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11話:俺の魔法はチート

 ペトラの魔力の質が変わる。


 大地のような茶色の魔力が、炭のようにどす黒くなっていく。聖の魔力が負の魔力に変わっていく。


 それだけではない。身体も変化していく、失ったはずの手足が生えてくる。肌は白色から、どんどん黒く変わりやがて褐色になる。筋肉の量が増大していく。


 まるで、魔物のようだ。


「ガァァァァァア!」


 ペトラは理性を失い、今にも暴れ狂いそうだった。もはや彼は人間ではなくなっていた。



――――



 目の前のペトラを見て、俺は思考を巡らせる。


「これは、魔物……いや、亜人のようでもあるな。これが『原初の魂源』の魔力の影響なのか?」


「コロス!」


 俺が思考を巡らせていると、ペトラの姿が消えた。


 気付けば、目の前には剣が迫っていた。


 ズドン、とクオンがいた場所が抉れる。


 しかし、そこにはクオンは居なかった。


 ペトラの後ろに転移していたのだ。


「速いな……しかも、俺の魔力で出来ている空間が抉れているということは、負の魔力を剣に纏わせているということか……」


 俺の声が聞こえたのかペトラは後ろを振り向き、剣で攻撃してくる。


 今度は、ペトラの一撃を槍で受ける。


 その瞬間、俺の身体はまるで紙のように吹き飛ばされた。


 俺はその勢いのまま壁に叩きつけられそうになるが、一旦逃げるために空中に転移をする。


 (速さよりも力が凄まじい……これを喰らうのはまずいな……耐久力はどうだ?――時空切断ディメンショングラディウス)


 不可視の斬撃がペトラの身体を切り裂く。


「ガァァァァァア」


 しかし、その魔法は、体を両断せず、皮膚に少しだけ傷を付けただけだった。


 (……固い、負の魔力を纏っているから魔法が効きづらいのか……このまま少しずつ傷を増やしていけば倒せるが、俺の魔力が持たないぞ)


「コロス」


 攻撃をされて空中に俺がいることに気が付いたのか、ペトラが地面を蹴り上げ跳躍してくる。


(丁度いい、魔法が効かないなら物理攻撃はどうだ?――攻撃遅延カウンタークロックワイズ)


 魔法の使い、何もない空間で槍を振るう。そして、ペトラの攻撃を避けるために転移する。


 その瞬間、ペトラの胸が切り裂かれた。


 そこの空間には何もないはずなのにだ。


(さっきよりも傷が大きいな……やはり有効なのは物理攻撃か)


 攻撃遅延カウンタークロックワイズとは、魔法ではあるが、魔力を使った攻撃ではなく、物理攻撃を遅れて発生させるという魔法だ。今のように槍の攻撃をすると、その場所に遅れて攻撃を発生させる。

 厳密には違うが、分かりやすく説明すると、攻撃がその場に留まる、つまり地雷的な仕組み、と考えてもいいだろう。


(何!? 傷が治っている)


 ペトラを見ると、時空切断ディメンショングラディウスと槍の攻撃によって出来た傷が塞がっていた。


(物理攻撃は有効だが、傷が塞がっていく……つまり傷が治る前に一気に殺さないとこいつは倒せないということか)


 傷が塞がった、ペトラが向かってきた。俺はそれを回避しつつも、思考を続ける。


(しかし、分厚い筋肉と纏う負の魔力のせいで一撃では殺せそうにない……これは魔力量を大量に消費するが、やるしかないか)


「世界を織りなす時空よ、我が魔力により起き上がれ……


 俺は魔法を詠唱すると、それを危険だと感じたのかペトラは攻撃をしてくる。しかし、詠唱をしつつも、それを無詠唱で転移を使って避けていく。


 ……そして時空を支配する力にて、世界の理を改変しろ。


 時空の加護よ我に力を――世界停止(クロノシステーゼ)


 その魔法が発動した瞬間、世界が止まった。否、止まったのはアルカディアの中の時間だけだ。


 俺は動きの止まったペトラに近づく。


「すまないな、俺の魔法はチートなんだよ」


 そう呟いて、俺は槍を振り下ろした。



――――



 俺はペトラを倒した後、現実世界に戻った。そこには既に闇に潜む者(ダンケルハイト)のメンバーたちがいた。


「アンリちゃんを急に私たちのところに転移させて来ないでよ」


 アンリを背負ったエリザベスが俺に話し掛けてくる。


「ちょっと緊急事態でね」


「ふーん、ところでどうだった?」


 エリザベスが聞いてくる。ペトラとの戦闘のことを聞いているのだろう。


「ペトラは、零団の団員は強かったよ。流石は帝国最強の精鋭部隊なだけあった……それに『原初の魂源』の力なのかは分からないが、アンリの血を舐めたペトラは明らかに強くなっていた。しかし、それと引き換えに理性を失っていた……あれが『原初の魂源』の魂能の一つなのか?」


