15話:劣勢と無茶ぶり
王国と帝国の戦争が始まって一週間がたった。ゴモス平原戦線では僅かに王国側が優勢。しかし、メラレーン森林戦線では王国側が圧倒的に劣勢だろう。
メラレーン第4戦線。そこは熱帯雨林という地形で木が乱立し湿気のせいで地面がぬかるんでいるため、歩きにくそうだ。そこではボロボロの姿で戦う200人ほどの兵と赤の統一された鎧を纏う300人ほどの兵が戦っていた。どちらも連携はしっかりしているが戦力差は1.5倍、武具の差も考えるとそれ以上の戦力比だろう。
しかし、予想に反して優勢なのはボロボロの兵の方だった。
ボロボロの兵たちはその見た目に反して、赤騎士との一対一での戦いでは余裕を持って戦い、一体複数の騎士と戦っていても互角であった。
特に先頭で戦う白髪の男は頭が一つも二つも飛びぬけていた。騎士が何人いようともその手に持った純白の槍を一振りすれば鎧ごと敵を一撃で切り裂き。一突きすれば、敵の体に大穴を開けた。まさしく一騎当千といったところだろう。
白髪の男が敵の集団に切り込んでいくが、騎士たちは誰も止められない。
すると敵の集団でも特に高い魔力を持つ隊長風の男が指示を出す。
「お前たち、俺が出る下がれ!」
白髪の男と騎士隊長は相対する、その距離は約5mといったところだ。
「……風刃」
騎士の男が何か唱えると、圧縮された空気が白の男に飛んでいく、希少級風魔法だ。しかしそれを白の男が槍を一振りして切り裂く。それを見て騎士は驚く。
「馬鹿なこの距離でウィンドエッジを切り裂くだと!」
白の男は魔法を切り裂いた後、一瞬を距離を詰めて騎士に槍を突き出す。騎士はそれを手に持つ盾で防ごうとするが、その一撃は盾を貫きその後ろの騎士までをも穿つ。
騎士は死の直前に呟いた。
「ゴフッ……悪魔め……」
――――
俺は敵の小隊長を倒すと後ろで戦っている部隊の奴らに指示を出した
「追加で200人ほど回り込もうとしているな……ヴォルフ! ルーイ! ここはもう囲まれる、下がるぞ! 指示して部隊を撤収させろ! 殿は俺がする」
広範囲に展開させた魔法探知の範囲に多数の敵を感知したからだ。
「「……了解だ!兄貴!」」
それを聞くと、俺たちの部隊は引いていった。
多数の騎士に囲まれた俺は「さて、もう一仕事しますか」と呟いた。
この一週間でだいぶ人を殺した。だがやはり俺はゴブリンを殺した時と同じようで人を殺してもなにも思わなかった。それをなにも思わない自分自身に恐怖した。元から俺はこんなに壊れていたのかな……
俺たちは第四戦線の基地に無事帰ると食事を取っていた。
するとヴォルフとルーイが話しかけてきた。
「流石は兄貴だな!敵の小隊長を一突きとはな」
「ヴォルフだって一対一なら小隊長クラスと戦えるだろ?」
帝国の騎士団は100人の小部隊を基本として、1000人の中部隊、約数万から成る大部隊に分かれている。
「当たり前だな! 小隊長なんて俺にかかれば余裕よ!」
ヴォルフが自信満々にそう言うとルーイが突っかかっていった。
「同じ小隊長と言っても強さはまちまちです……ヴォルフでは今回クラスの小隊長を倒すのは難しいでしょうね」
「なんだと!喧嘩売ってるのかよルーイ!」
「事実を言っただけです」
ヴォルフとルーイが喧嘩に発展しそうになった。その時、後ろから声をかけられた。
「――聞いたよ! 敵の小隊長を撃破したらしいじゃないか。流石、純白といったところだね」
軍服を着た数人の男女を引き連れた30代ほどの優男風の男が話しかけてくる。ここメラレーン第四戦線の指揮官であるジャック大佐だ。
ちなみに純白というのは、次々に敵の小隊長を撃破していく俺に付けられた異名だ。
