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偽りの英雄~彼女に振られて異世界転生~  作者: オク炭治郎
第0章:ゲームストーリー開始前
19/62

16話:慢心と敗北


 太陽はすっかり落ち、空には雲がかかり雨が降っているため、数メートル先も見えないほど暗くなっている。ジメジメした熱帯雨林気候のメラレーン森林のそんな中、俺は帝国兵の勢力範囲の森林を駆け巡っていた。昔見た忍者アニメみたいな動きで木と木の上を飛び回っている。ちなみに帝国の中隊基地を探すためだ。


 でも辺りが暗くて周りが見えないだって?俺の場合は魔力探知を使っているから周囲をある程度把握できる。


 もうだいぶ王国の陣地から離れてしまった。先ほどから見回っている帝国兵が多くなっているためこの辺に基地があるのだろう。


 少し移動していると前方に帝国兵がいた。何か話しているようだ。


「……こちらは異常ありません、今から戻ります」


 帝国兵数名が話している。そのうち一人が手に持った魔道具で通信をしている。多分、本部と連絡しているのだろう。

 ちなみに魔道具というのはこの世界独自の技術を使ったいろいろ便利な道具で本来人間には使えない負の魔力を使って効果を発揮させている。つまり燃料は魔石ということだ。

 この帝国兵が使っている魔道具は現実世界の無線機と同じ効果で対となる魔道具どうしで通信ができるといった機能だ。


 そんな感じで少し離れた木の上から見ていると、どうやら帝国兵は移動するようだった。

 本部に帰るのだろう、後を付けていくことにする。



――――



 それから少しついていくと、帝国兵の基地が見えてきた。人数は千人ほどの中隊の基地のようだ、ここから見つからずに隊長格を一人ずつ殺していくしかないだろう。 


 帝国の基地に行く前に通信の魔道具を取り出し発動させる。


「こちらは純白です。聞こえますか?」


 俺がそう小声で魔道具に話しかけると、反応が返ってきた。


「こちらジャックだ。帝国の基地の場所はわかったか?」

「はい。ここは――」


 俺は帝国の基地の場所を伝えた。

 これであと何時間か経てば王国兵たちがこちらに向かってくるだろう。俺の役目はそれまでに小隊長と中隊長の首を取ることだ。


 俺はそうして少し帝国の基地前で待機していると、二人の見回りの兵が出ていくところだった。

 たった二人なら音を出させずにいけるな……

 

 俺は帝国兵の頭上近くの木まで移動した。そして隙が出来た瞬間に落ちる。

 槍は一人の男の頭を串刺しにした。


「……え?」


 もう一人が呆然としていたので、そのまま槍を引き抜き一撃で首を吹き飛ばした。

 俺は死体を森の茂みに隠すと服と鎧を脱がせた。そしてその帝国軍人の服と鎧を身に着けて、基地の方に歩いて行った。


 

 帝国の基地は高さ数メートル壁に囲まれている。壁の上や櫓の上にも兵はいるので壁から登って行ったら流石にバレるだろう。なのでここは正門から行くしかないだろうな、帝国の鎧は顔を隠すタイプのフルプレートなので大丈夫だと思うが不安だ。

 

 俺は帝国の正門に着くと帝国兵に見られるがそのまま入っていく。

 しかし、中に入ろうとした瞬間、門番の兵士に声をかけられた。


「……おい、何故一人で戻ってくるんだ?」


 やはり、聞かれるよな……仕方ない言い訳をなんとか言うしかないな


「すみません。少し忘れ物をしたので取りに戻ろうと、ダメでしょうか?」


 門番は少し考え込む。


「……いや、それならいいんだ。早く持ち場に戻れよ?」

「はい。わかりました」


 帝国兵はそう言うと、そのまま通してくれた。

 (あぶねぇ、絶対ばれたと思ったけど、何故か行けたな……この世界って軍事が発展してないのか?普通合言葉とかあると思ったのだが……)


帝国の基地に入ると、俺は魔力探知の範囲を限界まで広げる。すると何人か魔力の質が高い奴がいる、これが多分小隊長とかだろう。急ぎで小隊長のところに向かう。ここからは時間勝負だ。


