11話:ルーイの想い
side:ルーイ
僕、いや私はモネ。実はモネが本名で、ルーイというのは偽名だ。
元々貴族の家の生まれだった。
王国の公爵家の第一子の長女として生まれた。
公爵家の第一子というため、とても期待を寄せられた。
貴族というのは才能至上主義だ。
特に一番重要なのは魔法の才能だ。
魔法の才能というのは魔力量を意味する。何故なら魔力量が少ないとダンジョンの試練を受けることすら出来ずに加護を手にすることが出来ないからだ。
ダンジョンの試練は難易度によって5段階に分かれていて、上の難易度に挑戦するには一定以上の魔力量が必要となる。
それで人間の魔力量というのは生まれた時に決まるものではない。いや詳しく言うと生まれた時も魔力量の違いはあるがそれは微々たるものだろう。
じゃあ、いつ魔力量が増えるのかというと、神に認められた時に魔力量は増えると言われている。
例えば周りに轟く偉業を成し遂げた時などだ。他にも貴族の場合は元服と言って15歳の成人の儀式の時、領民への顔見せの時をすることによって神に認められ魔力量が増える。
つまり貴族の場合はこの元服の儀式のときに神に認められ、魔力量が一定以上に増えていなければならない。
しかし私は運が悪かった。
私が12歳の時に両親が養子を取ったことで私に義理のお姉さまが出来た。
義理のお姉さまはとても優秀だった。頭が凄まじく良くて、とてつもない美貌。魔力操作の才能も抜群、なにより元服前だというのに第三の加護を手にしていて特別級魔法師だった。お姉様は元服前に神に認められる偉業を達成していたのだろう。
そんなお姉様は王国の神童と言われていた。
正直言って義理の妹の私から見てもお姉さまは才能の怪物だと思っていたし、何を考えているのかわからない感じの雰囲気を持っていて少し恐ろしかった。
そんな義理の娘であるお姉さまに、私の両親は期待を寄せた。
そしてお姉様が元服すると、その神童の噂も出回っていたのもあり、領民だけでなく神に認められ圧倒的な魔力量を手にした。
そして、二歳年下の私は二年遅れて元服したが、その時ちょうどお姉さまが第四の加護を手に入れて王国で歴代最年少で伝説級魔法師になった。領民はその話題で持ち切りで、私の元服には一切の興味を示さなかった。
そして私は元服を迎えたが魔力量があまり増えなかった。どのくらいの魔力量かというと第二の試練を受けるのがやっとというくらいだ。つまり私は領民にも神にも認められなかったということだ。
その時の両親の顔と言った言葉は今でも覚えている。いつも私たち貴族が加護を持たない平民や奴隷に見せるような侮蔑の表情をしていた。
「歴史ある公爵家の歴代最低の魔力量だな。公爵家の面汚しめ、神童と名高いフェールを養子にして正解だったな。あの子は素晴らしい魔法の才能を持っている。お前のような無能と違ってな……今まで大事に育てて可愛がってやっていたのに、良くも儂の期待を裏切ったな!」
それからというもの両親は今まで可愛がっていた私に対して冷たく当たるようになり、血のつながりもないお姉様ばかりに甘くなっていた。
私はそれでもなんとか両親の期待に応えようと、毎日魔術の練習をした。そして冒険者を雇いダンジョンに行き一年で第二の加護まで手に入れて、16歳の時には希少級魔法師になっていたのだ。
16歳でこれはかなり凄いことで偉業であったが、この時もちょうどお姉さまが王国で唯一の水属性の神話級魔法師になったのだ。たった18歳にして。
そのため私が希少級魔法師になったということは誰の話題にも上がらなかった。
そして、ついにその日が来た。
両親の間に第二子が産まれた。
お姉様が家を継ぐことになっているが、もしものために予備が必要だった。それが私だった、しかし第二子が産まれて私は予備の役割すら果たせなくなったのだ。
その日は普段、声もかけないはずの両親に「執務室に来い」と言われて呼び出された。
そこに行くと、お父様とお母様とお姉様がいた。
お父様が口を開く。
「モネ、お前は勘当だ。家から出ていけ」
その言葉を聞いたとき私の頭は真っ白になった。しかし私は私なりに努力してきたつもりだ。そしてこれからも両親に認められるために頑張ろうと思っている。
「待ってください。私頑張りますから、今よりも頑張って絶対に神に認められて魔力量を増やして、もっと上の加護を手に入れます……だから私を捨てないでください。お願いします」
