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生活能力皆無な妹系幼馴染みの後輩が、家庭の事情で一人暮らしをするらしい。

作者: あざね

するらしい、というお話。

詳しくはあらすじ参照ですが、あとがきにお知らせ書いておきます。








 俺には二つ下の幼馴染みの女の子がいる。

 幼稚園の頃から一緒で、毎日のように遊んでいたことから本当の妹のような存在だ。そんな彼女も今年からは同じ高校の後輩となる。

 少しばかりおっとりとした部分もあるが、可愛らしい容姿をしているのですぐに人気者になると思われた。そのことに、ちょっとだけ寂しい気持ちがある。


 だけど、これも時の移ろい。

 俺たちの関係は、こうやって少しずつ変わっていくのだろう。


 ――などと、センチメンタルになっていた時だった。




「……え、比奈の両親が海外出張?」

「そうなのよ。なんでも、夫婦揃ってのことらしいんだけどね?」



 春休みも半ばに差し掛かった頃。

 夕食を摂っていると、母さんがそんなことを言った。

 俺はみそ汁を啜りながら、ぼんやりと幼馴染みのことを考える。



「比奈は、どうするんだ?」

「あら、比奈ちゃんのことが一番に気になるのね。本当に仲良しなんだから!」

「バーカ、そんなんじゃねぇよ。……で、アイツも海外に?」

「ううん、比奈ちゃんは残るそうよ?」

「へぇ……」



 これは、少し意外だった。

 俺はてっきり高校入学も白紙になって、一緒に海外に行くのだと思ったから。

 しかし、それとなると心配なのは比奈の今後の生活だった。彼女はどこか天然なところがあって、こちらから手助けをしていることが多い。

 そのたびにヘラヘラと、蕩けた顔をするのだが。

 果たして、それで良いと本人が理解しているのかは疑問だった。



「うーん……」



 これは、入学式当日に迎えに行く必要がありそうだな。

 俺はそう思いながら、自分で作った豚の生姜焼きを口に運ぶのだった。







 そんなわけで、当日。

 俺は比奈の家――朝倉家の前に立っていた。

 母さんの話によると、ご両親はすでに海外に出立しているとのこと。だから、この中にいるのは比奈一人だけ、というわけだが……。



「……おかしい」



 俺は思わず、そう呟くのだった。

 何故かというと――。



「さっきから、チャイム連打してるのに出てこない……」



 そういうことだった。

 先ほどから、十秒間隔ほどでチャイムを鳴らしている。しかし、幼馴染みが出てくることはおろか、返事すらなかった。俺はしばし考えてから、ドアに手をかける。

 すると――。



「おい、待て……」



 鍵が、かかっていなかった。

 すんなりと開いたドアから中をそっと、覗き込む。

 そうすると、いの一番に視界に飛び込んできたのは予想外の光景だ。



「な、なんだよこれ……!?」



 そこにあったのは、物がめちゃくちゃに散乱した玄関。

 それだけではなかった。あらゆる物が無造作に打ち捨てられているのは、ここだけの話ではない。進んでいくと分かったのだが、リビングも台所も、ほぼすべての場所が散らかっていたのだ。それらのことから、俺の脳裏には最悪の事態が思い浮かぶ。



「比奈……!!」



 俺は大急ぎで、二階にある幼馴染みの部屋へと向かった。

 走りにくい階段を駆け上がって、すぐ右手。そのドアを力強くノックした。



「お、おい……嘘、だろ?」



 ――反応は、ない。



 ただ、鍵は開いているらしい。

 俺は自分の喉が恐ろしいほどに乾いているのを感じながら、ドアノブに手をかけた。そして、ゆっくりとそれを開く。

 すると視界に飛び込んできたのは、ある意味で想定外の光景だった。




「………………は?」




 思わずそんな声が出る。

 何故なら、取っ散らかった部屋の片隅にいたのは――。




「すぴー……ふにぃ……」




 幸せそうに寝息を立てる、朝倉比奈の姿だったから。

 肩までの長さで揃えられた栗色の髪。長いまつげに太めの眉。俗に言う可愛い系とされる整った顔立ちをした彼女は、苺がプリントされた可愛らしいパジャマをややはだけさせながら、眠っていた。比喩でもなんでもなく、そのままの意味で眠っていた。



「…………おい」

「ふにぃ……」



 俺は苦笑いを浮かべつつ、声をかける。

 だがしかし、比奈は一向に目を覚ます気配がない。なので、



「――おいこら、起きろ比奈!!」

「ぴえぇ!?」



 耳を思い切り引っ張りながら、大声で彼女の名前を叫んだ。

 そうするとようやく、比奈は天地がひっくり返ったかのような声を上げながら起きる。それでもまだ、どこか蕩けた顔をしているが。

 俺はひとまず、そんな彼女に向かってこの惨状の説明を願おうと――。



「……あー……! マサ兄だぁ……!」

「ちょ、おま……!?」



 したところで、寝ぼけた比奈に抱きつかれた。

 俺は思わず尻餅をついたが、彼女にケガはさせずに済んだらしい。とにもかくにも、比奈がさっさと目を覚ましてくれないと話が進まない。


 そんなわけで、そこからしばらく。

 俺と比奈による攻防が始まるのだが、今回は割愛しよう。







「えへへー……ありがとうね、マサ兄」

「いや、ありがとうじゃねぇよ……」



 ようやくマトモに会話が可能になった幼馴染み。

 そんな彼女が間抜けた笑みを浮かべているのを見て、俺は大きなため息をついた。パジャマ姿のままな相手に、若干気恥ずかしさがあるが話を進めなくては……。



「……で、この惨状はなんだ?」



 俺は周囲の地獄絵図を見回しながら、そう訊ねた。

 すると、比奈は不思議そうに首を傾げて。


 しかしすぐに、頬を掻きながら笑って言うのだった。




「えへへ、お母さんいなかったらこうなっちゃった」――と。




 …………は?


