 理風
魔術学院4年生
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グレイスに洋服を



フィロスの不在は1週間に及んだ。夏休みの残りも10日ほど。


フィロス不在中、ずっと、ソフィア様の部屋で本を解読して過ごした。

単なる写本ではなく、自分で理解できる形でメモを作りながら解読していったので、進み具合は遅いけれど、夏休みが終わったら一度中断しなくてはならないのが嫌で、わからないところは学院に戻ってから調べることにして、必要と思われる個所をどんどんメモしていく。

特に、どうしても知りたい、「反射機能を付けたバリア」に関しての情報を優先的に探して。


「お茶を入れましてございまする。一休みなされませ。」

グレイスが、ワゴンを押して入ってくる。

「ありがとう、グレイス。」

グレイスの入れるお茶は、マーシアに負けないくらい、とてもおいしい。

「ねえ、グレイス。あなたは、お茶を飲めない?」

「飲食はできませんです。わたくしめは、人形でございますので。」

「では、他の魔道具同様、魔力で動いているの?」

「さようでございますよ。」

「わたくし、あなたに魔力を注いだ覚えがないのですけれど?」

グレイスが、ふふっと笑う。

「この部屋自体が、一種の魔道具で、この部屋に居る人の魔力を少しずつ、吸い上げるのでございます。…ですから、公爵や夫人が入室されたとき、吸い上げた魔力で、わたくしめは、眠りから覚めるのでございます。」


なるほど、それで、フィロスと私が入室したとき、グレイスが起きてきた、というわけだ。

それにしても、魔力を吸い上げられているとは全く気が付かなかった。

グレイスにそれを話すと、おかしそうに笑われる。


「ほんの少しずつですから。…でも、この部屋で暮らして魔力切れを起こすような魔術師は、この部屋にそもそも入れませんよ。」


代々のスナイドレー公爵夫人は魔力が強い、ということなんだろう。


「ねえ、グレイス。あなたは白いお洋服がお好きなの?」


そう、グレイスは、真っ白い帽子、真っ白い洋服、かつ、髪の毛も肌も真っ白のため、全身真っ白なのだ。目の色も銀色なので、色味が全くない。

グレイスは不思議そうに、自分の姿を見る。


「フローラ様が、わたくしめを作られたときのままなので…。」

「フローラ様は、グレイスに、着替えの洋服を用意されなかったの?」

「そう言われれば、着替えはございませんね。」


ため息をついた。2000年間、ずっと、この洋服のまま?


「グレイス。あなたのサイズ、測らせてもらうわよ。」


一度、自室に戻って、メジャーをとってきてから、グレイスの体のサイズを測っていく。


「グレイス、あなたは、何色が好きなの?」

「好きな色、でございまするか?」

「ええ。洋服をプレゼントしてあげる。だから、何色が好きなのか、教えて?」

グレイスの目が、大きく見開かれる。

「わたくしめの、服を?」

「ええ。グレイスはとても美しいので、何色でも似合うと思うけれど、どうせなら、好きな色の方が良いでしょう?」

グレイスが泣きそうな顔をする。しばらく黙っていたが、

「…青と金、でしょうか…。」

「青と、金?」

「フローラ様の眼が青で、その眼の色をずっと見てきましたので。あと、金は、ソフィア様、あなた様の眼の色です。わたくしめに、再び、仕える喜びを与えてくださった、あなた様の。」

「えっと、他の色は?」

グレイスは、ふっと、目をそらす。

「わたくしめの世界は、ここだけなので、多くの色を…存じませんのです。」

はっとした。

「ごめんなさい、グレイス。わたくしの考えが足りなかったわ。…そうだ、ちょっと待っていて?」


自室には初めて屋敷に来た翌日にドレスを注文したときの、色見本帖がある。

分厚く、重いので、自分一人で持ち上げるのは大変だけれど、魔術を使えば持ち出せる。


「グレイス。こちらに、わたくしがドレスを作ってもらったときの色見本があるの。見てみて?そして、気に入った色があったら、教えて?」


グレイスが、机に置かれた色見本帖を見ながら、目をみはる。

「…世界には、これほどたくさんの色が、あるのですね…。」


私はグレイスに、急がないから、ゆっくり選んでほしい、とお願いする。



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