「……王国ももう終わりですな」

「そうだな、帝国に元から勝てるわけがなかったのだよ」


 小隊長と思しき男が数人の帝国兵と話していて、数人で固まっている。

 流石に数人を無音で殺すのは不可能だろう。ここは無理だな……一旦ほかの隊長格の場所に向かうとするか。



――――



 このあと寝ていたり、一人になったところを狙い、あっさり5人ほど小隊長を倒した。


 しかしあと半分というところで、周りが騒がしくなってきた。

 小隊長が死んだことに気づいたのだろう。時間もだいぶかかってしまったためだろう。


 ここら辺が引き際だろう、中隊長を狙いに行こう……俺はそう考えて一際大きな魔力を持った人間の場所に向かった。


 あれが中隊長だろう。周りの奴らに指示を出している。


「……隊長を殺された2番小隊は3番小隊に合流しろ! 襲撃者は一人でいるところを狙っている。何人かで固まって行動し忍びこんでるやつを探せ!」

「中隊長! 報告です。王国兵数百名が近くまで来ています!」


 どうやら、もう少しの場所に王国軍が来ているらしい。ならせめて中隊長を殺さないとな。


「くそ! 小隊長を殺して混乱し、指揮が取れていないこの時を狙ってきたか……急いで小隊長を殺された部隊はほかの小隊長と合流して、王国兵を迎え撃つ準備をしろ」


 どうやらだいぶ混乱しているようだ。今のうちに中隊長に声をかけて周りの兵士から引き離して静かに殺すとしよう。そして、近くに近づいてきてる王国兵に合流だ。そうと決まれば行くとするか……


「……中隊長! 小隊長がまた殺されているようです」


 俺はそう中隊長に話しかけた。


「なに? それはどこでだ?」

「……案内します、ついてきてください」


 俺がそう言うと、中隊長は俺に付いてきた。他に付いてきてる兵士は3人か……いけるな。俺はそのまま、なるべく兵のいない裏道の方に進んでいく。


「ここです」

「……どこに死体はある?」

「奥で布をかぶせております……」


 俺が中隊長にそう言うと、中隊長は俺が先にきて布をかぶせておいたところに近づいていく。

 布を取ろうとしたその時、俺は後ろから槍を突き出した。

 しかし、その一撃は中隊長が手に持つ剣に防がれた。


「ッな!」


 完全に隙をついた一撃で決まったと思ったのだが、驚いた。


「中隊長! 大丈夫でしょうか?」

「ああ、大丈夫だ。貴様が襲撃者か……二人は通路を抑えるように展開、一人は兵を呼んで来い! 俺の戦闘の邪魔にならないように弓兵をだ」


 中隊長は帝国兵に指示をだし、俺と相対する。隙がない、しかも身体強化を見る限りだいぶ練度が高そうだ。


「なかなかやるようだが……俺は元A級冒険者だからよ、そこら辺の魔法師軍人の指揮官と違って、近距離戦も得意だぜ?」


 そう言って切りかかってきた。剣が俺の胸に吸い込まれていく。早い!予想以上の身体強化だ。

「ッ」

 それを槍で防ぐ。これがA級か。しかも魔力の質的に第三段階の加護持ちだろう。

 想像以上にやばいな、近距離の戦いは互角かリーチの広い俺の有利。しかし魔法を使われたらどうなるかわからない。髪の色的には風魔法だろう。魔法を使われないように攻め立てないといけない。


 俺は槍を使い攻勢に出た。


 剣と槍が交じり合い、何度も防ぎ、防がれる。


 ほぼ近距離戦は互角だろう。お互いになかなか攻めきれてない。


 まずいな、もう時間が経って敵がだいぶ集まってきた。


「中隊長! 弓兵を集めました!」


 気づけば俺は100人以上の敵に囲まれていた。


「……よし! 弓兵はそのまま弓を放て! 俺は風魔法で防ぐが、適性なしのこいつには防ぎようがない」


 中隊長は俺の攻撃を防ぎながら、そう指示を出す。

 どうやら戦いのうちに兜がどこかにとんでいってしまっただろう、髪色で魔法が使えないことに気付かれた。


 兵たちから弓が放たれる。中隊長は風付与(エンチャントウィンド)という魔法を使う。風の普通級魔法で効果は風を纏うことで身体能力をあげ、風により攻撃を逸らしたりすることができるというものだ。

