18話:仲間の力
帝国の基地では二つの集団が争っていた。
赤の鎧を着た騎士たち帝国軍とボロボロの兵たち王国軍だ。
人数はほぼ互角。クオンが帝国の小隊長を倒したこともあり、魔法で遠距離から戦いながらも指示をだす指揮官と魔法師の数は王国軍の方が多いのと、今はルーイの率いる奴隷部隊の活躍のおかげで練度が低い王国兵でも帝国兵と渡り合えている。
「おい! ルーイ! 兄貴はどこにいるんだよ!」
「わかりません、捕虜になっているか、もしくは……ただクオンが作ってくれたこの機会を活かすためにもここで勝たなければいけません!」
ルーイとヴォルフが率いる部隊たちは帝国兵と戦っていた。帝国兵をどんどん倒していく。だがいつもよりは動きが悪い。みんな、クオンが不在なことを不安だったのだ。
「――ヴォルフは部隊の半数を率いてそのまま前進して、奥で魔法を使っている小隊長を倒しに行ってください!」
「おう!」
ルーイがヴォルフに指示を出し、ルーイたちはそのまま目の前の集団に専念する。
クオンが鍛え上げた部隊は強く、帝国兵相手でも余裕があった。一人また一人と帝国兵を倒していく。
「このままならいける! クオンの行為を無駄にしないためにもここで勝ち切る! みんな気合入れていこう!」
みんなはクオン不在の中でも帝国兵を蹴散らしていった。尊敬するクオンのためにも。
――――
「先ほどの若者は強かったな! いい輝きだった。しかし最後の曇りは何だったのだろうか……不吉な魔力を感じたな」
「セト中隊長が近距離戦で押されるのを見るのも久しぶりでした」
帝国基地の本陣では一人の男が部下に先ほどの戦闘で負った多少の傷を処置してもらっていた。
「だがな魔法師の馬鹿どもは魔力操作の重要性がわかっていないから、近距離戦になると負けるのだ……貴様らもだぞ!」
「すみません。しかし魔法を使えばまず剣の間合いに入られないので一部の奴ら以外には負けませんよ?」
「……それで純白の悪魔に何人の小隊長がやられてきた? 帰ったら俺直々に扱いてやるから覚悟しとけ貴様ら――」
「――報告します。第6小隊が壊滅しました」
そこにセトが部下に怒っていると、ひとりの帝国兵が入ってくる。
「セト中隊長、そろそろ王国兵に押されてきています。避難をしましょう」
「そうだな余計な被害が出る前に引くとするか、撤退の合図をだせ……」
セトは撤退の合図をだそうと、ふと戦場を見てみる。すると一部の部隊の輝きが見えた。
この戦場における王国側の勢いの火種だろう。
セトは考え込む。
メラレーン森林での戦争では帝国の勝ちは決まっている。ここで多少負けたくらいではそれは揺るがないだろう。しかし王国兵にここで勢いに乗られても余計な被害が出るかもしれない……
「いや、やはり撤退はなしだ!……あそこだ、あそこを潰すぞ! 俺は先に魔法でいくからお前は後ろから二小隊分の兵をを率いて俺についてこい」
ーーーー
「――敵の小隊長を打ち取ったぞ!!」
「「「おお!!」」」
ヴォルフが敵の小隊長を打ち取ったようだった。歓声があがりさらに士気があがる。そのまま指令塔を失った帝国兵を次々と撃破していく。
「ヴォルフ! 士気が上がったからと言って、あまり雑に戦わないでください! あくまで丁寧に戦うんですよ?」
「わかってるっての、兄貴の安否もまだわからないからな」
そのままクオンの部隊の200人ほどは敵を蹴散らしていき、帝国の兵をほとんど壊滅させた。
周りの王国兵たちも帝国兵をほとんど打ち取っている。
「帝国兵に勝てるぞ! 俺たちの勝利は目前だ! 兄貴の働きを無駄にしないためにもここで踏ん張れよ!」
しかし、そこに風を纏った一人の男が空から飛んできた。
「ヴォルフ! 敵の魔法師です! あの魔法は特別級魔法のフライです。多分、帝国中隊長でしょう」
「兄貴をどこにやったのか、話を聞かないとな」
ルーイたちの前に男が降り立つ。その男は周りを一瞥する。
「なかなかいい輝きが見たのでね、来てしまったよ。しかし酷いもんだ俺の部下たちがやられてるじゃないか」
男は周りに倒れている帝国兵たちに近づいた。
「セト中隊長。来てくれたんですね……助けてください」
帝国兵たちはルーイたちにやられてほとんどが死んでいて、意識のあるやつらもボロボロだ。
セトは無事な兵士たちに近づく。
「中隊長が来たならこんな奴ら、蹴散らしてくれる」
「俺らの勝利だ!」
帝国兵に歓声が起こった。ルーイたちは警戒をしてセトの周りを囲む。
セトは剣を鞘から抜き出した。ルーイたちの緊張が高まる。
「……お前らは輝いてないな。輝かない奴は嫌いだ」
セトは剣を振るった。帝国兵の首が飛ぶ。
「え?」「なに?」
ルーイとヴォルフたちが驚いている。
「なんで仲間を殺してんだよ!」
状況を把握したヴォルフが叫ぶ。
「いっただろ、輝かない奴は嫌いだと」
