24話:闇の試練
俺たちは無言のまま3時間ほど、進んでいきボス部屋の前にたどり着いた。
「別にあなたが居なくても私一人でクリアできるわ、なんで着いて来てるの?」
アンリが俺に問いかける。
確かに先ほどから、レッサーデーモンたちはアンリが一人で倒している。このまま行けば一人でもダンジョンをクリアできるだろう。しかし、もしもの場合にアンリ一人では危険だろう。
「アンリが一人でボスに挑むよりは、俺も居たほうが少しは安全だろ?」
「別に、普通級のボスならば私一人でも危険じゃないわ、それにあなたじゃ足手纏いになるんじゃないの?」
アンリは俺に辛辣な声を掛ける。それもそのはずでこの一か月で、アンリの実力は既にネオを越している。
今、俺が教えていることと言えば、槍の技術くらいだろう。だが、最近のアンリは慢心していて、槍の技術よりも、魔力によるごり押しで戦っているようだ。
(やはり、急成長にアンリは少し慢心しているようだな)
そして、何故、アンリが急成長をしたのかを考える。
(アンリが急激に成長したのは、ペトラに攫われた時だな……つまり、原初の魂源は、人間と亜人の魔力性質の両方を持つという事か……だったら、ゴーレムと戦った時、アレンの行動を見る限り、あいつは確実にそのことを知っていたな)
人間は周りの人から期待や感謝といった、正の感情によって魔力が増える。逆に亜人は魔石を吸収することで魔力が増える。
つまり、あの時、シルバーゴーレムの魔石をアンリに食べさせたアレンは、一般的に知られていない、亜人の魔力の性質、『原初の魂源』の性質、二つのことを知っていたということになる。
「はは、確かにそうかも知れないな、でも俺のことは気にしないでくれ。もしもの時は見捨てて、囮にでも使ってくれて構わないよ」
その言葉を聞いてアンリは、俺のところを睨みつけた。
「なんでそんなこと言うのよ! 絶対に見捨てないわ、だから、足手纏いになられると困るのよ」
アンリの意思は固いようだった。しかし、アンリを一人だけでボス部屋の試練に行かせるわけにいかない。護衛である俺の意味がない。
「足手纏いにはならないよ、俺だってアンリを守る秘密部隊の一員なんだから、みんなに隠してる力の一つや二つくらいあるよ」
もしもの場合は槍術に関しても本気を出すし、それでも厳しいときは時空魔法を使ってでも、アンリを守るつもりだ。
まあ、今回の普通級のダンジョンで、早々そんな事態にはならないとは思うが、
「そういえば、そうだったわね……力を隠しているのも嘘じゃないようね」
アンリは俺が、秘密部隊に所属していることを思い出したようだ。
「でもわざわざ、ポンコツのふりをする必要があるの?」
「ハハハ、ポンコツのふりとは手厳しいね。でも、そっちの方が周りから警戒されないだろ?」
「警戒はされないけど周りから見下されたりして、嫌な思いをするじゃない」
別に演技なのだから、それを周りから見下されても俺はなんとも思わない。合コンの時にいじられ役になって、おいしいところだけ貰って行くときと同じだ。まあ、それとは少し違うかも知れないけど、
「別に気にしてないよ」
俺がそう言うと、アンリは「変な人」と呟いた。
「それよりも、足手纏いにならないから俺も付いていってもいいかい?」
アンリは少し考え込むと、「それだけ言うなら、わかったわ」と頷いた。
そして、アンリはボス部屋の扉に手を掛ける。
「じゃあ、開けるわよ」
アンリは喉をゴクリと鳴らし、扉を押した。
アレンたちから事前にダンジョンの難易度を聞いているとはいえ、初めての試練に緊張しているのだろう。
扉が少しずつ開いていく。そして、俺たちは部屋の中に入った。
ボス部屋に入ると、そこは50mほどの立方体になっていて、部屋の中心には魔法陣のようなものが書かれている。あそこからボスが出現するのだ。
「ここがボス部屋ね……」
「そうだね」
俺は返事をしながらも、異常事態が起こってないか、警戒をして周りを見渡す。
「ようやくここまで来た、私はさらに強くなれる」
アンリは感慨深そうにそう呟いた。
「そこの部屋の真ん中の模様になっている場所からボスは出現する……油断はダメだよ」
「ええ、わかってるわ」
俺の注意喚起にアンリは返事をする。
次の瞬間、ボス部屋の中心に魔力が集まっていき、部屋が光に包まれた。
「眩しい、」
アンリが呟く、次の瞬間、ボスモンスターが出現した。
その見た目は、先ほどのレッサーデーモンを170㎝ほどの人並みの大きさにしたような見た目をしていて、手には槍の矛先が三つに別れている三叉槍のような武器を持っていた。
アンリはいつでも動けるように、瞬時に戦闘態勢に移行した。
「ボスモンスターだ、気を付けてあいつは魔法を使うよ」
アンリはボスモンスターを見つめながらも頷いた。
「知ってるわ、あとあなたは手を出さないで、私だけで決めたいの」
どうやら一人でボスを倒したいようだ。
「分かったよ、でも危なくなったら手伝うけどいいね?」
「そんなことにはならないと思うけど分かったわ」
アンリは俺の言葉に頷く。俺は手を出さずに助言だけ出すことにした。
「闇の普通級は、闇を身体に纏わせて姿をぼやけさせる、闇付与がある。そして、この状態の時に体に触れられると対象の精神を操る、精神操作を使われるから気を付けて、ほんとだったら闇の普通級の魔法は遠距離攻撃は無いから、遠距離攻撃で決めきるのが一番だけどね」
俺はギルバードから聞いた知識をアンリに伝える。知っているとは思うが一応だ。
俺の言葉に頷くと、アンリは魔力を高めて、地面を蹴りだした。
一か月前からは考えられないほどの速度だ。
悪魔とアンリの槍がぶつかり合う。
(今のところイレギュラーは無さそうだな)
俺はこのままなら大丈夫だな、とアンリの戦闘を眺めた。
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