表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/62

5話:アンリと忍び寄る影

 俺がアレンたちとパーティを組んで一週間が経った。


 この一週間で毎日一緒に依頼に行ったため、表面上は仲良くなれたと思う。他にもアンリのためにみんなで訓練をしたこともあった。



 今日もいつも通り、冒険者ギルドの中でアレンたちと集合した。

 だが、アレンたちは別の用事があるらしく、今日は依頼を受けないことになった。

 

「俺たちはクランの奴らと一緒にダンジョンに潜ってくるから、アンリのことを任せたぞネオ」


 今日は俺がアンリと2人きりだ。


「アンリちゃん今日は2人きりだね、まるでデートみたいだ」

「そうね」


 いつもならここで罵倒されるが、何故か今日はアンリは罵倒してこなかった。


「じゃあ、俺たちは行ってくるから、くれぐれもアンリに変なことするなよ」

「変なことをしたら切り落とします」


 アレンとメリッサが俺に忠告してくる。


(そんなことしないわ、どんだけこのネオ(キャラ)は信用されてないだよ……)


「わかってるよ、安心してくれ暴漢とかからも守ってみせる」

「ならいいんだ、ネオの槍の腕はそこら辺の奴より()上なんだし、頼んだよ」

「そこら辺の奴より()上じゃなくて、凄腕な」

「はいはい、わかったよ、じゃあ頼むぜ凄腕の槍使いさん」


 俺が、いつも通りおちゃらけたキャラで冗談を言うと、アレンは慣れた対応をしてきた。

 もう一週間も一緒にいたため、慣れたのだろう。


「じゃあ、行ってくるな」

「行ってらっしゃい」


 アレンたちはそう言ってギルドから出ていった。



「アンリちゃん、これからどうする?」


 アレンたちが居なくなると俺はアンリの方を見て、意見を聞いた。


「少し訓練に付き合ってくれる?」


 アンリは俺に訓練を付けてほしいようだ。


「いいよ、じゃあ冒険者ギルドに訓練所を借りに行こうか」

「わかった」


この一週間、一緒にいてわかったがアンリはどこか力を求めている感じがする。まるで俺と同じで、


 

――――



 冒険者ギルドの訓練所は、申請すれば借りることができる。

 しかし、冒険者は大体が訓練などをしないような奴らが多いため、訓練所には人はほとんど居なかった。


「じゃあ、あなたの槍術を教えて頂戴」

「俺の槍術? でも槍は冒険者向きじゃないよ?」


 基本的には冒険者は槍を使いたがらない。

 何故なら槍は長いため取り回しがし辛く、森林やダンジョンといった場所だと不利になるためだ。

 他にも大きなモンスター相手には、剣と違って点の攻撃である槍は致命傷が与えづらいというデメリットもある。

 もっとも、魔力探知ができて魔石の位置を確かめることができれば、貫通力の高い槍の方がメリットになるが、魔力探知は使いこなすのが難しいし、魔力消費も大きいため冒険者は使いたがらない。


「それでもいいの」

「冒険者向きじゃない槍術を教えてほしいのは何故だい?」


 アンリは俺の質問を聞くと、暗い表情になった。

 

「殺したい奴がいるの」


 アンリは復讐のために力を求めているのだろう。だが復讐は何も生まない、まあ、俺が言えた義理じゃないが、


「……そいつは悪い奴なのか?」

「この国では英雄とされているわ、でもあいつは私の家族を殺したわ」


 アンリの暗い感情が高まる。これ以上聞かない方がいいだろう。俺だって自分の深い事情に首を突っ込まれたら不愉快だし、


「わかった、じゃあ教えてやるよ」

「……ありがとう」


 俺はアンリに槍術と魔力操作の指導をすることにした。



――――



「いいか、槍はただ突くだけじゃなくて、身体全体を使って捻るんだよ」


 俺はアンリの腰に手を置いて、体の動かす感覚を掴むために補助をする。


「ちょっと、どこ触ってるのよ」

「これは訓練なんだから、仕方ないだろ」

「……わかったわ」


 訓練のために、嫌がるアンリをなだめながらも槍術のコツを教えていく。


 それから少しして、アンリが槍の突きかたのコツを掴んでくると、次は打ち合いの練習をした。


――――



 アンリが俺に向かって、槍を突き出してくる。

 しかし、その一撃はどこか遠慮をしているようで、全然鋭い攻撃を放てていない。


「本気で来い! そんなんじゃ強くなれないぞ」

「……わかってる」


 どうやら、アンリは根本的に暴力に向いていないようで、人に武器を向けると自然と腰が引けている。


「復讐はおすすめはしないけど、そんなんじゃ無駄死にするだけだぞ、俺を復讐相手だと思ってかかって来い」


 俺がそう言うとアンリの攻撃は鋭くなった。


「絶対にあいつだけは殺すんだ」

「いいぞ、その調子だ」


 そのまま、アンリの体力が続く限り槍の打ち合いを続けた。



――――



「はあ、はあ」


 アンリが地面に倒れ込んでいる。


「次は、魔力操作の練習だ、ほら立って」


 俺は次の訓練をするために、アンリの手を引いて立ち上がらせる。


「なんであんたはそんなに体力があるのよ」

「訓練したからだよ、あとはアンリは槍の使い方にまだ慣れていないから、余計な体力を使っているんだろ」

「ふざけた奴だと思ってたけど、少しは認めたわ」

「それはどうも、じゃあその調子で魔力操作の訓練も始めるぞ」

「わかってるわよ」


 こうやって、誰かに教えるのも懐かしいなと思いつつ、俺は4年前に訓練所の奴らに教えた時のように、アンリに魔力操作を教えて行った。

 