 俺はそれを聞いて、一瞬だけ思考が凍った。

 そして、改めて周囲を見て思い出す。


 彼女の両親が海外へ発ったのは、一昨日の夜のはず。

 つまり、ほぼ一日の間にこのような状況になったわけだが……。



「いやいやいやいやいや」



 俺はそれを考えて、思わず首を左右に振っていた。

 そんなこと、あり得るのだろうか。玄関のドアに鍵をかけず、家のあらゆる場所をこれでもかと散らかし、当の本人は健やかな寝息を立てているなど。

 あり得ない。

 普通なら、まずあり得ない。



「どうしたの? マサ兄」

「…………」



 それなのに目の前の幼馴染みは、円らな瞳で見上げてくる。

 小首を傾げて、ややはだけたパジャマ姿で。


 俺は思わず手で目を覆いながら、深くため息をつくのだった。

 そして、こう提案する。



「比奈……お前、飯はまだか?」

「うん! 昨日の夜から、なにも食べてないよ!」

「元気に言うなよ。……待ってろ、なにか作ってくるから」



 なんだかんだ、登校時刻までは少しばかり余裕がある。

 手早く食事を済ませて、比奈を高校に連れて行こうと思うのだった。







「んーっ! おいしぃ!!」




 ――で、簡単な朝食を作った。

 食パンと卵があったので、トーストとスクランブルエッグ。

 相も変わらず散らかりまくっている台所は使いにくかったが、ついでに整理しながらどうにか時間内に完成させることができた。

 朝からずいぶんと疲れたが、比奈の蕩けるような笑顔を見ると変に嬉しくなる。



 もっとも、周囲に散乱した物が現実に引き戻してくるのだが。



「……それで、今日の準備はできてるのか?」

「うん、それは昨夜のうちに!」

「よかったよ……」

「どうしたの、マサ兄? そんなに安心した顔して」

「誰のせいだ、誰の……!?」



 ひとまず、入学式の準備はできているらしい。

 俺はそれに心の底から安堵して、空になった皿を手に取った。そして、



「それじゃ、さっさと制服に着替えろよ? もう行くぞ」

「うん、分かった!」



 そう、言った瞬間だ。




「――ば!? なんで、いきなり脱いでんだよ!?」

「ふえ?」




 比奈の馬鹿が、その場でいきなりパジャマを脱ぎやがった。

 俺は思わず視線を逸らし、駆けるように部屋の外へ。

 すると中から、彼女の声が聞こえた。




「あー、ごめんね。マサ兄だからいっか、って思って」

「良くねぇよ!?」




 どうにも反省したのか分からない、そんな幼馴染みの声。

 俺は顔が熱くなるのを感じながらしゃがみ込んだ。

 そして、不意に脳裏に浮かぶのは――。



「…………!?」



 子供の頃より明らかに成熟した、比奈の身体。

 俺はその記憶を必死に頭の中から抹消し、どうにか立ち上がった。

 アイツをそんな目で見るなんて、あり得ない。それに、あってはならない。




 そう考えながら、俺はどこか浮ついた気持ちで台所へ向かったのだった。









「……はぁ、ホントに一時はどうなるかと………」

「あはは~! どうしたのマサ兄、そんなため息なんかついて!」

「…………お前のせいだけどな、これ」



 そんなこんなで、高校へ向けて出発。

 どうにか間に合いそうなので、ゆっくりと歩いていると比奈がこう言った。



「それにしても、嬉しいなぁ……」――と。



 それが、どのような意図を持った言葉なのか。

 俺には分からなかった。


 新生活への期待か、それとも……。



「ところで、さ」



 そう考えていると、ふと忘れていた疑問が浮かんだ。

 それを比奈にぶつけることにする。



「どうして、比奈は親御さんと海外に行かなかったんだ?」



 俺の幼馴染みは、一人暮らしが壊滅的にできない。

 これはきっと彼女自身も、薄々ながら感じていたことだろう。

 それだというのに、どうして比奈は海外出張について行かなかったのか。俺にはそれが、疑問で仕方がなかった。


 だから、それを彼女に訊いたのだが……。




「え? あ、えー……っと、ね?」




 どういうわけだろう。

 比奈は途端に耳まで真っ赤になって、うつむいてしまうのだった。

 俺は答えを急かすことなく、じっと待ち続ける。しばしの沈黙が続いてから、ようやく幼馴染みは面を上げた。


 そして、どこか蕩けるような笑みを浮かべてこう口にする。




「ひみつ……っ!」――と。




 幼馴染みは、少し小走りで先を行く。

 こちらを振り返って、また笑顔。


 俺はそれを見て、つい小さく笑んで思うのだった。




「まぁ、いっか……」




 これから、こんな日々が続くのだろう。

 少し大変かもしれないが、どこか心地良い気もした朝だった。




 


※ご報告

あらすじと内容が被りますので、手短に。

物語の先が気になるというご意見を鑑みまして、作者は現在、大慌てで連載版の準備を進めています。おそらく本日(2021年9月8日)の19時にスタートしますので、よろしくです。


投稿開始いたしましたら、下の方にリンクを貼っておきます。

よろしくお願いいたします。


――――




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[一言] 可愛いけど、だらしなさすぎで結婚したくはないタイプ 旦那が仕事に家事に、倒れるまで働かされるだけ…
[気になる点] 続きが気になりすぎる点。 その他は全て好み。
[良い点] 投稿お疲れ様です(◍•ω•◍) [一言] これ連載したら途中で同居になりそうやねー 連載化するならタイトル変からやね それはそれとして面白いぞ
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