19話:魔力の輝き
身体強化を限界以上に使い、さらに魔法を使いながら森を駆け抜ける。
速すぎて姿が霞むほどだ。
そして5分もしないうちに帝国の基地に着いた。
周りを見渡していると、大きな魔力と戦場で立ち昇る竜巻を見えたので俺は急いで向かいだす。これが王国側の攻撃ならいいが……
そこへ急いで向かうと見えた光景は地獄だった。
仲間たちが血まみれで倒れていた。
そして、セトがルーイに剣を振り下ろそうとするところだった。
さっきまでの俺だったら、間に合いそうにない距離だ。
しかし今の俺には魔法がある。
「――加速」
槍は剣を弾いた。
「ごめん、遅くなって……あとは俺に任せろ」
俺が来るともう限界だったのかルーイが意識を失った。
ギリギリセーフだ……いや、アウトだろうこれは
俺の仲間たちは倒れ、もう助かりそうにない奴もいる。
俺の異世界に来てから初めての仲間だ。一緒に談笑して、冗談も言い合った。辛い訓練だって一緒に乗り越えてきた。初めは白髪の俺を見て馬鹿にしていたが、訓練をしていくうちに俺を認めてくれた。半年と少ししか一緒にいなかったが、楽しかったしなにより俺のことを慕ってくれていた。
憎い……あいつが憎い、
何より自分自身が許せない、
何もできなかった自分が、
あの時負けた自分が、
そして、間に合わなかった自分が許せない。
魔力が滾る、俺は拳に魔力を込め握りしめる。
「おう、さっきぶりだな――」
「――加速」
セトが何か言う前に地面を蹴りだし顔面を殴りつけた。
今までにないほどの速度だった。
その一撃をくらい、セトが数メートル吹き飛ぶ。
「がはっ……!」
その隙に近くにいたルーイを巻き込まないように避難させる。
まだそれくらいの冷静さは残っているようだ、しかし、俺の頭が怒りで支配されている。
「お前を絶対にぶっ殺す!!」
頭が熱い沸騰するようだ、怒りしか湧いてこない。
止めをさすために、吹き飛ばしたセトの方に近づいていく。
しかしセトが立った。口から血を出しているようだがあまりダメージはないようだ
「風付与――くそ頭が痛いな、まだ少しくらくらする……しかし、いきなり殴るなんて酷いじゃないか。しかもなんだよ今の速度……」
セトは魔法を使い身体に風を纏わせながらもそう聞いて来るが、俺は話す気にはならなかった。
使い地面を蹴りだし、槍を突き出す。
これだけでも普通の兵士には防ぎようがない。
「――加速」
だがさらに魔法により加速する。
捩じられた槍の神速の一撃は空間を震わせる。
ギィン。
男の風を纏う剣と俺の槍がぶつかり合い火花を散らす。
男はその一撃で体制を崩したが、風を使い距離を取った。
今度は俺の方がスピードもパワーも上のようだ。
「おいおい、なんてスピードだよ。ギリギリで防げたが、何度も防ぐのは無理だぞ……しかも今の輝きは魔法か?」
攻撃は防がれた。
俺は槍を突き。振るい。どんどん猛攻をしていく。
時には魔法を使い加速を攻撃を加速させていく。
一撃、二撃と剣と槍の攻防が続く。
ついに攻撃を防げなくなり始めたのか、セトの身体に傷がつく。
「……何故、俺が押し負けてるんだよ。なんだよその速度は?」
さきほどとは違って、押されているのはセトだ。
俺は畳みかけるためにさらに猛攻をしかける。
セトは何回かは俺の攻撃を防げたが、槍の攻撃をその身に受け。
傷を増やし、血を流していく。
しかし、風をうまく使うことで、なかなか攻めさせてくれない。
だが徐々にだが、セトの身体に傷が増えていく。
出血で動きが悪くなり、俺の攻撃がより当たるようになる。
もう少しだ……もう少しでこいつを倒せる……
「セト中隊長!2小隊分の200人。ただいま到着いたしました。指示を!」
俺達が戦っていると、気づけば周りには帝国兵が集ってきた。
やばい、200人はいる。もう少しだったのにまた邪魔されるのか……
先ほどと違って優勢なのは俺だが、矢で攻撃されたら流石に厳しいだろう。
セトが帝国兵に指示を出す。
「よく来た! おい、お前ら弓矢を放て」
まただ、
また、弓で邪魔される……
その瞬間、一人の帝国兵の首が飛んだ。
誰だ……王国兵の援軍か?