「うーん、わからない! でもお嬢が言うには『原初の魂源』は全ての魂の始まりだって言ってた気がする」


 全ての魂の始まりとはどういう事だろうか? それにあの力は明らかに異質だ。人間では扱うことの出来ない負の魔力を纏い、身体能力が桁違いに上昇していた。俺の知っている『魂能』は確かに強力だが、『原初の魂源』の力は明らかに異質だろう……今度、ティリスに会ったら聞いてみないと。


「ところで、ベスはどうだったんだよ? 無音の(サイレント)殺戮者(キラー)の隊長と戦ったんだろ?」


「神話級になったベスちゃんにかかれば、余裕に決まってるよ」


 エリザベスは最近、雷の神話級魔法師になった。彼女はこの前の戦争で名声を手に入れたため、魔力量が増えたため、神話級の試練を受けるための条件が満たされたのだ。そして、そのダンジョン攻略を俺とティリスが補佐し、晴れて神話級魔法師になったのだ。


「まあ、俺とティリスにダンジョン攻略を手伝って貰ったもんな……よかったな神話級になれて」


「へー、そういう言い方しちゃうんだ、三年前は私に散々ボコボコにされていたクオンくん」


 確かに俺はメラレーン戦争が終わってから、何度かベスやティリスと模擬戦をした。初めの方は圧倒されていたが、俺がダンジョンの試練を攻略し特別級魔法師になると、逆にベスを圧倒した記憶がある。


「確かに……あれ? 最近はそんな雑魚にボコボコにされているエリザベス様は、どうなんでしょうね?」


 俺の言葉を聞いたベスの頬がピクピクと動く。どうやらムカついているらしい。


「まあ、私が神話級になってからまだ戦ってないし、今だったら雑魚なクオンくんをボコボコに出来るね」


 エリザベスの煽り性能は高い。今度は俺の頬がピクピクする。


「まあ、それは無理な話だね、ベスでは俺に勝てないよ。弱い犬ほどよく吠えるって言うじゃん」


「吠えているのはどっちかな、ここで実力差をわからせてあげてもいいんだよ?」


「望むところだ。俺たちに手伝ってもらって強くなったと勘違いしているベスに思い知らせてあげるよ」


「ぶっ殺す!!」


 どうやら煽り合いは俺が勝ったようだ。俺はベスと睨み合い、お互いに魔力を高める。


「クオン様! エリザベス様! 何を考えているのですか!! ここは帝国領ですよ!」


 俺とエリザベスは、ハッ、とここは帝国領だったことを思い出す。


「冗談だよ、全くミスティは真面目なんだから」「そうだよ、まさか帝国領で仲間同士が戦闘だなんて、するわけないじゃん」


「本当ですか? しかし冗談だったとしても状況を考えてください」


 ローブから長い耳が覗かせた女性はそう呟いた。彼女の名はミスティ。亜人であるエルフであり、闇に潜む者(ダンケルハイト)のメンバーの中で、一番真面目でしっかり者だ。

 ここで反論すると余計に怒られることを分かっているため、素直に謝る。


「「すみませんでした」」


 どうやら、エリザベスも同じ考えだったようだ。



――――



「じゃあ、クオンは先にアンリちゃんを街まで連れていって、そのまま今晩はアンリちゃんの護衛を頼むね」


「了解、でもベスたちを転移で送らなくてもいいのか?」


 俺が先に街へ戻りアンリを護衛していたら、ベスたちは自力で戻ってくることになるだろう。まあ、ここには伝説級魔法師以上しかいないので、直ぐに戻ってくることが出来ると思うが。


「……私たちはここの後処理とやらきゃいけないことがあるからね」


 エリザベスはそう言って、ペトラによって破壊された大地を見る。


「言っとくが俺のせいじゃないからな? 敵の魔法攻撃のせいでこうなったんだよ」


 俺は自分のせいではないと弁解する。


「誰もクオンのせいなんて言ってないよ……あれ被害妄想?」


 どうやら、ベスは人を煽らないと話せないらしい。今度は俺がその煽りに負け、キレた。


「ぶっ殺す!!」


 その時、ミスティが間に割り込み、こちらに近づいてくる。


「クオン様! 早く帰ってください」


 ミスティがまた俺に怒る。


「はい。すみませんでした」


 俺は情けない声で謝り、アルゲース領に転移した。


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