「そんなふざけた理由で仲間を殺すなよ」
「くだらなくないだろ?魂の輝きは美しいものだ。だからお前らの輝きも見せてみろ」
仲間想いのヴォルフにとってそれはあり得ないことだった。
セトがヴォルフたちに近づいてくる。
「ところで私たちの隊長を知りませんか? 白髪の20代ほどの男です」
ルーイが冷静にセトに聞く
「……あいつはいい輝きだった。もう味わえないと思うと寂しくなるな」
セトがそう言うと、ヴォルフやルーイたち部隊のみんなが殺気立つ。
「クオンに何をしたのですか?」
「言葉通りだ」
「絶対に許さない……ヴォルフと奴隷のみんなは前線に出てこいつを抑えてください。私は魔法で援護します」
セトの周りをみんなで囲いだす。
「あ、そうそうクオンだっけ? 君たちの隊長は弱かったな。しかも最後には命乞いをして死んでいったぜ! お前たちも命乞いをして死んでいくのか?」
「ぶっ殺す」
ヴォルフが激高し、気迫の一撃を放つ。それが戦闘開始の合図となった。
セトがヴォルフの一撃を軽々と防ぐ。
攻撃を防いだセトに氷の槍が迫る。
それをセトは無詠唱で風を起こして。防いだ。
「おーなかなかやるな。いい輝きだ」
「無詠唱!? 戦闘中にいきなり魔法を使ってきますよ。なるべく牽制はしますが気を付けてください」
ルーイが魔法を使い、遠距離から攻撃と支援をこなす。仲間に攻撃が当たりそうになるたびにウォーターウォールを使って攻撃を防いだ。それを信頼してヴォルフたちは攻めに徹した。
みんなが必死だった。前衛の奴らはセトの剣が身体に当たろうとも苛烈に攻め続けた。
一撃、二撃と
その連携によって徐々にセトに攻撃が当たるようになってきた。
「うーん、なかなかに厄介だ。手強い前衛に的確な魔法支援。とても素晴らしい! いい輝きを見せてもらった。でも流石に俺も魔力と体力を温存しないといけない終わらせよう」
セトは身体に風を纏わせる。
風に煽られ、ヴォルフたちは攻撃を出来なくなる。
その隙にセトは詠唱をして空中に飛んだ。
「おい! 逃げるのか! 降りてこい」
ヴォルフが空中のセトに声をかける。
「まさか……終わらせると言っただろ……素晴らしかったぜ! また来世で会おうな!」
セトは手を広げて、魔力を高まらせる。
「なにか魔法をつかうようなので防御を――「風の加護よ我に力を――竜巻」
ルーイが注意をする前にその魔法は起こった。
戦場に数十メートルの風の竜巻がおこる。その竜巻はその一つ一つが鎧を切り裂くほど鋭い風の集合体の特別級魔法のトルネイドだ。
その一撃は周りの人を巻き込み切り裂いていく。一撃一撃が殺傷級の能力だ。いくら身体強化の練度が高くても無事ではすまないだろう。
十数秒間魔法が続き、魔法の効果が終わる。大地はえぐれている。その周りには多数の人が血を流し、苦悶の声をあげている。
手足を失って重症の人やその一撃で死んだ人もいる。ルーイの率いる部隊はほぼ壊滅していた。
「ヴォルフ! み、みんな無事ですか?」
ルーイがそう問いかけるが反応は無い。ルーイは全身から血を流しているが、エンチャントウォーターを咄嗟に使うことが出来たようで、攻撃の威力を軽減出来てギリギリ無事のようだった。だが周りはそうではなかった。
セトが唯一意識があり無事なルーイのところに歩み寄る。
「ほう、俺のトルネイドを喰らってもまだ立つか」
「……あなたは絶対に許さない!」
部隊を壊滅させられたルーイが怒気をみせ剣を構え攻撃をする。
しかし、その攻撃をセトは楽々と防ぎ、ルーイを弾き返す。
弾き飛ばされたルーイは、もう立っているのがやっとだったようで倒れこむ。
「いい輝きを見せてもらった。せめての情けで一思いで殺してやる」
「……力のない自分が情けない、あの時から何も変わってないよ僕はーー」
ルーイが静かに涙を流す。
セトがルーイに剣を振りかぶる……
「……まだクオンに付いていきたい……死にたくないよ、誰か助けて」
剣が当たる直前、槍が剣を弾き飛ばした。
「ごめん、遅くなって……あとは俺に任せろ」
雨もあがり、雲の隙間から月の光が漏れ出し、純白の髪を煌めかせる。純白の槍が煌めく。血が飛び散り赤く染まった大地の中で見たクオンの姿は何故か美しかった。
ルーイは小さいころ書物でボロボロの本に書いてあった話を思い出した。人間を裏切り差別されている亜人に寄り添った魔女の話だ。一般的には亜人は悪とされているが、亜人に差別感を持ってなく小さく純粋だった私には虐げられている亜人を助けるいい話だと思っていた。その物語に出てくる魔女は純白の髪をしていて、純白の槍を使い、目にも留まらぬ速さで移動していたという。
まさしく今のクオンのようだった。
確かその魔女の異名は純白の魔女。
今のクオンの姿は私にとっては英雄だ。
「純白の英雄……」
その姿を見たルーイは安心して意識を失っていった。