だが、そこに立っていたのは血まみれの人物だった。
立っているのが不思議なくらいの怪我だ。
「……兄貴、そんな中隊長を倒せ……雑魚は俺に任せろ……」
ヴォルフだ。血まみれになっているが5体満足で生きている。よかった。だが息が安定していない。意識が朦朧としているらしく立つのがやっとという感じだ。そんな身体で無理をしたら命に関わるだろう。
「ヴォルフ……無事でよかった! でも無理はするな、戦わなくてもいい。後は俺に任せろ」
俺がそう言うと、ヴォルフは意識があるのかわからない虚ろな表情をしていたが、目の焦点が合い真剣な表情をした。
「ふざけるな! 俺は雑魚相手も任せられないほど弱いのか?」
ヴォルフが心から叫んだ。
「ヴォルフは弱くない! だが自分の身体を見てみろ! 無理をしたら死ぬぞ」
「知らねぇよ! 俺の限界を勝手に決めるな!」
ヴォルフはそんなことを言うがもう身体は限界だろう。
「……兄貴だけじゃなくて、俺たちも戦うんだ! ずっと頼りっきりじゃいけないだろ! 俺たちは兄貴の役に立ちたい。弱いかもしれないけど、これくらいさせてくれよ。俺たちを頼ってくれ!!」
そんなことを言われたら、俺はもう戦うなとは言えない。
「そいつらはお前に任せた。すぐ終わらせるから少しの間耐えてくれ」
「任せとけ!」
ヴォルフはそう言うと、今度は地面に倒れている仲間たちに声を掛けた。
「お前ら、聞いたか? 俺だけ兄貴から任せられてていいのか?
――お前らも兄貴に認められたいだろ! 役に立ちたいだろ! くそったれな帝国兵どもに兄貴の邪魔をさせるな!
――手や足が無い? 意識が無い? そんなの関係ないだろ!
――ここで兄貴が勝たなきゃ俺たちはどうせ死ぬ!
――じゃあ、どうせならよ……兄貴の役にたってから死ぬぞ!
――お前ら! 気合出せよ! 限界を超えろよ! 兄貴に鍛えられた俺たちの力見せてやれよ!
――兄貴が安心して任せたと言えるような俺たちの力を!!」
その言葉を聞いて地面に倒れていた俺の部隊のやつらが動き出す。
そんな怪我では動けるはずがないはずだ、もうとっくに限界のはずだろう。
俺が来るまで帝国兵の相手をしていた。セトの相手をしていた。そして魔法を受けて、もうその身体は限界なはずだ。意識だってあるかわからない。
だが仲間たちは弓矢を放とうとする帝国兵たちの邪魔をする。
腕を失い、足を失いない、血を大量に流している仲間たちがだ。
五体満足な仲間たちは剣を握りしめて、帝国兵に切りかかる。
みんな出血が多すぎて、意識もほとんどないに等しいだろう。
必死に帝国兵にしがみつく。帝国兵を切り倒していく。
血と魔力を流しながらも戦い続ける。
「なんだよこいつら、死にかけのくせしてなんで動けるんだよ」「おい、くっついてくんな」「なんでこんな怪我でこんなに強いんだよ」
帝国兵は混乱している。
俺は胸が熱くなるのがわかった。同時に悔しさで胸がいっぱいだった。
弱かった俺のせいでこうなっているのに、ここまで必死になって戦ってくれるなんて、俺は感動と悔しみ、二つの意味で涙を流した。
俺が弱くなければ、さっき敵を倒せて、こいつらはこんな怪我を負わなかったのに……
俺が弱くなければ、今だって一瞬で敵を倒せて、こんなに必死になってまで俺を手伝う必要もなかったのに……
やはり強くならなければいけない。
今までは、よくわからないが強くならなくてはという想いから強くなろうとしていた。
だけど今は違う!
こいつらのために強くなるんだ……
「みんな、ありがとう。そしてごめん……弱かった俺のせいで、迷惑をかけた。見ていてくれ俺の強さを……俺の勝つところを」
邪魔されていない帝国兵たちは、まだ矢を放ってくるが先ほどの戦いと違って俺に余裕があるし、ヴォルフたちのおかげで飛んでくる弓矢の数も少ないため、矢を避けていく。
しかし、時間が経てば不利になるだろう。ヴォルフたちの身体が持たない。だがそれはあちらもだろう。目の前の男は全身から血を流している。
だがそんなのは関係ない一撃で終わらせる。
俺は魔力を高めた。
何故か調子がいい、いつもならこんなも多くの魔力量を操作しきれないだろう。
俺の全身から魔力が迸る。
膨大な魔力が空気を揺らす。
男は身に纏う風をさらに強くし距離をとる。
「なんだその膨大な魔力は、お前は何をする気だ……まあいい、お前が俺に近づく前に殺せばいいんだ。どうせ死にかけの兵士に手こずる様な部下はいらない。全てを吹き飛ばす」
男は風を纏い10mほど空中に昇っていく。
魔力が立ち昇る。そして魔法を発動させようとする。
「――お前ら俺のために死んでくれ。風の加護よ我に力をーー
流石にこれをくらうのはまずいだろう。先ほどの遠くからも見える竜巻クラスの攻撃はやばい。俺ならクイックを使って範囲外に逃げれるが、周りで戦っている仲間たちがやばい……
でも関係ない、魔法が発動させる前に決めるまでだ。
敵との距離は離れている。
今までのクイックの魔法を使っても間に合うかわからない。
だが間に合わせる。何回か魔法を試してわかったが、魔法はイメージなのだろう?
