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23話:後悔と復讐

 先ほど倒した1mほどの小さな悪魔をレッサーデーモンと呼ぶことにしよう。

 俺たちは、その悪魔を倒し続けて、一時間ほどダンジョンの奥に歩き続けた。

 ちなみにほとんどの悪魔をアンリが倒していたため、俺はほとんど何もしていない。


「早く魔石を取りなさいよ」


「わかってるよ」


 俺はアンリに言われて、短剣を使い、レッサーデーモンの胸から魔石を抜き取る。


 俺は先ほどからこの調子で、荷物持ち兼雑用に徹している。


「しかし、アンリはよくこの中で魔力を使えるな」


 俺の場合は、3年間ほとんどの間、時空の伝説級ダンジョンの中に居たため、負の魔力に慣れているが、アンリの場合はこの一か月で魔力操作を練習し始めたはずなのに凄いことだと思う。


「へ? ダンジョンの中は魔力が多いから、魔術を使いやすいんじゃないの?」


 アンリは首を傾げる。


 だがそれは違う。確かにダンジョンは魔力が多いがそれは負の魔力がだ。そして、人間は聖の魔力を使うため、負の魔力の多いダンジョンの中では、魔力は練りずらいとされている。

 

 どうやら、彼女は一般常識が少し欠如しているらしい。


「それは亜人の特性だね、一般的に人間は聖の魔力、亜人は負の魔力を使うとされている。聖と負、二つの魔力は反発しあうんだよ、つまり、負の魔力の多いダンジョンのような場所では、人間は逆に魔力を使いずらくなるんだ」


 アンリの頭の上に?が浮かぶ。

 俺の言葉を聞いても彼女はピンと来ないようだった。


「……でも私は亜人じゃないのに、ここでは魔力を使い易いわ」


「それはアンリの『原初の魂源』の力だと思う」


「そうなんだ……でも、みんな『原初の魂源』がどうのって言うけど、一体、『原初の魂源』とは何のことなの?」


 アンリは疑問を問いかける。どうやら彼女自身も自分の力のことをあまり知っていないらしい。しかし、俺も具体的な力などはわからない、なので『原初の魂源』について知っていることを話すことにする。


「『原初の魂源』というのは、全ての魔力の始まりとされている。だから、負の魔力の影響を受けないのだと思う」


「じゃあ、なんで私は『原初の魂源』を持っているの?」


「流石に、そこまではわからないな」


 俺の知っていることは、ほんとに僅かだ。まだ世界の真実の一端しか知れてないと言ってもいいだろう。『原初の魂源』それから派生する『大罪』と『美徳』、魔力の深いこと、これらのことを俺は深くは知らない。聖教会が隠して歴史はあまりにも大きいのだ。


「なるほどね、じゃあもう一つ質問するわ」


「うん、いいよ」


「あなたやクオンは、何故、私を守ろうとするの?」


 アンリはそう言って、俺の目を見つめる、どうやら、嘘はつけないようだ。

 そして、彼女の目に見つめられて、心が全て見透かされるような感覚を覚える。


「前も言った通り、王国も含めて、他の国に悪用されないためだよ。まあ、特に聖教会かな」


「ふーん、でもあなたたちの目的は私を守ることだけじゃないはずでしょ、クオンほどの実力者が所属する組織の目的がそれだけのはずがないもの」


 アンリの言葉は、なかなかに的を得ていた。

 確かにアンリを守るのは目的までの過程の一つに過ぎない。


「まあね、でも俺たちの目的達成には、アンリを守るのは必須条件なんだ」


「なるほどね……じゃあ、何が目的なの?」


 アンリの眼が俺の魂を見つめる。


「俺たちの目的は、聖教会の手によって歪められた、この偽りの世界を正すことだよ。そして、亜人や髪の色などと言った差別を無くすことだ」


 俺たち、闇に潜む者(ダンケルハイト)の第一の目的は、聖教会の打倒だ。そして、この世界に蔓延する差別を無くすこと、これに嘘はない。


 そして、アンリは俺の言葉に嘘は無いことがわかったのか、ため息を吐く。何故かアンリは呆れているようだった。


「はぁ、そんなことは無理に決まってるでしょ?」


 確かに、強大な帝国でさえ、正面衝突を避けるほどの大きな力を持つ聖教会を打倒すること、それに、この世界に根付いている差別を無くすことは大変なことだ。

 しかし、俺が、いや俺たち、闇に潜む者(ダンケルハイト)のみんなが努力して、汗水、涙を流して努力をして強くなったのはそのためでもある。


「無理じゃない、やるんだよ……」


 俺は、心の底から、本当の覚悟を吐き出す。


「いや無理よ! 私が一番分かってるの、亜人や私たちがどれだけ差別が根深いか……そして、あなたに亜人たちや髪の毛で差別されている人の気持ちのなにがわかるの?」


 何がわかるか……クオン()も、転生当時は白髪や奴隷のせいで差別をされてきた。確かに俺は差別されてきた中では恵まれた生活をしてきたかも知れない……それでも、俺は差別される気持ちはわかる。


「差別されて来た人の気持ちは分かるつもりだよ」


「あなたには分からないわ! 金髪のあなたに何がわかるのよ!」


 俺はアンリに差別される苦しみが分かると、真実を言ったが、しかし、俺の気持ちは彼女には届かないようだった。


 そして、アンリは俺に向けて言葉を続ける。


「私は、私なりのやり方で世界を変えて見せるわ……そのためにもまずは復讐を果たすわ」


 どんなやり方で世界を変えるのかはわからない。だが、その目からは……アンリの目からは、狂気を感じさせるほどの覚悟だけは感じとれた。そして、その目は、まるで、ティリスの目を見ているようだった。


「君のやり方は否定するつもりはない……だけど、復讐は何も残らないよ、ただ終わった時に虚しいだけだ」


 俺は戦争の時の経験を語る。

 ヴォルフや仲間たちが敵に傷つけられた時は怒りに頭を支配された。しかし、敵に復讐をして全てが終わった時はどうだった? 俺に何か残ったか? 俺に残ったのはただヴォルフたちの想い(魔力)だけだったろう。


「だったら、せめて死んだ人の想いを背負って、もう二度と後悔しないように立派に生きたほうがいいと思うよ」


 俺の目をアンリは見つめる。そのまま数十秒が経つと、アンリは話し始めた。


「あなたは意見は確かに間違ってはいない……でも、そんなに割り切れるほど、私は器用じゃないわよ」


 そう言ってアンリは後ろを振り向かず、そのままダンジョンの奥へ行ってしまった。


――『人はそんなに器用な生き物ではないんだよ』


 その姿は、3年前の仲間を失ったばかりの俺を見ているようだった。


(あの時、俺はルーイのお陰で割り切ることが出来た……アンリも誰かに頼ることでその事を割り切るしかない……でもアンリの過去をほとんど知らない俺に何が出来るんだ?)


 そのあまりにも(くら)い後ろ姿に、声を掛けることは出来なかった。


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