17話:魔法と覚醒
目が覚めるとまだ辺りは暗かった。
何があった……そうだ。
俺は帝国兵に囲まれて、敵の中隊長に負けたのか。
傲慢だった。魔法師は近距離戦が弱いと思い込み、敵の中隊長の実力もわからずに戦いを挑んで負けたんだ。最後に何か聞こえた気がする。意識が朦朧としていてあまり覚えてないが……最強になれるとかどうとか……あれは夢だったのだろうか?
俺はどうなった? 起き上がり身体を見下ろす。
どこにも傷はないようだ。
「おはようございます!」
後ろから声をかけられた。
俺は後ろを振り向き声をかけてきた人物を見る。
雷のような青白い髪に160㎝ほどの身長、整った顔で20代前半くらい、人懐っこそうな雰囲気をしている。腰にはレイピア風の細剣がかけられていて、王国軍人の服で階級は中将か……しかし中将がなぜいる? この人が助けてくれたのか?
「――おーい、大丈夫? ……治療用の魔道具使ったけど、頭に後遺症でも残ってるのかな?……」
女に話しかけられた。どうやら考え込んでいたようだ。
「すみません。少し考えごとをしていました。ここはどこでしょう? 確か俺は帝国兵囲まれて……」
「ここはさっきの帝国の基地から少し離れたところだよ! 私が助けてあげたんだ! 何かいうことあるでしょ?」
色々聞きたいことがあるが、そうだな、感謝と後は自己紹介をするか。
「助けていただき感謝します。俺はメラレーン第四戦線第五部隊長の純白と呼ばれているものです」
「知ってますよー。強い奴隷兵がいるって噂だからね。私はエリザベス・アルゲール! 一応軍の中将でアルゲース侯爵家の現当主なんだけど……あなたの名前は?」
侯爵だいぶ上の階級だな。なぜあんな場所にいたのか疑問だが、軍の機密かもしれないし深く聞かない方がいいだろう。
「俺の名前は久遠です。アルゲール中将閣下ですね。よろしくお願いいたします」
「おっけークオンだね。よろしく! アルゲールじゃなくて、私のことはベスって気軽に呼んでくれてもいいんだよ?」
名前を聞いたら急に馴れ馴れしくなった。まあ美人と仲良くなるのは得だし、しかも貴族様ときた親しくしといて損はないだろう。
「流石にベスと呼ぶのは失礼なので、エリザベス中将と呼ばせていただきますね」
「だーめ、ベスって呼んで、あと敬語もなしね」
困る要求をされた。貴族の要求を断りずらい、かといって貴族にため口は流石にダメだろう。
そうだな二人きりのときはため口を使うようにしよう、それなら要求にも断ってないし、周りからの批判もないだろう。
「わかったよ、じゃあ二人きりの時はベスと呼ぶよ。それでベス、今の第四戦線軍の状況とかはわかるか?」
とりあえず状況がわからなかったら何も出来ないので、現在の状況を聞くことにする。
「うーん、今は多分クオンが襲撃した中隊と戦闘しているね。今日でどうやら決着をつけたいみたいだね」
ならば、俺はここにいる場合じゃないだろう。もしヴォルフやルーイたちや部隊のみんなが死んだりしたら後悔しかない、俺の傲慢で中隊長を仕留めそこなったのだから、せめて中隊長は俺が倒さなければならない。
「……ごめんベス俺は少し行かなきゃいけないところがあるから、話はまた今度しよう」
「別にいいよー、行ってきな……でも今の君だと帝国の中隊長は厳しいんじゃないの?」
ベスの言うとおりだ、俺がこのままいったところでまた負ける可能性は高いだろう、でもそれでも行かなくてはならない、俺が言い出したことなのだから
「それでもいくよ、助けてくれたのにごめん」
「そっか……でも少し待って、クオンは加護を持っているんだし、試練を受けたことがあるんだよね?」
試練と言えば、多分、ロストダンジョンでも天使戦が試練だったのだろう。
「ああ、多分。でも白髪は魔法を使えないんだろ?」
「うーん、わからない、でもお嬢が言うには加護を手に入れられれば使えるはずって……」
お嬢って誰だよそんなことよりも、今は急いでる魔法のことを聞かなくては、
「俺は魔法を使えるのか?」
「うん、使えると思うよ」
「じゃあ、どうやって使うんだよ?」
俺がそう聞くとベスは答えた。
「うーん、試練では敵が魔法を使ってたよね?」
確かに、敵は何か呟いて急に目の前に現れたりしていた。あれが魔法だとすれば魔法を使っていたのだろう。しかしあんな魔法は聞いたことがない。
「ああ、確かに魔法みたいなのは使っていた気がする。それが何かあったのか?」
「じゃあ、その敵の魔法をイメージして使おうとしてみなよ、試練で出てくるモンスターが使う魔法を人は使えるようになるからね……白髪の君がほんとに魔法を使えるか知らないけどね」
ベスは無責任にそう言った。
しかし、魔法をイメージ?よくわからない、あいつはなんの魔法を使っていた? イメージがわかないがとりあえず詠唱してみよう……たしか……
「――クイック」
しかし何も起こらない。何故だろうか何か足りないのか?