しかし、後ろの軍人たちが口を挟んできた。
「大佐! そんな魔法の使えない無色を褒める必要はありません! 所詮、近距離でしか攻撃できない無能です」
他の軍人たちがそう言って俺を貶す。無色というのは魔法を使えないとされる白髪の俺の蔑称だ。
それを聞いた部隊の奴らが怒りの表情で立ち上がったが「やめとけお前たち」と俺は止めた。
ここは穏便にいくためにも下手に出よう。
「俺の部隊のやつらがすみませんでした。確かに、魔法を使えるあなたたちと違って俺は役に立ちません」
俺はそう言うと、軍人たちは気分を良くしたようだったが、今度は大佐が口を挟んできた。
「そんなことはない、僕は奴隷たちに肉壁にして、安全な位置から魔法を打ってる君たちよりも、敵の小隊長を撃破してくれる純白の方が全然役に立つと思うがね」
大佐がそう言い放った。俺がせっかく下手に出て事を荒立てないようにしたのに。
「なぜですか? 何故その無色の肩を持つのでしょうか?」
「肩を持つというわけではなく事実だしね……しかも彼には君たちと同じで部隊長の地位として仮とはいえ少尉の地位を与えている。無色と蔑むことは僕、ひいてはこの任命権を与えてくれたフェール大将の采配を貶める行為だよ?」
大佐はそう言うと、周りの軍人は黙り込んだ。
「あ、そうそう、ここに来たのは君に用があったんだ。食事を食べ終わったら作戦本部に来てくれ」
大佐はそう言い残し、周りの軍人を引き連れて去っていった。
「兄貴は悪口言われえて悔しくないのか!……俺は尊敬する兄貴が悪く言われて悔しい、兄貴ももっと強気に言えよ!」
「久しぶりにヴォルフと同意見です。あの無能軍人どもは何もわかっていません。その点大佐はよくクオンの有能さをわかっていますね」
ヴォルフはそう言うとルーイも同調した。確かに俺の蔑まれて嫌な気持ちにはなる。だがそれよりも今は大事なことがあるだろう。
「いや荒事はない方がいい。今は味方と喧嘩している場合じゃないだろう? 俺たちの部隊は勝っているが、メラレーン戦線全体で見れば圧倒的に王国側は負けているんだよ」
メラレーン戦線は俺たち第四戦線も含めて6つの戦線に分かれている。第四戦線は俺たちの部隊のおかげで優勢だが、そのほかの戦線は壊滅的な被害をうけている。ちなみに一つの戦線あたり千人ほどの兵がいる。
それもそうだろう帝国側の方が人数も多いし、本格的に訓練を受けた騎士たちだ。一方、王国側は人数も少なく、本格的に訓練を受けていない奴隷だ。大将閣下は完全にメラレーン戦線を捨てているだろう。
俺は食事を食べ終わると、立ち上がった。
「じゃあ俺は作戦本部に行ってくるな」
ルーイとヴォルフは何か言いたそうにしてたが、俺は作戦本部に向かった。
――――
俺が作戦本部に着くともう全部隊長が揃っていた。部隊長は俺以外は全員が軍人の尉官たちだ。
部隊長たちに俺は蔑まれた目で見られたが、先ほど大佐に言われたのか暴言を言ってこなかった。
「揃ったようだね……さて、メラレーン戦線は僕たちの第四戦線とセレス少将の率いる第一戦線以外はほぼ壊滅している、そこでクリス中将からの指令を伝える……」
ジャック大佐は言いにくそうにしていた。
「はぁ、これは無茶ぶりだよな。それではこれは命令だ、第四戦線は現在戦っている帝国中隊を一つ以上二日以内に壊滅させろ……さて、何か案はあるか?」
そう大佐がいうと全員が無言になる流石に厳しいということだろう。
今回のメラレーン戦線帝国軍は1万超え兵の大隊1個隊その下に中隊10個隊その下に小隊100個隊がある。つまりここでいう中隊一つというのは約1000人の兵と中隊長1人に小隊長約10人ということだ。
