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17話:とある転生者と偽りの英雄

 まるで深海のような深い紺色のローブを被り、フードから覗く髪の毛は新雪のように真っ白。


 手に純白の槍を持った男は、俺の方を見つめ疑問の声を上げた。


「偽りの英雄?」


「いや……気にしないでください、それよりもあなたは何者なのでしょうか?」


「俺はただ散歩をしていただけだが?」


(正直に言うわけないか……)

 

 まだ彼が味方と決まったわけではない。むしろここにいるということは、俺たちの事情、もしくはアンリの『原初の魂源』のことのどちらかを知っているということだろう。


 俺が最善の策を考えている時、


「クオン! 助けに来てくれたのね」


 アンリが偽りの英雄に声を掛けた。どうやらアンリは彼と知り合いのようだ。


(クオンと言うのか……)


 アンリの言葉にクオンは反応を見せ、


「……なんで言っちゃうんだよ……」


 何か小言で呟いた。


「ああ、助けに来たよ。ところでどこか体調悪いところはないかい?」


「私は大丈夫! それよりもネオが大変なの!!」


「ネオ? それはあっちで倒れていた金髪の男かい?」


 クオンは、ネオが飛ばされた森林の方を指さす。


「あ……そ、そうよ! で、大丈夫だった?」


「ああ、大丈夫だったよ、彼なら先に安全な場所に連れていったよ」


(偽りの英雄は白髪、時空魔法の適性を持つ。だが、この世界では時空のダンジョンは聖教会が支配している。そのため、もしこいつが時空魔法を使えるならば、どこかの権力者、もしくは聖教会と繋がりがあるだろう……もしそうだったなら、こいつと関わるのは危険だ)


 俺がクオンの正体を探ろうと思考を巡らせている間にも、クオンとアンリの会話は続いていた。


「よかった! ねぇ、ところであなた、あれ倒せるの?」


 アンリは、ボブたちが戦っているゴーレムたちを指さす。


「まあ、余裕かな? 少し待ってろ」


 クオンがゴーレムたちの方へ向かおうとしたので、俺はとっさに静止の声をかける。


「あ、待ってください! ミスリルゴーレムは耐久力が高いです。普通に倒すことは難しいでしょう。そしてマジックゴーレムは魔法を使います。近づくこともままならないでしょう。さらにゴーレムは身体の核の魔石を破壊しない限り、身体を修復し続けます……つまり、体の中のどこかにある魔石を破壊する、それが唯一の討伐方法です……慎重に戦わなければならないうえ、気を抜けばこちらがやられてしまいます」


 俺はゴーレムの特徴と弱点を並べつつ、慎重に戦えと提案する。しかし、


「慎重すぎると時間がかかる……お仲間さんはもうキツそうだぞ?」


 クオンの言葉に、俺はボブたちの方を見ると、なんとか持ち堪えている様子だった。近距離戦は危険なため、魔法を使って牽制をして戦っている。おそらくもう魔力の残量は少ないだろう。


「しかし、ゴーレムは身体の硬さと再生力が相まって、耐久力の高いモンスターです。反撃を受けてしまえば、伝説級魔法師でさえ負ける可能性があります……」


 俺は、クオンにいかに上位のゴーレムが厄介であるかを伝える。


「要するに、反撃させずに一瞬で倒せばいいんだろ?わざわざ魔石探さなくても、全身細切れにすればいいだけの話だ」


 俺は、それが出来るならゴーレム討伐なんか誰も苦労しねぇーよ、と心の中で呟きながらも、丁寧に反論する。

 

「まあ、硬いゴーレムにそれが出来れば苦労はしないのですがね」


俺が先程から敬語を使い丁寧に対応しているのは、目の前の男が、俺たちの知らない、この世界のみの重要キャラの可能性が高いからだ。


「だろ? じゃあ行ってくる」


「俺の話を聞いてましたか? ま、まっ――」


 静止を振り切って、クオンは地面を蹴り、ゴーレムの方向へ飛び出した。


 ズボン、地面がクオンの飛び出す、スピードに耐えきれずに抉れる。


 そして、魔法を使っていないにも関わらず、彼は一瞬で十数メートル先のゴーレムたちの目の前に立っていた。


「見えなかった……早い!」


 俺はその予想以上の速度に驚く。自分とは桁違いの魔力操作と身体能力だ。


 ゴーレムたちがクオンの攻撃範囲に入ると、その瞬間、ミスリルゴーレムは両断された。


「な!? 魔法? いや、槍を振っただけだ……」


 クオンは槍を振り抜いていた。


 A級でも上位の実力と耐久力を持つミスリルゴーレムを両断するなんて、凄まじい魔力浸透の練度だろう。


 さらに次の瞬間、魔法を使おうとしていたマジックゴーレムまでも、両断された。


「ステータスが違いすぎる……これで魔法を使えるならS級以上は確実だ……そんな実力を持っているなら、やはり、俺たちが知らないはずがない」


 俺は驚きのあまり、思わず思考が口から漏れてしまった。


 そして、それはボブたちも同じだったようで、目の前に現れた圧倒的な実力を持った男を、警戒の目で睨んでいた。


「誰だ?」

「敵なの?」

「強敵」


 ボブたちの反応も気にせず、クオンはゴーレムが再生する暇も与えずにゴーレムたちを細切れにしていった。


「そんな……俺たちでさえ歯が立たないゴーレムたちを、こんな一瞬で……」


 ボブの呟きに俺も同感だ……それに俺たちがこんなにも驚いているのは、ローブから覗く顔を見る限り、目の前の男はせいぜい10代後半といった見た目をしているためだ。それに地球での日系の顔立ちをしているため、連邦系人種の血が入っているのだろう。


(連邦は、確かにゲームのストーリーにはあまり関わってこない国だ……しかし、それでもこの若さでこの強さを持つ英雄が存在していたならば、俺たちが知らないはずがない……もし連邦出身だとしても、やはりゲームでは存在しない英雄か……それに――)


「――この若さでここまでの強さを手に入れるなんて、どんな才能値をしているのよ……」


「チーター」


 俺の思考に被せるように、メリッサが呟き、キャロが同意する。


「なぁ、あんたは敵なのか?」


 驚いている俺たちを横目に、ボブが問いかける。こういう時にあまり物事を考えないボブの存在はありがたい。


「はぁ、それは君たち次第だろうな……ただ俺は王国陣営とだけ言っておこう。あとは喋るつもりはないから、俺は帰るとするよ」


 どうやら、クオンは王国陣営ということ以外は何も話したくないらしい。


「それと、このゴーレムたちの討伐の実績は君たちにあげよう」


 そう言い残し、クオンこと、偽りの英雄は森林の方に消えていった。



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