29話:世界の真実
ティリスとルーイはお互いに言い争っていたが、お互い冷静になったのか言い合いを止めた。
「ところで、クオンは今の自分の力に満足している?」
ティリスが聞いてくる。
「当たり前でしょう! クオンはもう充分に強いんです! だって特別級魔法師も倒したんですよ」
俺が答える前に、ルーイが口を挟む。
「あなたは黙ってて! 私はクオンに聞いてるの。それに特別級魔法師が何よ、上には上がいるわ」
ティリスの言葉は、まさしくその通りだろう。上には上がいる。それはさっきも実感をした。特別級魔法師のセトは確かに強かったが、その上の伝説級魔法師の魔法はそれの何倍も凄かった。ティリスの魔法はその何十倍も凄かった。今の俺の実力ではそれらには対応が出来ないだろう。
「いや、俺は今の力に満足していない。もっと強くなる必要がある」
ティリスの目を見つめて、俺は力強く宣言した。すると、ティリスは何故か、目を逸らして顔を赤らめた。
「そうよね、じゃあ私のところに来ない?」
ティリスの言葉にまたルーイが反応した。
「この雌ブタは何を言っているんですか!? クオンは私の方がいいと言ったんですよ」
「そういうことじゃないわ、私のところにきて、強くならない? ということよ」
「どうせクオンと一緒に居たいからそう言っているだけです!」
「それも少しはあるけど、違うわ!」
「ほら、少しはあるんじゃないですか」
ルーイとティリスはヒートアップしていく。このままではまたさっきのように言い争いになるだろう。俺はティリスの話を聞かなくては行かない。
「ルーイ、少しだけティリスと話をさせてくれ」
「ごめんなさい、ちょっと熱くなってしまいまいました」
俺の言葉にルーイはしゅんとする。
「いいんだ、俺のことでそんなに熱くなってくれるなんて嬉しいよ」
そう言うと、ルーイは元気を出した。それよりも本題に入らなければ
「それで、強くなれるとはどういうことだ?」
俺の疑問にティリスは答えた。
「クオンは、セトとの戦いで加速を使ったでしょ? 私のところに来れば、その力をもっと強化出来るわ」
どういうことだろうか? 俺は疑問に思ったが、今以上に強くなれるならと頷いた。
「それで強くなれるなら、俺はティリスに着いていこう」
俺の言葉にティリスは喜び、ルーイは悲しむ。だが、条件はまだある。
「ただ、ルーイも一緒でもいいか?」
今度は俺の言葉で、チッ、とティリスが舌打ちをして、ルーイは喜んだ。そして、ティリスは少し考えると頷いた。
「いいわ、でもクオンに着いてくることは不可能よ、ルーイは別のところで訓練をしてもらうけど大丈夫?」
俺はルーイに確認を取ると、「私は大丈夫です」とルーイは言った。なら俺の意思は決まった。
「それでも大丈夫だ、これからはよろしくな」
「うん、あなたを最強にしてみせるから任せて頂戴」
俺とティリスは握手をした。
「ところで、これからどうするんだ?」
「戦争の功労者は、王城で貴族の位を与えられるわ。あなたなら多分、貴族になれるくらいの戦績を上げたわ。でも王城には行かないほうがいい」
何故、貴族になれるのに王城に行かないほうがいいのだろう、と俺は疑問に思った。
「なんでだ?」
「それは、あなたのことを王城の人たちは覚えているかもしれないからよ」
俺はさらに疑問に思う。
「どうして?」
「あなたは覚えていないけど、私は王城に居た時のクオンを知っている」
その言葉に俺の頭は混乱する。そこまで理解力がないはずではないが、全くティリスの言っている意味が分からない。
「俺が王城にいたのか?」
「そう……そして、あなたは王城から追放されたの、記憶を消されてね」
「記憶を消される?」
ティリスは話しにくそうにした。どうやらここでは言いにくい内容なのだろう。
「……ベス、ここでの話を聞かせないように周りの者たちを遠ざけて」
「了解だよ」
いつの間にかそこにいたエリザベスは、周りの王国軍たちを遠ざけた。そして、周りにいるのは俺とルーイとティリスだけになった。
「クオン、あなたにはこの世界の真実を話すことにするわ。私の言葉を信じるか信じないかはあなたに任せるわ」
それから、ティリスはこの世界の真実を話し始めた。俺の記憶を消した存在。何故、白髪や黒髪が魔法を使えないとされているのか。何故亜人は差別されているのか。そして、それらの裏には全て教会が絡んでいることを。
ティリスの話を聞いて、俺の異世界での方針は決まった。
――俺は強くなって、糞みたいなこの世界を変えてやる