 

――――



 訓練が終わると、もうすっかり空は暗くなっていた。


「今日は訓練に付き合ってくれてありがとう……あなた伯爵家で槍を教えていただけあって教え方が上手かったわ。教官をしていたのは本当だったのね」


 伯爵家で槍を教えてたのは嘘だが、4年前は俺が部隊のみんなを訓練をしていたため、慣れていたのだろう。

 そして、俺はアンリの初めての感謝の言葉に少し感動していた。いつもはボロボロに貶されているのに。


「どういたしまして、今日やったことを毎日続けろよ……あと最後の言葉は余計だ」


 俺がそう言うと、アンリは俺の前では初めて笑った。いつもどこか陰のある表情をしていたので、初めて見る表情だ。


「ふふ、あとそっちの口調の方が私は好みよ」


(口調? あ、やば……つい熱は入って演技を忘れちゃったな)


 アンリに指摘されて、俺はいつも通りの口調に戻っていることに気づいた。


「教官時代を思い出しちゃってね、ごめんねアンリちゃん」

「その口調はやめて、きもいわ」


 流石にそこまで拒否されたら、俺もこの口調を続ける訳にはいかないだろう。


「わかったよ」


俺がそう言うと、アンリは何か小さな声で呟いた、

「それに……なんで隠し事をするの、私も言えた義理じゃないけど」


「なんか言った?」


 俺は聞き取れずにアンリに聞き返した。


「うんうん、気にしないで」


 アンリは首を横に振って否定をした。


「なんでもないのならいいんだけど」

「うん……もう暗いし、宿に帰りましょう」

「そうだな」


 アンリが何を言ったのか気になりながらも、俺たちはお互いに別れた。



――――



 宿に向かって歩いていると、急に通信機が反応した。しかも緊急時用の通信機がだ。


 俺は周りに人がいないことを確認すると、通信機をローブのポケットから取り出す。


「こちら、クオンだが、何かあったか?」

『久しぶり、こちらベスちゃんだよ! 少し緊急事態が起きたから伯爵家まで来れる?』


 通信機の相手は、アルゲール伯爵家の現当主のエリザベス・アルゲールだ。戦争の時はとても世話になった。そして、戦争が終わってからも何度も世話になっている。


「了解! 今から向かう」


 ベスからの連絡で、俺は宿には帰らずにそのまま伯爵家に向かった。



――――



『ランカーズ』のクラン室にクランメンバーの全員が集まっていた。


「可能性は低いが今日の夜に、アンリが帝国の秘密部隊の襲撃に遭う。もしも帝国のやつらが俺たちのところにも来たら、みんなで亡命をしろ、勝ち目はない」


 ギルバードがそう言うと、クランメンバー全員が頷いた。


「でも、この世界ではのアンリは、まだ『魂能』を使ってないんだし帝国側にばれては、いないんじゃないか?」


 アレンはギルバードに言った。


「だからもしもの場合だよ……そのために今日は、君たちもアンリから離れてもらったんだ」

「なるほどな……」

「うん、もし帝国の奴らに僕らがアンリをかくまっていると誤解されると面倒だからね」

「そうだな」


 ギルバードやアレンたちが話しているのは、ゲーム内のストーリーでは今日、アンリが帝国に攫われるイベントがあるからだ。


 このイベントは、アンリが『魂能』持ちであることを帝国に知られると起こるイベントで、もし知られていた場合はアンリが冒険者登録をして一週間後に帝国の襲撃が起こる。


 そして、このイベントは起きてしまうと回避は不可能だ。何故ならプレイヤー達が育ちきっていない序盤のうちに、帝国の秘密部隊がアンリを攫いに来るからだ。さらにアンリとプレイヤーが一緒にいると、秘密部隊は目撃者を消すためにプレイヤーを殺しにくる。

 そのため、今日はアレンたちはアンリと別れて、ダンジョンに探索に行ったのだ。


 ちなみにこのイベントの帝国の秘密部隊は、精鋭中の精鋭で、この時点のプレイヤーのステータスでは倒すことが不可能だ。さらにプレイヤーがもし王国側に助けを求めても、王国の弱小な魔法師の戦力ではこの部隊を撃退することも出来ない。


――故にこのイベントが起きた場合は、追ってバッドエンドになる宿命である。


 このイベントを回避するためにも、アレンたちはアンリとパーティを組んで、アンリの『魂能』が暴走しないように監視していた。


「まあ、アンリを暴走させていないし、大丈夫だと思うけどな」


 アレンがクランメンバーを安心させるように言葉をかけた。


――――



 アレンたちが作戦会議をしている中、外はすっかり日が落ちて暗くなっていた。

 そして、アルゲース領のとある場所で十数人の人影が話しをしていた。


「原初の魂源の女は見つけたか?」

「ああ、どうやら都市の中にいるようだ」

「なるほどな、では行くとするか……目撃者は全員殺せ」

「了解」


――世界の転換点の夜が始まろうとしていた。

ネオ ※演技中のステータス

魔力量:E

身体能力:D

魔力操作:D

精神力:?

魔法:加護無し

槍術:B


アンリ

魔力量:G+

身体能力:F

魔力操作:E

精神力:B

魔法:加護無し

槍術:E


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