俺が何人も小隊長の首を取っているが、そのたびに周りの余裕のある戦線から人員が補充されているため、一気に潰すしかないだろう。しかし正面から戦えば奴隷兵がほとんどのこちらでは勝ち目はないだろう。
「クオン少尉は何か案があるか?」
すると急に大佐から声をかけられる。少尉と呼ばれているのは帝国の小隊を壊滅させまくっていたら何故か臨時の軍人になっていたためだ。
しかし、いきなり案と言われてもな……何かあるか? 考えろ……帝国兵と今まで戦ってきて何か気づいたことはなかったか?……あ、そうだ、これならいけるかも知れない。
俺は少し考えをまとめてから話し出す。
「……帝国は王国ほど軍の階級がありません。基本的に大隊長、中隊長、小隊長の三つだけです。これは動きやすくなる代わりに、それぞれの隊長を失えば動きが悪くバラバラになります」
俺がこれに気づいたのは一番前線に出て積極的に小隊長を殺していったからだ。普通の隊長格は王国、帝国ともに魔法師であることが多く、前衛には出ずに後衛にいることが多いため、普通は打ち取られることはなく、逆に打ち取ることもないために、多分このことには気づいていない
「なるほどね……王国の軍の階級システムはタラッサ大将が考えたシステムで王国の場合それぞれの部隊長が失えば、次に階級の高いものが部隊長になるシステムだが、帝国は隊長を失ってもすぐには補充できないからね……つまり?」
「つまり、帝国の隊長を撃破してしまえば後は烏合の衆です……始めに俺が10人の小隊長と1人の中隊長を潰します。そしたら残りを大佐たちが部隊を率いて倒していってください」
大佐は考え込んだ
「流石だね……でもその作戦の意味はなんとなくわかったけど、問題は君がそれを出来るのか、ということだよ」
大佐がそう言うと周りの軍人が騒ぎ出した。
「貴様のような魔法なしの元奴隷に出来るはずができないだろう!」「そのとおりですな」「そうだな」軍人たちが騒ぎ立てる。
「――貴様らは少し黙れ! 貴様らは口だけは達者でこの状況を打開する案は考えつかないだろ! 俺は純白に聞いている!」
大佐が怒鳴る。いつも優しい雰囲気からは考えられないほどだ。周りの軍人は黙り込んだ。どこの世界もプライドだけの無能の部下を持つと大変だな。その点この戦線のトップがジャック大佐で助かった。
「……で、出来るのか?」
大佐はもう一度俺に問う。
ちなみに出来るかだが、俺が小隊長たちと戦った印象は中遠距離は強いが近距離は弱いということだろう。近距離が弱いと言っても普通の兵よりは強く、その魔力の量と質に対してということだ。小隊長である魔法師というのは何故か魔力操作を重要視していないためだ。
これは推測なのだが、魔法というのは詠唱をすれば勝手に発動するものであるため、あまり魔力操作の練習をしていないんだろう。
つまり魔力操作の練度の低さのため、その魔力を活かすだけの身体強化を出来てないので、魔法や周りの兵に邪魔されずに近距離まで近づくことが出来れば、俺ならば一瞬で倒すことは可能だろう。
近づくことが出来ればだ……だが周りの兵に邪魔されずに近づく方法も考えてある。なら俺はやるしかない。正式に奴隷から解放されるために……この戦争に勝って奴隷の首輪を外してもらうために
「……はい。中隊長の実力はわかりませんが、小隊長なら10人いてもいけるでしょう」
その後、作戦本部で具体的な案を話し合った。
仲間の奴隷たちの基礎能力
魔力量:E
身体能力:C
魔力操作:D
精神力:E
魔法:無し
武術:D+
帝国の一般兵
魔力量:E
身体能力:D+
魔力操作:E
精神力:E
魔法:無し
武術:D