「――クイック」と俺が何度も繰り返して全然できていないとベスが声をかけてきた。
「だから! 魔法はね、イメージ力も大事なの、その魔法がどんな魔法なのか原理がわからない限り魔法は使えない。だからどんな魔法だったか思い出して」
どんな魔法だったかイメージしろって言われても、火とか水とか出してたわけでもないのに難しいことを言う。
天使はどんなことをしていた?
急に俺の目の前に現れてきたな。だとすると転移か?
俺は遠くに転移をするイメージで魔法を使う。
「――クイック……あれ?」
どうやら転移ではないらしい。だとすると何がある……急に転移したわけじゃなく、俺の目に留まらない速度で動いたのか?……だとしたらなんだ? 身体能力を上げる魔法か?
俺は身体能力が上がるイメージで走る。
「――クイック」
普通に走っただけだった。違うこれでもないらしい。転移でも身体能力が上がる魔法でもない、だとするとなんだ?考えろ……天使の拳を防いだと思ったら、急に速くなって攻撃を防げなかった。だったらもしかして自分を加速させていたのか? 何故、加速したんだ? どうやった? 始めは防げたと思ったが、急に速くなったんだぞ? つまり自分の時間を加速させている?
「――加速」
俺は次の瞬間、魔力が減って、10mほど先にいた。
ビンゴだ。この魔法は自分を加速させる魔法だろう。
魔力はだいぶ使うが、俺の魔力量からすれば微々たる量だろう。
「……すげぇ、これが魔法か」
「おめでとう!」
俺が魔法に感動していると、ベスが祝福してくれた。
「ありがとう、ベスのおかげだよ」
「どういたしまして、でも戦闘はもう始まってるよ。感謝はいいから、ほら!早く助けに行ってあげなよ! また負けそうになったら私が助けてあげるから」
ベスがそう言ってきた。そうだな行くとするか。次も助けてくれるらしい、だけど、
「もう負けないから、大丈夫だ! 次会ったときはちゃんとお礼をさせてくれ! また今度!」
「もうお姉さんに迷惑かけるなよ! いってらっしゃい」
「ああ、いってくるよ。――加速」
俺は槍を握りしめ、覚えたばかりの魔法を使い走り出した。
今度は負けるわけにはいかない。
そう決意し、俺は基地の方へ向かった。
ーーーー
クオンが帝国の基地に向かったのを確認してエリザベスは通信機を取り出し話し出す。
「――お嬢、ちゃんと頼まれたことは果たしたよ」
『お疲れ様、魔法は使えた?』
「ちゃんと使えてたよ、でもあれはなんの魔法なんだろ? 身体強化というよりは急激に速くなっていたし……」
ベスが先ほどの魔法を不思議がっていると、通信機から声が聞こえた。
『そんなことよりも、クオンのことを頼むわよ』
「うん、わかった。でもさ、お嬢の作戦だとみんな死んじゃうのにどうして教えないの?」
『……教えたら帝国兵にも感づかれるでしょ? 裏切り者がいないとも限らないし……それに私はクオンさえ無事ならば他はどうでもいいの……』
「え? お嬢のずっと言ってた大事な人ってクオンだったの? でも元々奴隷だったんだよあの子。お嬢と何があったの? 気になる、教えてよお嬢」
『また今度ね、今は早くクオンのことを追いかけなさい』
「はーい」
そういって、ベスは暗い森林の中に消えていった。




