エピローグ:偽りの英雄
次の話からはゲームのストーリー開始になります。ここまで読んでくださってありがとうございます。
ヘイトス帝国、帝都の中心にある城の奥にある一室。
燃えるような真っ赤な赤髪、見るものを威圧するかのような紅目、溢れ出す魔力の色が赤くまるで太陽のようで、身長は180㎝ほど、一見細見に見える身体には凝縮された筋肉が付いていた。
容姿端麗、威風堂々と言った言葉が似合う男が座っていた。
男の名前はヘイトス・ロキ・ジュニア、強大なヘイトス帝国の皇帝だ。
「メラレーン戦線が落とされた?」
ロキが周りの男女に問う。
周りの男女は皇帝の近衛兵でもある、帝国軍第0魔法戦団、通称、零団と言われるものたちで、それぞれが他の魔法戦団の隊長以上の実力を持っている、帝国最強の魔法師たちだ。
その零団員の一人、30代ほどの雷のように鋭い雰囲気を持つ男がそれに答えた。
「どうやら王国の策にハマって、フェール・タラッサに一網打尽にされたそうです」
ロキはその言葉を聞くと、無言で椅子から立ち上がり、ドアの方に歩き出す。
それを見て一人の70代ほどの白い髪の男が静止の声を掛ける。老人はプラッツ・シュミット、零団の隊長だ。
「皇帝よ、どこに行くつもりですか?」
「少し戦場にな……」
ロキは憤怒の感情を見せていて、今にも爆発しそうな怒りようだ。
だがそんなロキに、物怖じもせずにプラッツは意見を述べた。
「ダメに決まってるでしょう」
「何故だ? 貴様は余がフェール・タラッサに負けると言いたいのか?」
ロキの怒気がさらに高まり、周りの男女の緊張感が高まる。しかしそんな中でもプラッツは変わらずに意見を述べた。
「それはあり得ないでしょう、あなたが勝ちますよ……しかし聖王国の動きが読めません、もし13騎士中の『魂能』持ちが王国側の援軍としてきたら、厄介なことになるでしょう……どうか我慢してくだされ」
ロキはプラッツの言葉を聞くと、冷静になり自分の席に座った。
「ゴモス平原の帝国兵を撤退させろ、ゴモス平原の戦場では帝国の負けだ……他、二つの戦場はどんな感じだ?」
「優勢でございます」
「では、フェール・タラッサが動けぬうちに他の戦場を今から落としに行くぞ……プラッツはテレポートで余と零団を戦場に連れて行け」
ロキの言葉にプラッツは質問を投げかける。
「いいのでしょうか? もし聖王国にこの魔法のことを知られたら戦争になりますぞ?」
「構わぬ、やれ」
「承知致しました」
――――
ゴモス平原、作戦本部の一室。
「シュナイダー中将、メラレーン戦線で王国軍が勝利しました」
バン・シュナイダー侯爵は部下からの報告を聞いていた。
「……何故だ? 勝てるはずがないだろう」
「それが、『純白の英雄』とフェール大将の策によって、帝国軍が壊滅したらしいです」
バンは少し、考えるような仕草を見せて呟いた。
「純白の英雄か……」
――――
メラレーン戦線を王国軍が取ってから数日が経ち、ゴモス平原の帝国兵は完全に撤退をしていった。
この戦争は、ゴモス平原での王国と帝国の睨み合いの停滞の間に、その上のメラレーンの森林での苛烈な戦いが繰り広げられていたため、歴史上でメラレーン戦争と呼ばれるようになった。
ゴモス平原側、王国軍2万人、帝国軍1万5千人の戦いで、約一週間で、死者は王国側2千人、帝国側2千5百人。
メラレーン森林側、王国軍7千人、帝国軍1万1千人の戦いで、死者は王国側5千人、臍の攻防戦の援軍も合わせて帝国側1万2千人。
さらにメラレーンの森林側での死者の多数は王国側は奴隷兵に対して、帝国側は1万人の正規兵と、元からいた魔法師1千人に、援軍にきた魔法師1千人と帝国側は大打撃を受けた。
メラレーン戦争は王国側の完全勝利といっても過言なかった。
王国はこのことを大々的に発表した。
ーー王国側は2千5百の兵士を失ったが、奴隷兵の犠牲だけで、帝国側の約1万3千の兵士と魔法師を2千人を倒すことが出来た。
メラレーン戦争の勝利は、その武力と知力によって帝国兵を追い詰めた、その魔法を使わない槍の一閃は音よりも速く、その頭脳は全てを見通し、未来までも読める叡智があるとされ、純白の髪を持つ『純白の英雄』
その魔法と知力によってもっとも多くの帝国兵を殲滅し、さらにはメラレーンの臍の周辺数キロに大きな湖を作り出し、難攻不落の要塞を作った、王国の総大将フェール・タラッサ、『湖の魔女』
この二人の英雄の力によって成し遂げられたと――
――――
俺はアレン13歳、転生者だ。そんな俺だがビックリしていることがあった。
これはゲームのストーリー開始前の前日譚の話なのだが、王国と帝国は戦争を始めた、その二国は戦争が始まると三つの戦場で戦うことになる。それぞれ北からシベリオ平原周辺の戦い、アナリア平原周辺の戦い、そしてゴモス平原周辺の戦いだ。しかし、本当ならこの戦争は三つの戦場全てにおいて王国側は負けることになる。
しかし、今回の歴史においてゴモス平原の戦争は王国側が勝ってしまった。『純白の英雄』と『湖の魔女』の二人の英雄によって。
この時点でおかしいことが三つある。
一つ目は『湖の魔女』はフェール・タラッサ公爵という人物はゲームでは登場しない。本来ならタラッサ公爵家はモネ・タラッサが継ぐことになるからだ。
二つ目は王国側の進んだ軍事態勢である。細かい階級制度は本来ゲームには登場しなかった設定だ。
三つ目は『純白の英雄』だ。この人物に関しては名前すら分からなかった。ただ凄まじい武力と知力を持ち、純白の髪で20代前後ほどの若い男性だということだけだ。
「おーい、アレン! そろそろ冒険者ギルドに行くぞ!」
俺が今回の戦争について考えていると、ボブが声をかけてくる。
俺たちは一年ほど前に冒険者になったのだ。
そして今はE級で、もう少しでダンジョンに入れるD級になれるという段階だ。
ダンジョンに入れるようになれば魔法を手に入れられて名声値が一気に稼げる。
しかも、名声値は若いうちの方が稼ぎやすいのだ、それは周りから神童だの天才だのとおだてられるためだ。そのため、成人前までに魔法を使えるようになっているだけで名声値はぐんと上がる。産まれた時から鍛錬をしていたのは、若いうちに名声値を一気に稼ぐためだ。
「わかってる、少し待てよ」
『純白の英雄』か。
ゲームでは聞いたことがなかった英雄の名前だ。『湖の魔女』は少しだけだが、正体に予想がつく、しかし『純白の英雄』は誰のことを指すのか全くわからなかった。
――まるで『偽りの英雄』だな。
まあ、いい。歴史が変わってることを気にしたところで、俺には何もすることが出来ない。
俺に出来るのはただゲームのストーリー開始までに強くなるまでだ。
アレン
魔力量:D
身体能力:E+
魔力操作:C
精神力:E
魔法:加護無し
剣術:E+