私は号泣しながらそう言ったが今度はお母様が話し始めた。
「これは家族みんなで決めたことなの。いつまでも公爵家の恥さらしのあなたをここに置いとくわけにはいかないのよ。だからわかってちょうだい」
家族みんなで決めたこと? じゃあ私も家族じゃないの? でもお姉様に頼れば大丈夫だ。次の当主はお姉様なのだからお姉様がいていいと言ってくれれば私はまだここにいられる。
それにお姉様は両親と違って私に魔力量がないとわかってもいつも通り接してくれたのだからきっと大丈夫。
「お姉様……お願いします。家から追い出さないでください」
私がお姉様に懇願する。
お姉様はいつも通り冷たさを感じる青い目で私を見てきた。その目の奥は海よりもずっと深かった。私はなにを考えてるかわからないこの目が少し苦手だった。
お姉様は冷たい声で私に言った。絶望の宣告を。
「なんで私があなたを助けないといけないの? 何かメリットはある?」
その言葉に心が折れそうになった。お姉様まで私を見捨てる気だ。
「メリットはないかもしれませんが、なんでもします。お願いします……」
私は必死になって頭を下げた。しかしお姉様は私に近づくと耳元で「あなたに興味がないの……いや、私は全ての人に興味がないの……ただ一人を除いてね。だから、あなたがどうなろうと私には関係ない」と言い放ち、部屋を出て行ってしまった。
両親はお姉様が部屋から出ていくのを見ると私を追放した。
しかも公爵家の血筋の流出を防ぐために、魔道具によって私の身体を妊娠できない身体にした。
私の心はそこで折れてしまった。
そして、私は生きる気力を失った。
両親はさらに私から名前を取り上げ、私はルーイとなり平民になった。
私は数年の間、呆然とし、普通の生活も出来ずにいた。気づけば両親から渡された資金も底を尽きた。
資金が無くなったので、冒険者になるか奴隷になるかどちらか選ぶしかない。しかし私は自主的に生きようとも思えなかったので奴隷になることにした。
奴隷になり、娼婦奴隷になるのは嫌だったので、自ら危険とされるダンジョン奴隷に志願した。
奴隷の生活は予想していた時より悪くなかった。私は妊娠も出来ないのだし女であることを隠して男として生きているが、希少級魔法師であるということで大いに期待されて、周りの奴隷や教官たちに認められた。とても嬉しかった。
しかし奴隷になったある日、ある教官から話を聞いた。
「今度の戦争はうちからも奴隷を兵士に徴兵するらしく、その部隊のリーダーに無色の奴隷が選ばれるらしいぞ。俺はそんな奴よりも希少級魔法師であるお前の方がいいと思うんだけど、お前は自分からリーダーになろうとか自発的な人間じゃないもんな……この話は気にするな」
無色の奴隷? 魔法の使えない、いや加護すら手にすることが出来ないそいつがなんでリーダーに選ばれるんだよ? 魔法の使えない奴が周りに認められるなんてあり得ない……だったら何故、私は両親に捨てられた?
「私がリーダーになります。魔法の使えない奴に負けるわけにはいかない……」
教官に私がそう言うと喜んで私を候補にあげた。
そして、そいつとの試合の日が来た。
私はそいつに負けるはずがないと思っていた、魔法の使えないそいつに。
しかし、試合が始まり蓋を開けてみると、私は防戦一方だった。
魔法という価値を粉々にされた。
試合が終わるとそいつは私に話しかけてきた。
魔法以外も凄かったと、その言葉を聞いて私は「私には魔法しかないのだ」と激高した。
しかし、そいつは人の価値は魔法だけでないと言った。私の価値は魔法だけじゃないと、
私の今までの人生は魔法が全てだった。貴族の時は魔法の才能がないからと捨てられ、奴隷になってからは希少級魔法師だからと認められた。
結局、周りの人間は私の魔法しか見ていないのだ。そして私自身も魔法でしか価値を測れなかった人間であったことに気付かされた。
そして、そいつは唯一、私のことを魔法以外で見てくれたのだ。
私の魔法は今日で終わりだ。そして今日から新しく人生をはじめよう。
そして、クオンは貴族の時のモネではなく、今のルーイを認めてくれたのだ。
だから、これからは私はルーイだ。偽名としてでは私の今の本名として。
そして今よりも、クオンに認められるためにも頑張ろうと思う。
それが私の新しい人生の目標だ。
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