3話:転生者
都市アルゲール、アルゲール伯爵家が治める都市であり、FOでは王国ストーリーの始まる都市の名前だ。
そんな都市にアレンたちのクランの『ランカーズ』の拠点があった。
大きめの三階建ての最上階の一室のクランリーダー室、そこで2人の男たちが話していた。
「アレン、あの事はどうなった?」
アレンに声をかけるのは、クランのリーダーであるギルバードだ。もちろん転生者である。
「アンリをパーティに誘うことは出来た。だが『隻眼の竜』とゴタゴタがあったな」
「よくやった。あと、『隻眼の竜』は大丈夫だ、もしクラン戦になっても、その時にはこちらのメンバー全員がB級冒険者で希少級魔法師になっているよ」
ギルバードは自信満々にそう言い切った。
「名声値は足りてるのか?」
「ああ、充分だね、ギルドにダンジョンの入場許可を貰ったから明日から僕たちは潜って、現時点で普通級の奴らを希少級に上げてくる」
ダンジョンに潜るには、D級以上の冒険者がギルドから許可をもらうことが必要である、そして魔法師を強くするには、ダンジョンで試練を受けることが必要だ。
「俺たちのパーティも行くのか?」
「いや、明日はアレンたち以外の2パーティで行くことにする。君たちはアンリの護衛とランク上げを手伝ってくれ」
「了解!」
『ランカーズ』はアレンたちのパーティ4人と、ギルバートのパーティ6人と、もう一つのパーティ6人の、合計16人の少人数クランで、全員が15歳と若く、さらに魔法を使える。
しかも全体的な能力も高いので、少数精鋭のクランだ。
そんな15歳と成人したばかりのメンバーで、全員が魔法を使えるという凄まじい戦力には秘密がある。
それはこのクランは全員が、FOの元ランカーの転生者と言うことだ。
「そういえば、なんかアンリに絡んでた、金髪のチャラそうな男がいたんだけど、そいつが俺たちのパーティに入れてくれ、ってうるさいんだよな」
「金髪か……この時点では教会は、アンリのことに気付いてないはずだが、まさか教会の手のものじゃないだろうか?」
何故こんなにもアレンたちがアンリに拘るのかというと、アンリは王国ストーリーの主要キャラで、アンリを守ることがバッドエンド一つ目の回避に繋がるのだ。
そして、アンリは自身の持つ『魂能』によって、いろいろな不幸が訪れる。その不幸の一つが教会に捕まることだ。
これを回避するためには、アンリが『魂能』持ちであることを気づかれないようにする必要がある。
そのためにアレンたちのクランは活動しているといっても過言ではない。
「金髪と言っても、多分、光の魔法を使えそうになかったぞ?」
「魔力の質的にも?」
「ああ」
ギルバードが気にしていたのは金髪というところだ。金髪は光の魔法適正がある髪色で、光魔法使いはほとんどが教会が管理している、だからネオのことを警戒していたのだ。だが、魔法が使えなそうと聞いてギルバードは警戒を解いた。
「じゃあ、そいつもパーティに入れてやればいいと思うよ」
「なんでだよ?」
「考えてみて、僕たちは今まで少数精鋭でやってきた、今更、黒髪のG級冒険者を入れたら周りはどう思う?」
いきなり、C級以上のメンバーしかいないクランに、魔法の使えないとされる黒髪、それもG級が入ったら周りからは不思議に思われるだろう。
「あー確かに違和感があるな」
「だから、僕たち『ランカーズ』は戦力増強の意味も込めて、その金髪の男もパーティに入れてやればいいんだよ。ついでにどうせそいつはモブキャラでしょ? 何かあったら囮に使ったり、見殺しにすればいい」
アレンやギルバードたちは未だにこの世界をゲーム感覚で生きている。あくまで優先順位はゲームに関わってくる主要キャラのことだけなのだ。
「そうだな、そっちの方が合理的だな」
「でしょ? だから金髪はパーティに入れてくれ」
「了解! じゃあ明日も金髪が絡んで来たらパーティに入れるとするわ」
「うん、頼んだよ」
――――
俺は翌日もアンリに声を掛けに行った。周りにはアレンたちもいるが、関係はない
「いやーアンリちゃんは今日も可愛いね」
「そろそろ、きもいからやめて欲しいんだけど」
