19話:名声とクラン戦
ゴーレム事件から、一か月が経った。
この一か月にあったことを簡潔に話すと、まずはあの依頼の後、アレンたちはB級冒険者になり、さらにはイレギュラーである、A級のゴーレム二体討伐の名声を手に入れ、アルゲース領で一番有名な冒険者たちになった。それにより『ランカーズ』のクラン評価も金ランクになり、アルゲース領で二番目の金クランになった。
そして、今日はそれ以外にも、おめでたいことがある。
「ギルバード! おめでとう!」
「ああ、ありがとう。ここまで早く特別級になれたのは、みんなのお陰だよ」
『ランカーズ』のクランハウス、大広間で、ギルバードが特別級魔法師になったことを祝福するパーティをしていた。
クランハウスは大きく、数十人が入れる大広間に、18人の若い男女が集まっていて、部屋には大きめのテーブルが何卓も並んでいる。
クランメンバーたちは、そのテーブルの上に並んでいる料理や飲み物を楽しみながら、ギルバードに祝福の声を掛けていた。
「ところで、ネオ、ちょっといいかな?」
ギルバードが、アレンたちと食事を楽しむ俺に声を掛けてきた。この一か月でアンリはもちろん、アレンたちや他のクランメンバーと表面上は仲良くなったが、『ランカーズ』の奴らはどこか俺を見下しているような視線で見てくる。特にひどいのはギルバードであった。そのため、ネオと同じ金髪の、目の前の男が苦手であった。
「マスター、何か俺に用があるのかな?」
だが、俺はそんな感情を微塵も見せずに返事をする。
「うん、少しだけ話をしようと思ってね……ちなみにもう魔法には慣れたかい?」
魔法と言えば、ネオは聖の普通級魔法師になった設定なのだ。
この一か月で俺とアンリはD級冒険者になり、ダンジョンに入ることが出来るようになったため、俺はアレンたちと一緒に聖のダンジョンの試練を受けに行き、そこで加護を手に入れた。
まあ、これはあくまで試練をクリアしただけで、実際には聖の適性を持たない俺は、聖の魔法を手にすることは出来ない。
「まあ、そこそこに慣れたかな……それにしても念願の魔法を使うことが出来て嬉しいよ、アレンたち、いや、ギルバードも含めて『ランカーズ』のお陰だな」
本当は、聖の魔法を俺は使うことは出来ないが、聖の希少級までの魔法ならば、時空魔法での代用が可能なため、アレンたちは俺が聖の魔法師であると完全に思っているはずだ。
「それならよかった……そういえば、そろそろアンリも加護を手にしないといけない、闇のダンジョンに行く際は、アレンたちのパーティのみんなで行ってもらうことにするが、くれぐれも闇のダンジョンのことは内密で頼むよ」
ギルバードはそう言って、俺の肩に手を置いた。表情は笑っているが、内面は俺のことを人間として見ていないことを知っている。こいつらは俺が奴隷時代に蔑んできた軍人たちと同じ目をしているからだ。
もし、俺がアンリの秘密をばらそうものなら、こいつは直ぐに俺のことを殺すだろう。
「ああ、もちろんだよ……こんなに良くしてもらっているのに、バラすわけがないじゃないか」
ギルバードは俺の目を覗き込む。
「……ならよかったよ、君には期待しているよ」
「ありがとう! 俺の実力が活かせるのが嬉しいぜ」
お互い、嘘まみれの言葉を掛け合うと、ギルバードは他のクランメンバーと話に行った。
「ねぇ、なんの話をしていたの?」
ギルバードが居なくなると、アンリが話掛けてきた。
「アンリは可愛いから、手を出すなよってだ」
俺がそう言うと、アンリは不機嫌になる。
「私は嘘がわかるのよ、誤魔化さないで!」
「アンリの事を話していたのは本当だよ」
「ふーん、じゃあなんの話をしていたのよ」
「それは――「大変だ!」
俺がアンリの質問に答えようとした時、どこかに行っていたボブが、大声を出して、急に大広間に入ってきた。
「『隻眼の竜』がクラン戦を申し込んできた!」
ボブが言う、『隻眼の竜』とはアルゲース領で、最大の冒険者クランであり、一番目のゴールドクランでもある。そして、俺が冒険者ギルドに初めて来たときに、アンリに絡んでいた冒険者が所属するクランも『隻眼の竜』である。
「やはりか……」
ギルバードが小さく呟いた。そして、予想に反して、アルゲース領、最大のクランにクラン戦を申し込まれたというのに『ランカーズ』のメンバーたちは全然、焦りを見せていない。焦っているのはボブたちの数人だけだった。
「ボブ、焦らなくてもいいよ、前に言っただろ? 別に僕たちは、初めから『隻眼の竜』とクラン戦をしてもいいと……だから、むしろ丁度いいね! この機会に『隻眼の竜』を倒して、俺たちの名を轟かせようじゃないか」
ギルバードは聖の特別級魔法師になり、俺とアンリ以外のクランメンバーも全員、希少級になっている。戦力が充実してきた、この機会を丁度いいと思ったのだろう。
「ああ、俺達ならいけるな!」
「そうだ」
「『隻眼の竜』は所詮、人数だけだ、俺たちに敵うわけがない」
ギルバードの宣言に、ほとんどのクランメンバーたちは同意している。
「今日は僕の祝賀会パーティだったが、隻眼の竜とのクラン戦は僕たちが勝つ予定だ、つまり、事前に祝勝会も兼ねてパーティを楽しもうじゃないか!」
ギルバードの自信に感化され、ボブのように、不安がっていた数人のクランメンバーたちも歓声を上げた。
「「「おお!」」」
「お、そうだ、どうせなら、このまま二次会も続けようぜ!」
誰かの声に、さらに『ランカーズ』のメンバーたちは盛り上がる。
「それいいな! ギルバード、どうせだし、二次会はどっかの飲み屋でやろうぜ」
盛り上がるメンバーたちの意見を聞いて、ギルバードは少し考える。
「……そうだね、そっちの方が周りからも目立てるし、いいと案だと思う」
「やったぜ! みんなで飲み屋に向かうぞ!」
「「「おお!」」」
みんなはそう言って、飲み屋に移動した。
ちなみに、この世界の成人は15歳のため、飲酒も15歳から出来るので、ルール違反ではない。
俺はみんなの盛り上がりをよそに、この一か月、『ランカーズ』で過ごした違和感について、少し考え事をしていた。
(『ランカーズ』は、何を隠しているんだ? ティリスが言うには、元13騎士の候補生というのは嘘らしい、でもアンリはそのことを嘘じゃないという、それに戦闘も明らかに慣れている、アンリのことや、この世界の秘密などもいろいろ知っている風だ……まるでこの世界を元から知っているような……もしかして……あいつらはこの世界をループしている?……何度もこの世界を生きてきたなら今までの辻褄が合う、この世界は時空魔法も存在しているのだし、あり得なくはない)
辻褄が合いすぎていて、これしかないと思い。納得をする。
(……これはティリスに報告をしておいた方がいいか)




