1話:黒髪の少女
ここは冒険者ギルドだ。隣には酒場が隣接されている。
そんな中に15歳ほどの男女4人が集まっていた。
「今日はゲームのストーリーが始まる日だ。みんな準備はいいな?」
「おう」
「ターゲットがいたら、すぐに俺たちのクランに誘うぞ」
「了解!」
ひそひそと彼らが話していると、いかにもチンピラのような風貌をした男たちが彼らに近づき、声をかけてきた。
「おいおい、ここはガキが来る場所じゃないぞ? 帰ってママのおっぱいでも吸ってろ」
チンピラのような男たちが若い男女に声をかける。それを見て、周りの冒険者たちはざわついた。
「あいつら死んだな」「相手は『ランカーズ』のメンバーたちだぞ」「新入りか?」
チンピラは周りのざわめきに苛立ちの声を上げる。
「お前ら俺らはD級冒険者だぞ! これからダンジョンに行って、魔法を手に入れて有名になるんだ。お前らごときがごちゃごちゃうるせぇ、俺の力を見とけよ!」
チンピラたちは若い男女に殴り掛かった。
「……ボブ」
「ほいよ、――雷付与」
しかし、チンピラの攻撃が当たる。しかし、その前に、若い男の一人が雷を身体に纏って男たちを殴り飛ばした。
その男たちは殴られた勢いでギルドの壁に当たり、気を失う。
「Dランク冒険者かなんだか知らないが、俺たちはC級冒険者で魔法も使えるぞ」
「ボブ、もうそいつは意識ないぞ?」
「アレン、こういうのはセリフまで言うのがテンプレだろ? ツッコムところじゃないぞ」
この二人はボブとアレン、FOでは世界の上位にも入ったことがある、ランカーと呼ばれる元プレイヤーの転生者だ。
「アレン、そんな奴と話すと馬鹿が移るよ」
こちらはランカーの転生者、メリッサだ。青い髪の女子である。
「みんな、そんなことよりもそろそろ来るよ」
こちらはキャロ、緑髪の女子で、他の三人と同じランカーの転生者だ。
キャロが予知した通り、ギルドのドアが開き、黒髪の15歳ほどの女子が入ってきた。
整った顔をしているがこれといった特徴の無い見た目をしている。
彼女はギルドの受付まで歩いていき、声をかける。
「私はアンリ、15歳よ、冒険者登録よろしいかしら?」
「かしこまりました。ではこちらの登録用紙をお書きくださいませ」
「分かったわ」
アンリはそういうと登録用紙に名前や年齢、緊急の連絡場所や現在泊まっている宿などを記入していく。
「これでいい?」
「はい、大丈夫です。こちらは冒険者カードです。身分証明にもなるため、無くさないでください」
ギルドの受付はそう言って、アンリに冒険者カードを渡した。
「アンリ様は初めて登録されたということで、G級冒険者からのスタートでございます。依頼を受け、クリアすることで冒険者ランクが上がります。それにより、ダンジョンに入れるようになったり、危険地帯に入れるようになったり、貴族の御親兵になったり、軍に推薦されたり、といったメリットがたくさんあるので、是非ランクを上げていってくださいね」
「わかったわ」
冒険者というのは誰でもなれる職業だ。しかし、ダンジョンに入れるようになるにはD級以上のランクが必要である。そして、それ未満の冒険者たちは、素行の悪い者が多く、街にいるチンピラとそれほど違わない。
そんなチンピラの多い冒険者ギルドに黒髪の少女が行ったらどうなるか目に見えていた。
「嬢ちゃん、冒険者になんかならずに俺の女になれよ」
先ほど気絶した者とは違うチンピラのような男が、アンリに声をかける。
「いやに決まっているでしょ」
「おいおい、黒髪のお前が冒険者として大成するのは不可能だぞ? 俺は善意で言ってるんだ」
白髪と黒髪は、世間一般的には魔法の使うことの出来ない髪色だと言われている。
しかし白髪は『純白の英雄』のおかげで前ほど差別はされていないが、黒髪は魔法の使えない無能と差別されている。
つまり、男はアンリのことを貶しているのだ。
そこにアレンたち4人組が来た。
