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10話:環境と才能

 上には上がいる。それをペトラ・ハンデンベルクは知っている。


 例えば、ヘイトス帝国の皇帝であるロキ、零団団長のプラッツ、認めたくは無いが零団副団長のフィン、その他にも零団の上位団員には敵わないと思う者が多くいる。


 だが、それは強大な帝国だからだ、王国で考えれば、フェール・タラッサ以外には負ける気はしなかった。

 でも今はどうだ? 目の前の王国の男に圧倒されているではないか。


 音速を超える一撃がペトラを殺そうと迫る。それをギリギリで防ぐ。それを何度も繰り返していく。

 時には攻撃を防ぎきれず、身体に傷がつく


「はぁはぁ、貴様は何故、三年間でどうやってそこまで強くなれた? それともメラレーン戦争の時は全力を出していなかったのか?」


「いや、あの時も全力を出していたよ。俺はこの三年間でここまで強くなったんだ」


 三年前は特別級魔法師に苦戦するレベルだったのに、今では伝説級魔法師の中でもトップレベルである私以上の力を手に入れたのか、とペトラは戦慄を抱いた。


「貴様は元々奴隷だったと聞いている。その前は実は貴族だったのか?」


「いや、俺は貴族ではないが? それがどうした?」


 常軌を逸した天才たちがいることを知っていたはずだ。ロキやフェールのことだ。だが、彼らはどこか遠い存在だと思っていた。あの二人は生まれながらに恵まれた才能や環境を持っていたと。


 だが、目の前の男は、戦争の前までは奴隷だったと聞いている。恵まれた環境(貴族)の生まれでもないのに、なぜ才能(魔力量)があるのだと……何故、三年でそこまで強くなれたのだと。


 ペトラは初めて敗北感を抱いた。

 男爵家の産まれであるペトラ以上に、恵まれた環境がある貴族たちに負けるのは、言い訳が出来るからよかった。私が彼ら(フェールやロキ)のように恵まれた環境(公爵や皇族)であれば、彼ら以上に強くなれたと。

 だが目の前の男は貴族ではないという。つまりペトラは、産まれた環境を言い訳に自分を正当化することが出来なくなったのだ。


――故に、ペトラは本当の意味での敗北感を初めて抱いた。


「私は認めるわけにはいかない、貴様よりも弱いことを、貴様よりも才能が無いということを」


 ペトラはクオンに魔法を使った。その魔法に対抗するために、クオンの気が魔法に逸れた瞬間、近くにいたアンリを引き寄せた。


「おい、白迅の悪魔! そこから動くな! こいつがどうなってもいいのか?」


 ペトラはアンリの首に剣を突き付ける。


「人質のつもりか?」


「そうだ、私が何をしても動くなよ」


 クオンをそう言って、脅した。


「皇帝に渡さなくてもいいのか?」


 確かに、『原初の魂源』を皇帝に渡さなければ、俺の身に危険が及ぶかも知れない。だが、ここで負ければそれは即ち『死』を意味する。ならばどちらを選ぶのかは明白である。


「ああ、どうせ負けたら死ぬんだ。だったら命令なんて関係はない……私は本気だぞ? 絶対にそこから動くなよ」


 ペトラの言葉は本気だと分かったのか、クオンは槍を手放して両手を上げる。


「降参だよ、アンリを殺されるわけには行かないからな」


「わかれば、いいんだ……ではそこから一歩も動くなよ」


 ペトラはクオンに釘を刺すと、地魔法の無重力(ゼロ・グラビティ)を使い、空中に飛んだ。

 さらには魔力をさらに高めて、クオンを殺すために魔法の詠唱を始めた。


「世界を創造する大地よ、


 我が魔力により起き上がれ。


 そして雄大な大地を構成する力にて、


 地の恐れを知らぬものを押しつぶせ


 地の加護よ我に力を


――如臨深淵(アビス・グラビティ)


 その魔法が発動した瞬間、クオンを中心に大地が割れる。


 圧倒的な重力の力にて、全てを潰す。


 一度それ(重力)に囚われたら、逃げることは出来ない。重力によって身体は潰れ、底が見えないほどの深淵の穴に引きずり落とされる。


 凄まじいほどの轟音とともに、半径数百メートルにも及ぶ重力の力はクオンや周りの木々諸共全てを呑みこみ深淵に叩き落す。


 魔法の効果が終わると、そこには森一つを呑みこむほどの大きな穴が出来ていた。


 その大穴は、底が見えないほどの深かった。


「ははは、ざまぁみろ! 元奴隷の分際で歯向かうからそうなるんだ」


 ペトラはそれを見て、クオンは死んだと確信をした。


 しかし、その時、手に抱えていたアンリの姿が消えた。


「もしやこれは転移(テレポート)か、やばい……」


 透明な魔力がペトラの周りを包み込む。


「――空間創造(アルカディア)


