30話:セレスの視点
私、セレス・エイベルは子供のころは、選ばれた人間だと思っていた。
「セレスお嬢様は天才ですね」
「いずれは王国一の頭脳を持つお方になるはずだ」
幼いころから私はなんでも出来ていた、剣術、魔術、勉強の全ての才能があった。特に頭脳に関しては大人や教えてくれる家庭教師にも負けることはないほどだった。
だが、私が10歳ほどの時に、いきなり王国の神童と呼ばれるフェール・タラッサが台頭した。
彼女は様々な発明や発想によって凄まじい頭脳で王国に貢献していったのだ。
さらには彼女は成人前にして特別級魔法師になり、さらに成人した後、直ぐに伝説級、神話級と王国で一番の魔法師になったのだ。
彼女に私は会ったことがある、舞踏会での話だ。
彼女を初めて見た時、こんなに美しい人がいるのだなと、ビックリするほどの美貌を持っていた。
当然、周りは男たちは彼女を放っておくはずもなく、彼女の周りには常に男たちがいた。
彼女は表面上は笑って対応している、だが目の奥は笑っていなかった。
その目を見てぞっとしたのは、今でも覚えているくらいだ。
そんな王国一の頭脳、魔法、美貌と全てを兼ね備えた彼女に、私は正直、勝てないと思った。
上には上がいると……
そして、この戦争で勝てないなと思った人物がもう一人いる。
奴隷から少佐まで昇格した、この戦争での立役者の一人で『純白の英雄』と呼ばれるクオン少佐だ。
彼と初めて会ったのはメラレーン戦線の最終決戦前の作戦会議だ。
その時、聞いた彼の噂は帝国の中隊長であるセトを倒したということだ。
正直、セトは私でも倒すことが難しいだろう、つまり武力はクオンの方が上なのは認めていた。
そして作戦会議でクオン少佐が提案した案に初めは私は失望した。所詮、奴隷上がりで常識もないのだろうと……
「メラレーン戦線ではメラレーンの臍を取った方がいいでしょう。フェール大将ならそうするはずです」
クオン少佐の案を聞いて私は思った。
相手に魔法師が多く存在していて、目立つ場所を取るのは愚策、何故なら集中砲火をくらうためだ、フェール大将はそんな馬鹿なことを考えるはずがないと。
周りの軍人も私と同じ考えなようで、その案に反発していた。
だが、それを聞いたクオン少佐はきょとんとしていた、まるで何故こんなこともわからないのだと言っているようだった。
私はその表情を見て考え直すことにした。
「クオン少尉……フェール大将ならそう考えると言いましたか?」
「はい。言いました」
(メラレーンの森林の特徴はなんだ? 木が乱立しているため視界が悪い、熱帯雨林気候なので川や沼が多い、次にメラレーンの臍の特徴は? 高い位置にあるため周りが見渡しやすい、敵から目立つ、最後にフェール大将の特徴は? 王国一の頭脳、魔法、美貌……魔法? フェール大将は水の神話級魔法師……)
「メラレーン戦線では(水が多い)……メラレーンの臍を取った方がいい(高い場所)……フェール大将はそう考える(水の神話級魔法師)…………」
この時全てが繋がった。
つまりクオン少佐はメラレーンの臍をわざと取って、帝国の集中砲火をくらうことで帝国兵を周りに集めて、水の神話級魔法で一気に片をつけようと言いたいのだろう。しかも、周りには水が多いためさらに魔法の規模は大きくなり、こちらは高い位置にいるため、魔法の影響を受けない……まさしくこちらの被害が少なく、メラレーン戦線を取れる完璧な作戦だろう。始めこの案を馬鹿にしてた自分自身が恥ずかしい……
私はクオン少佐の評価を見直す、そしてこの作戦を実行することにした。
――――
作戦会議が終わると早速、エリザベス中将に声を掛ける。フェール大将に作戦の協力を依頼するためだ。
「エリザベス中将、この作戦の真意に気付いていますか?」
私が質問すると、エリザベス中将はニヤッと笑った。いつもニコニコしているがこの時の笑顔は何故か少し怖かった。
「もちろん、あとお嬢も了承済みだよ」
「わかりました。ではこの作戦を皆さんに伝えてきますね」
私がフェール大将が了承したということでみんなを納得させるためにも、作戦の概要を全員に伝えようとする。しかしエリザベス中将が静止の声を掛けてきた。
「ダメだよ、そんなことしちゃ」
「何故でしょうか?」
「だって、なんのためにクオン少佐がわざと濁して案を出したと思ってるの?」
エリザベス中将が問う、だが私には答えはわからなかった。
「無知な私に理由を教えてください」
「いい? 王国側には裏切り者がいるの、王国がメラレーン戦線を手薄にしたらあちら側はこちらの奴隷兵に確実に勝てる量の兵士を送ってきた。そしてゴモス平原では時間稼ぎに耐久戦を仕掛けてきた、このせいで王国側は劣勢を強いられた」
エリザベス中将の言う通りで帝国の対応は王国の動きを知っているようにも見えた。
「つまり、裏切り者がいるとして、本当の作戦を伝えなかったメリットが三つあるの。
一つ目は帝国兵に作戦がバレて、帝国兵が釣れない可能性を無くすこと。
二つ目はメラレーンの臍を取りにいくことをわざと伝えることで、より多くの帝国兵をおびき寄せることが出来る可能性があること
三つ目は二つ目と同様でわざと伝えることで、戦闘をせずにメラレーンの臍を取ることが出来る可能性がああることよ」
王国がメラレーンの臍を取りに行くことが分かれば、帝国側は一気に集中砲火を喰らわせるためにも、魔法師の援軍を呼ぶだろう。そして王国軍を一網打尽にするためにも、わざと攻撃をせずに、メラレーンの臍に王国軍を全員登るまで待つだろう。
つまり、クオン少佐のした発言は一気に三つの膨大なメリットを作り出したのだ。
さらにそれにフェール大将も気付いていたのだ。
この二人はどれだけ頭脳を持っているのだろうか……絶対に私では勝てない。
『純白の英雄』と『王国の神童』は武力も知力も私以上の怪物だ。
――私は全然、選ばれた人間じゃない。本当の天才はこの人たちを指す言葉なのだろう。