 ちなみに同じ魔法でも普通級が使うよりも希少級や特別級が使う魔法の方が強力だ。


 弓が降り注ぐ、俺は身体強化によって耐久力も上がっているが、中には魔力浸透により俺の魔力を突き抜けて刺さってくる弓矢もあり、身体に傷がつく。


 しかも魔法の効果でさっき以上に強烈な攻撃が俺を襲う。


 俺はギリギリでその攻撃を防げたが、魔法を使った攻撃にどんどん押されていく。一撃、二撃と剣がかすり血が出てくる。さらに弓矢によって少しずつ傷が増えていく。


 しばらくの間は中隊長の攻撃は防げていたが、徐々に俺は弓や剣の攻撃により血を流し、敵の剣を防ぐ体力を失っていった。


「……はぁはぁ、俺を逃がしてくれたりはしないよな」

「当たり前だ……もっとお前の輝きを見せてくれ」


 中隊長はそう言うと剣で切り付けてくる。


 血を失いすぎてぼーっとする。


 そこからギリギリ攻撃を防いでいくが、もう限界だ、と気を抜いた瞬間力が抜ける。


 俺は地面に倒れた。もう身体が限界だ。血を流しすぎた意識が薄れていく。


「いい輝きだった。俺の名前はセトだ。お前の名前は?」


 セトが俺に名前を聞いてくる。

 まだ死にたくない。話で解決できるならそうしたい。

 どうにかして助からなければ……


「……クオンだ……なぁ助けてくれないか? お前たちのなか――」


 おい、今、俺はなんて言おうとした? 仲間になるから助けてくれと言おうとしたのか? 

 ふざけるな……

 俺の仲間はあいつらだけだ。

 心の弱い自分が出てきてしまった。

 俺は気合を振り絞り立ち上がる。


「おいおい、今、助けてくれ、仲間になるからと言おうとしたのか?……仲間になるなら助けてやってもいいぞ」


 セトが俺に尋ねる。仲間になれば助けてくれると言っている。

 なんて魅惑の言葉なんだろう。

 だがあいつらを裏切るまで落ちぶれてはいない。

 半年前は全然好きじゃなかったけど、今では最高の仲間たちだ。

 俺を慕ってくれている。こんな俺をだ。

 これは地球にいた頃のクズな俺にはわからない感情だろうな。

 だから甘い言葉に流されるわけにはいかない。


「黙れ! 喋るな! 俺の仲間はあいつらだけだ! 俺はお前を倒してあいつらのところに戻る」


 セトは俺の言葉を聞き、嬉しそうに笑った。


「仲間になるとかいったら興覚めだった……それでこそいい! 死ぬ直前までお前の輝きを見せてみろ」


 セトがそう言って、気迫の一撃を放ってきた。


 俺は槍を使って防御しようとするが、身体が動かない。 


 心は滾っているのに身体が動かないのだ。


 そして剣が俺に吸い込まれていく。


 もう防げそうにない……ここまでか。どうにかなると思っていたが、ちょっと傲慢がすぎたかなと思いつつも、振り下ろされる剣を見る。


 いや、まだ諦めるわけにはいかない。身体が動かなくても魔力があるだろ……


 振り下ろされた剣は俺の身体を両断せずに、俺の肩に刺さる。


 魔力はまだまだあるため。ギリギリで攻撃が来る場所に魔力を多く纏わせて防御した。


 だが、やはり力が入らない。意識が無くなりそうだ。


 俺はまだ弱いのか……死にたくないな……『力が欲しいか?』


 何者かが俺の心に問いかけてくる。力は欲しいに決まっているだろ。何物にも邪魔されない力が欲しい……『では、俺様に意識を受け渡せ』……どうすればいいんだ?……『簡単なことだ。俺様に続いて語れ』……力が手に入るんだな?……『ああ、もちろんだ。我らは最強になれる』


 最強か……いい響きじゃないか。


 俺は最強になりたい。


「――魔の魂源(こんげん)を司る大罪により」


 心のどこかで誰かがダメだと叫んでいる。


 だが俺は強くならなくてはいけないんだ。


 仲間のためにも。


「――聖の魔力よ反転せよ」


 俺の魔力が高まっていく。


 セトはその魔力に警戒して、俺の身体から剣を引き抜いたようで、止めを刺すために切りかかってくる。


 力は漲ってくるが、心は冷めていく。


 全てがくだらなく思えてくる。


 この世は力さえあればどうにでもなるのだから。


 最強になればいい。


「――お、「――雷付与(エンチャントサンダー)


 最後の言葉は言い切れなかった。


 そして、俺に当たるはずだった剣は何者かに防がれた。


 青白い髪長い髪に、整った顔。意識がもうろうをする俺はそれが女神のように見えた。


 そして、その何者かは俺を抱えると一瞬のうちに帝国の基地から抜け出した。


 俺はもう限界だったのか気を失った。


『おいおい、ここまで来て焦らされるのかよ……』


 



帝国中隊長セトの基礎能力

魔力量:B

身体能力:B

魔力操作:B-

精神力:C 

魔法:風の特別級加護

剣術:B+

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