12話:奴隷兵
帝国との国境の近く城郭都市ソドラ。
魔石を加工しできた城壁で四方に囲まれたこの都市は物理にも強いのはもちろんだが、魔法による突破は不可能とまで言われている。
そんな街に俺たちは来ていた。
俺たちは軍に参戦の報告に行くために街の通路を歩いていた。
街の住人はいなくどうやら避難しているようで、周りには俺たちのほかに平民兵や軍人のような人たちしかいない。
俺たち奴隷兵はどうやら蔑む対象らしく、周りからは蔑んだ目で見られていた。
「兄貴、俺たちさっきからめちゃくちゃガンつけられてないか? ぶっ飛ばしてきていい?」
今、俺に話しかけてきたのはA18と呼ばれていた奴隷で元の名前はヴォルフ。180超えた身長に大柄の体、20代後半で、いかにもチンピラそうな見た目をしている。奴隷たちの中で一番ダルがらみしてくるので訓練でボコボコにしてやってたら、奴隷たちの中でもトップクラスに強くなったので、一応副リーダーを任せている。ちなみに俺は何故か兄貴と呼ばれている。強さ的には冒険者ランクでいうところのC級上位くらいだろう。
「……ダメに決まっているだろ、俺たちは奴隷でただでさえ敵視されやすいのに自分から絡みに行くなよ」
「そうですよ、ヴォルフ。あなたみたいな脳筋アホ奴隷じゃ、理解できないでしょうけど余計な事するなってことですよ」
俺がヴォルフに注意すると俺の横から中世的な声が聞こえてきた。
こっちは前の戦ったルーイだ。少し濃い目の青髪に160ほどの小柄な体、中世的な整った顔と声だ。いろいろこの世界のことを知っていて賢く、魔法だけではなく奴隷たちで一番の魔力量、質、操作に全てに優れているため、戦闘能力も高い。明らかに15歳ほどにしか見えないがこれでも俺よりも長く訓練所にいたらしく今年で20歳らしい。ちなみにルーイも副リーダーの一人だ。冒険者ランクにするとB級と言った強さがある。
「あ?なんだとルーイ喧嘩売ってるのかよ?」
「あなたと戦ったところで結果は見えているので大丈夫です。僕の勝ちという」
「ぶっ殺す!」
ヴォルフがルーイに掴みかかろうとしたので俺はそれを止めた。そのいつもの光景に周りの奴隷たちは笑っている。しかし、俺たちの前から声が聞こえてきた。
「おや、こんなところで奴隷たちが遊んでいるようじゃないか」
「そうですね、奴隷など我が王国軍に不要なのではないでしょうか?」
「全くもって、その通りだね」
王国軍人らしい男たちがそう言ってくる。魔力の質を探知したところ先頭の奴は希少級魔法師、後ろの数人は普通級と言ったところだろう。ただ魔力操作の練度は低そうなので先頭のやつはルーイ以下ヴォルフ以上の強さと言ったところで、後ろの奴らは俺が訓練した一般的な奴隷たちでも対処可能だろう。
「てめぇ、俺らに言ってるのか、ぶっ飛ばすぞ!」
「なに? 奴隷ごときが調子に乗るな、どうせだし私の魔法で処分してやろう」
ヴォルフが逆上して、軍人たちのほうに向かおうとし、軍人は魔力を高め魔法を使おうとする。
「ヴォルフ!やめておけ」
「兄貴、なんで止めるんだよ」
俺はヴォルフを止めた。ここでいざこざ起こしても意味はないし、何よりこれから帝国と戦争なのに味方と争っていられない。
「すみません。うちの奴が無礼を働きました、どうかお許しを」
「貴様が奴隷の長なら、ちゃんと下のものの躾はしておくんだな。ゴミはゴミらしくしておけと」
こいつ俺の仲間のことをゴミと言ったのか、絶対にいつかぶっ飛ばしてやる。
だが今こいつを倒しても悪くなるのは俺達だろう。ここは我慢だ。
「はい。わかりました」
俺がそう言って、頭を下げると軍人は気がそがれたようでそのままどこかに行ってしまった。
「兄貴、なんで止めたんだよ!」
「……俺たちは奴隷なんだ、余計なことをして目を付けられる必要はないよ」
「そうですよ、もし貴族の軍人に目を付けられたら余計な言いがかりをつけられて殺されますよ?……私たちはもう奴隷なんですから……」
ヴォルフはルーイがそう言うと黙った。だが周りの空気が暗くなってしまった。
「……まあ、今回の戦争で活躍して奴隷から解放されれば自由の身だ。 だからヴォルフそれまで耐えてくれ」
「わかったよ……」
そう言って少し暗い雰囲気のまま、俺たちは軍本部に行き、受付をした。
開戦までもう少しだ……俺の中には不安などはなかった。
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side:とある軍の一室
「お嬢、そういえばさっき表通りで奴隷兵と軍人たちが一触即発の事態になりかけていたよ」
雷のような色の青白い髪の女が話す。
「よくあることじゃない。なにか気になることでも?」
まるで深海の中のような濃い青髪の女がそう返した。
「それがさ、見た感じ奴隷の集団のくせして魔力操作の練度が高かったんだよ! 多分、最低でも魔力浸透くらいはできるレベル」
「……へー、無能な魔法師どもと違ってちゃんと魔力操作の重要さを知っている感じね、今度から軍の訓練内容にも魔力操作は入れたほうが良さそうね」
「そうだね! でもそれだけじゃなくて、加護持ちが二人いたんだよね。 一人は薄い青髪の小さい女の子みたいな子、もう一人は白髪の連邦国にいそうな見た目の男の子、「ーー待って? 奴隷で連邦国にいそうな感じの見た目で白髪って言った?」
青髪の女が驚いた表情をする。
「そう! それで、しかも魔力の底が見えないくらい多かったな、量だけでいったら私以上だよ……なんかあった?」
「ベス、その白髪のこと監視して、もしものことがあったら保護して私に報告してほしい」
青髪の女が何か考えながらそう言った。
「りょうかい! でも白髪って魔法使えない人だよね? なんで加護もってたんだろ、お嬢は何か知ってるでしょ?」
その青白い髪の女の問いかけに青髪の女はとぼけるように首を傾げた。
「世界には知らなくてもいいことがたくさんあるのよ……いや、そんな加護のことよりも白髪の男自身のことの方が重要だわ」
王国軍人の基礎能力※平均
魔力量:D
身体能力:D
魔力操作:E+
精神力:E
魔法:属性の普通級加護
武術:D