先ほどからクイックの魔法は走り出してから加速させるという、走るという動きを加速させるイメージをしていた。
しかし、今度は蹴りだす足を加速させる。
突き出す腕を加速させる。
身体の動き全体を加速させる。
走るという一つの動作を加速させるのではなく、攻撃に使う全ての動作を加速させる。
それは一瞬の出来事であった。
「――加速」
地面を蹴る。
地面がえぐれて、身体が空中に駆け出す。
スパン、と俺の速度は音を置き去りにしていた。
音速を超えた速度の突撃で敵まで肉薄する。
その速度に身体が千切れそうになるが身体強化を使って耐え切る。
男が魔法を唱える寸前だったが、音速を超えた矛先が一瞬のうちに男の胸を消し飛ばした。
赤く染まった戦場の夜の空に流星のように純白が煌めいた。
そのまま俺とセトは地面に落下した。
「ゴフッ」
セトは血を吐き出す。
「いい輝きだった。素晴らしすぎる……こんな輝きに囲まれて死ねるなんて幸せだ……」
セトはそう言って、息を引き取った。
俺はセトが死んだのを確認して、ヴォルフたちを助けることにした。早くしないと助からないだろう。
帝国兵たちはセトが死んだのを見て戦いをやめていた。
「そんな……中隊長が倒されるわけない」「あの中隊長が負けるはずがない……」
帝国兵のほとんどは戦意を失っているようだった。
「おい! 聞こえるか帝国兵ども! 今は時間が無いから見逃してやる! 早くに本陣に帰れ!」
帝国兵たちはそういうとほとんどが逃げって行った。だが残っている奴らもいる。
残っているのは魔法の使える奴らだけだ。帝国の魔法戦団の奴らだろう。あいつはあれでも一部の部下には慕われていたわけだ。
「俺たちは逃げない! 中隊長の仇を取るぞ!」「「「おう!!!」」」
こいつらは嫌いになれないな……だけど早く終わらせる。
俺はそう考えると残りの帝国兵を瞬殺していった。ほとんどの兵士が一撃だった。魔法を使われたが、俺の魔法を使った速度には当てることが出来ていなかったし、近距離戦は戦いにすらならなかった。一瞬のうちに帝国兵の首が飛んだ。
いつも以上に楽に倒せた。
確かに『加速』が使えるようになったのもある。
でもなんだか、今は魔力の調子が良かった。
――――
帝国兵を全員倒すと、地面に倒れているヴォルフたちに声をかける。
「俺は勝ったぞ! お前らほんとにありがとう」
「……ああ、見てたよ凄かったぜ。あれこそ俺の尊敬する兄貴だ……」
ヴォルフたちはボロボロだった。ほんとに生と死の狭間と言ったところだろう。こうなったのは俺のせいだ……王国の軍人で早く光の回復魔法を使える人を連れてきて、救護をしなければならない。
「回復魔法を使える人を連れてくるから待ってろ。もうすぐ助かる、それまで頑張ってくれ」
そう言って、俺は王国軍の方に向かった。
――――
クオンがセトに勝ち、王国軍を探しに行くのを確認すると、ヴォルフたちは意識を失った。いや元から意識が無かったに等しいだろう。
ヴォルフたちの身体から魔力が零れ出て、空へ昇っていく。
身体が冷たく固くなっていく。
命が溢れていく。
その光景は残酷だが酷く幻想的だった。
死んだ身体から魔力が立ち昇る。
赤や青、緑、黄色など……その魔力は色とりどりだった。
カラフルな魔力の光が空に向かって、帯のように伸びている。
その光景はまるで、眠る人に虹のカーテンが架かっているようだった。
だが、その死体たちはとても満足そうな顔をしていた。
溢れ出た魔力は誰かを探すようにどこかへ消えていった。
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あと来週から忙しくなり、ストックが切れるので執筆を頑張ります。もしよかったら応援してください。感想、レビューくれたら嬉しいな。無理にとは言いません。時間や気持ちが向いたらで大丈夫です。