「おい、おっさん。そのくらいにしとけよ」
チンピラは横目でアレンを確認する。
「……さっきの奴らか、だが俺はC級冒険者でクラン、『隻眼の竜』のメンバーだぞ? お前たちの『ランカーズ』よりも格上だ」
冒険者は一人一人がランク付けされている。そして6人で1パーティとされており、パーティごとにもランクが存在する。さらに数パーティ以上が集まった集団をクランよび、こちらにもランク存在する。
冒険者とパーティは、アルファベットで下からG→F→E→D→C→B→A→S→EXとランク付けされていて、
クランは下から鉄→銅→銀→金→白金→魔法銀→魔法金→神鉄となっている。
ちなみにアレンたち四人は、それぞれC級冒険者でC級パーティだ。
所属するクランは『ランカーズ』、ランクは銀クランだ。
そのクランのリーダーは、とあるB級冒険者であり、そのメンバーの大部分はC級冒険者や、成人したばかりという、若手冒険者たちのクランとは思えないほどの勢力を持っている。
しかし、結成されたばかりのクランということもあり、目の前の男のクランの『隻眼の竜』、金クランには敵わない。
だが、そんなことはアレンにはどうでもよかった。
「もしクラン戦になっても構わないと、クランリーダーから言われていてね、この子に手を出すなら俺たちも引くことはできない」
「ほう、俺たち隻眼の竜と争うというのか」
「ああ、だがお前たちも俺たちと争いたくないだろ」
「……それはどうかな」
アレンと男が白熱して言い争っている。
しかし、気がつくと、そこには件の黒髪の少女は居なかった。
「アレン、そんなおっさんのことはどうでもいいけど、またアンリが絡まれてるよ」
アレンにメリッサが伝えたが、アレンは男との言い合いに夢中で、こちらのことなど気にもとめない。
アンリは今度は金髪の175㎝、20代前後ほどのローブを着た男に声をかけられていた。
「君可愛いね、アンリちゃんって言うんだね、俺はネオって言うんだ。ところで俺とパーティ組まない?」
「あなたランクは?」
アンリはネオに問いかけた。
「最近冒険者登録したばかりだからG級冒険者だけど、実力はS級以上だよ」
ネオは背中に槍を背負っていて、ローブ姿で全身の体格は見えないが、明らかに弱そうだった。
槍もローブも上等ではなく、強者独特の覇気もない。
「冗談はやめて、貶されるよりも、ナンパの方が不快よ」
「……冗談じゃないのにな、あとナンパじゃなくて本気でパーティを組みたいと思っているよ」
「じゃあなんでわざわざ可愛い、とか言う必要あるのよ」
「えーと、それは本心だから?」
「馬鹿じゃないの?」
ネオとアンリが話していると、男をなんとか言い負かしたアレンたちが、2人のところにやって来た。
「兄ちゃん、その子は俺達のパーティに入るんだ。横やりを入れないでくれないか?」
「私はどこのパーティにも入るなんて言ってないわ」
アレンがネオにそう言うと、アンリはその言葉を否定をした。
「じゃあ、アンリちゃんはどんなパーティに入りたいんだ」
ネオがアンリに問う。
「私は強いパーティに入りたいの」
その言葉を聞いて、アレンが身を乗り出してきた。
「じゃあ、俺たちはC級パーティだから、どうだ?」
「C級ね……じゃあ入れさせてもらおうかしら」
アンリは少し考えて了承をした。
「よっしゃ、決定だな! 悪いな兄ちゃん、アンリは俺達のパーティに入るらしい」
「じゃあ、俺もそのパーティに入れてくれ」
アンリがアレンのパーティに入るというと、ネオもそのパーティに入りたいと言った。
「悪いな兄ちゃん、うちのパーティはC級パーティだから、あんたは入れられない」
その言葉を聞いて、ネオはむすっとする。
「なんでアンリちゃんはよくて、俺はダメなんだよ!」
ネオの声がギルドに響いた。
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