2話:金髪の男
その後、しつこくアレンたちにパーティに入れてくれと頼んだが相手にされず、ギルドを追い出され、傷心のまま、金髪のチャラ男、ネオは一人肩を落として宿に帰った。
部屋に入るや否や、ネオは魔力探知を発動させ、周りを探る。
「周りに俺のことを監視している奴は誰もいないか……演技は終わりだな」
そう呟くとローブを脱いだ。
すると身体が光りだし、そこから現れたのは別の人物だった。
髪は金髪から白髪に、顔は白人風から日本人風に、ローブで隠れて見えなかった体はしっかりと鍛えられていて、引き締まっている。
「疲れたな」
別人になったネオは呟いた。
――――
さて、金髪の男、ネオと扮していた俺だが、実はこの能力はティリスの『魂能』の力だ。
能力はローブにかけられていて、このローブを着ると姿が別人になる仕様だ。
ここでは魂能のことはあまり詳しく話さないが、魂能とはゲームでいうユニークスキルと考えてもらっていい。魔力を使って魔法とは違う特殊な能力を使うことができる、さらに魂能は14個、いや15個あるが、これは世界に一人一つづつしか持つことの出来ない能力だ。
俺はとりあえず、ポケットから通信機を取り出した。
「こちらクオンだ。聞こえるかティリス」
『聞こえてるわよ、クオン』
通信機の相手は、この国の英雄でもありタラッサ公爵家のフェール・タラッサだ。
公に知られているフェールという名前は偽名で、ティリスというのが本当の名前である。
結局、あの戦争が終わり、英雄と呼ばれるようになった俺は、王城に行き報酬を貰おうとした。
しかし、それをティリスに止められたのだ。
「危険だから、あなたは王城には行かないほうがいい」と。
何故なら俺は、この世界に来てから、一度王城で過ごしたことがあるらしく、俺はその事を覚えていない。多分、王城にいた記憶を誰かに改変されている、とティリスは言っていた。
だから、俺は王城に報酬を貰いにはいかず、ティリスお抱えの光魔法師に奴隷の首輪だけ、外してもらい、今はこうして姿を隠して行動をしている。
戦争が終わってからの三年間は、俺の記憶を消した王国の闇、ティリスが言うには、教会の力に対応するために力を付けていたのだ。
教会というのはゲーア聖王国に総本山があり、ユピテル魔法国とヘイトス帝国を除いた、多くの国の宗教となっている。
その勢力は絶大で、しかも歴史をいいように改変しているため、人々からの信仰の厚い。
黒髪や白髪が魔法を使えないとされているのも教会の改変のせいだ。
他にも教会が裏で行っている、闇のことは多い。俺がこの世界を堂々と歩けるようになるには、教会を打倒しなければならないということだ。
そして、俺のこれからの目標は大まかに四つある。
・空白の記憶を取り戻す。これは教会の『魂能』持ちの仕業であるらしく、そいつを殺すことで達成できるため、そいつを殺す。
・ルーイが妊娠できる身体に戻す。これは『純白の魔女』ならば治せるらしく、純白の魔女を探す。
・教会に対抗出来るように強くなる。ただし、これはかなり難しい課題だ。
・特殊な『魂能』持ちであるアンリを保護する。
今の俺にできることは、強くなるために必要な冒険者ランクをあげること、アンリを保護することだ。それも教会に悟られないように、目立たずにやらなくてはならない。
俺は一旦思考を停止して、ティリスに今日のことを報告した。
「とりあえずアンリに接触したが、パーティを組むのは無理だった。それに横から出てきた、『ランカーズ』とかいうクランのメンバーたちにアンリを取られた……あいつらは教会の手の者か?」
今日、アンリをパーティに誘おうとした時に横やりを入れてきた、男女4人組を思い出す。
世間一般的に使えないと周知である黒髪をパーティに誘うメリットはない。
つまり、あいつらも何かしら目的があって、アンリに近づいたはずだ。教会の手の者の可能性が高いだろう。
『教会はまだアンリに気付いてないわ、だからそれは無いと思う……ただ、怪しいところがないか、ランカーズを調べてみるわ』
だが、俺の予想に反して、教会にまだ動きはないらしい。
だが警戒しておく必要があるだろう、もしからした教会以外の帝国などの勢力の可能性が十分にある。
「了解、じゃあ俺は引き続き、アンリの監視を続ける」
『わかったわ、また何かあったら連絡して』
俺は通信機を遮断し、ベットに横になる。
「はぁ、しかし、ネオのキャラ設定は、演技とはいえ、きつすぎだろ……なんだよ、アンリに一目ぼれした設定で近づいて行けって、確かに一番周りから警戒されないからいいと思うが、俺の精神的にきつすぎる」
ベットで一人愚痴りながら、睡眠についた。