やはりアンリに拒否されるが、これも周りに警戒されないためだと自分に言い聞かせて、俺はさらに距離を詰めていく。
「酷いじゃないか、俺はこんなにも君に惹かれているのに」
ネオはアンリの手を取る。
「まじで無理だから、触らないで」
昨日から、ずっと付き纏っていたせいだろうが、アンリは流石に鬱陶しそうだ。
「まあまあ、アンリも落ち着いて。そういえば君はネオって言ったっけ? うちのパーティに入りたいって昨日言ってたな、よかったら入るか?」
アレンが、ネオとアンリの間に入った。
「え、いいの? 昨日はダメだって言ってたじゃん」
「……うちのクランリーダーが、金髪が絡んで来たって言ったら、光の適性持ちは、貴重だからクランに入れろってよ、今うちは戦力拡大中なんだよ」
魔法の適正は基本的には血筋である、故に光の適正を持つ人間は、大体は教会の血筋で産まれて、基本的には冒険者にはならないのだ。なので光の適正を持つ俺は、アレンたちからみたら貴重に見えるのだろう。まあ、本当は違うが好都合かと思い、俺は了承する。
「なら俺もパーティに入れてくれ」
「おっけ、じゃあとりあえず自己紹介をしようか」
アレンがそう言って、ボブたちを集めた。
「じゃあまずは俺からだ、名前はアレン、使う武器は剣で火の普通級魔法を使える、どの距離でも戦える。そしてこのパーティのリーダーでもあるから、何かあったら俺に相談してくれ」
アレンが自己紹介をすると、他のパーティメンバーも自己紹介を始めた。
「俺はボブで、使う武器は斧で雷の普通級魔法を使える、近距離戦は俺に任せとけ」
「私はメリッサ、武器は基本的に使わないけど、短剣で水の普通級魔法師よ、遠距離から魔法で支援する感じね」
「私はキャロ、武器は細剣で風の普通級魔法師。風魔法と細剣を使って遊撃をする」
アレンたちが自己紹介が終わると、今度は俺とアンリに目線を向ける。
「アンリとネオはどんな感じだ?」
「私はアンリ、武器はまだ使えないし、魔法も使えないけど、これから成長するわ」
どうやら、アンリは全然戦えないようだ。今までどうやって生活してきたのだろうか、ティリスに探らせるか……
俺が思考しているとアレンが声をかけてきた。
「ネオはどんな感じなんだ?」
「知ってると思うが、俺はネオだ、よろしくアンリちゃん、槍を使っててる、めちゃくちゃ凄腕なんだぜ、凄いだろ? まあ、魔法は使えないがその分は槍を使えるから近距離は任せてくれ! アンリちゃんをしっかり守ります」
ネオの設定を俺は話す。
魔法は使えないが槍を使うことができると言う設定だ。
「ほんとかよ」「絶対嘘だよね」「嘘はよくない」
俺が凄腕だと言うと、周りからは疑問の声が上がる。
「まあ、わかったよ。じゃあとりあえずパーティの連携と実力確認ついでに、戦闘系のクエストでも行くとするか」
アレンが、俺とアンリにそう言った。
クエストとは、冒険者が受けることのできる依頼のことだ、ゴミ掃除からモンスター退治、薬草採取と色々な依頼がある。まさしく、冒険者は何でも屋だ。
「あーごめん、俺、今日はアンリちゃんに会うことしか考えて無かったから、まだ戦闘の準備してなかったわ、ちょっと準備してきてもいいか?」
俺はそう言うと、みんなが笑った。
「アホすぎだろこいつ」「ボブ並みだね」「きもい」
アレンが笑いながら、俺に声をかける。
「何やってんだよ、早く準備して来いよ」
「了解!」
俺はギルドを後にした。
――――
俺はギルドを出ると、路地裏に入り、周りに誰もいないことを確認すると通信機を取り出した。
「ティリス、今大丈夫か?」
『何か緊急事態?』
「ああ、アンリと同じパーティに入れることになった、そして、これから戦闘系のクエストに行くらしい、どの程度まで力を見せていい?」
『まずはアンリに危険が及ばない限りは、魔法は使わないで、そして弱いから使えないって、パーティを追い出されないように、槍の上級クラスまでの実力は見せ時なさい、なんでそんなに強いか聞かれたらあの言い訳を使いなさい』
「了解!」
『それに気を付けてね……』
「わかってるよ、俺は死なないの知ってるだろ」
その後、ティリスと詳細な打ち合わせをして、俺は冒険者ギルドに戻った。