 次の瞬間、白く何もない空間に飛ばされた。


「ここは空間創造(アルカディア)の魔法空間の中か……」

「その通り、俺の世界へようこそ」


 死んだと思っていたはずのクオンがペトラの目の前に居る。


如臨深淵(アビス・グラビティ)を喰らったはず、どうやってそこから抜け出せたのだ?」


 ペトラはクオンに問う。


「何か忘れていないか?」

「何だ?」

「俺が時空魔法師だということだよ」

「そ、そうか、だからあの時、重力の力に呑みこまれても貴様は転移(テレポート)で抜け出したのだな」


 ペトラは感情が高ぶりすぎて、時空魔法のことを忘れていたのだ。クオンはやれやれと首を振ると呟いた。


「もう終わりにしよう、この空間は俺の世界だ」


 その言葉を聞いて、ペトラは負けを悟った。


 魔法というのは、その魔法を使った使用者の魔力を中心に発動する。だからこそ発動を確認してから避けることも出来る。

 だが、時空魔法の空間創造(アルカディア)は、使用者自身の魔力で空間が構成されている。つまり、ここでは空間創造(アルカディア)使用者の魔法は、発動と同時に当たることを意味する。


 次の瞬間、ペトラの手足は吹き飛んだ。無詠唱での時空切断ディメンショングラディウスを速着で喰らった。


「お前には聞きたいことがあるからまだ生かしてやる、だが、魔力を高めた瞬間に殺すから気を付けろよ」


 見下すような目で睨まれたペトラは、地面に這いつくばって頷くことしか出来なかった。


「一つだけ聞いていいか?」

「ああ」


 ペトラの言葉にクオンが頷く。


「何故、貴様は私よりも強い?」


「はっきりとは分からないけど、俺がここまで強くなれたのは……もう後悔をしないように、と強くなる覚悟で辛い訓練をしてきたからだ」


「だが、人間は後悔をして成長をする生き物だろう」


「確かに後悔は人を成長させる。だがその考えを持っている奴には成長は訪れないだろうな、だって後悔や失敗をしての次に活かせばいいやと心のどこかで思うようになるからな……後悔や失敗をして成長出来る奴は、次はもう絶対にしないようにしようと思える奴だけだよ……俺はもう後悔をしたくない。だから俺は力を求め続けるのだ。この世の全てを敵に回しても勝てるようになるまでずっとな」


「そうか……私は貴様のように強そうになれないな……」


 目の前の男を見ていると、二人の男を思い出す。


 一人目は大嫌いな零団副団長だ。あいつは雷を使い神速の槍の一撃を使う。目の前の男も加速(クイック)を使い神速の槍の一撃を使ってくる。戦い方は似ているが、同時にクオンとフィンの生き方は似てないとも思う。フィンは才能に負けて逃げている、その生き方はむしろペトラに似ているだろう。


 二人目はペトラの尊敬する皇帝だ。クオンの生き方はどちらかと言えば、彼に似ている。どちらも私以上の才能を持っていて、どちらも私以上の強さを有するにもかかわらず、もっと強くなろう、という意思がその目からひしひしと感じられる。


――クオンもロキも魔力が輝いているのだ。


 だが、私の魔力は輝いてはいない。そして、もう私は輝くことは出来ないだろう。だったら、


――もっと()ちよう。


 そして、魔力を濁らせよう。


――クオンの輝きを消すくらいに。


 倒れた時に落としたのだろうか、ペトラの目の前でアンリの血を入れた注射器が割れていた。

 注射器から血が溢れ出ている、その血は『原初の魂源』の魔力を多く含んでいる。


 ペトラはその血を舐めた。その瞬間、


 ペトラの身体から、どす黒い魔力が溢れ出した。



高頻度に投稿して行きたいので、「面白い」「続きが気になる」と思った人は、ブックマーク、評価をお願いします。

作者の励みや原動力になります。

それと、作品をよりよくしていきたいので、時間があればでいいので、感想、レビューも是非お願いします。

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