8話:魔法の力
ルーイとの距離は10mほどある。身体強化を使って近づけば一瞬で詰めることが出来るだろう。
相手の髪色的に使う属性は水なので、そこまで強力な魔法は使えないはずだ、水の希少級魔法までだと、普通級の氷の塊を発射するアイスボール、自身の身体に水を纏わせ攻撃を防ぐエンチャントウォーターなどが代表的で、希少級だと水の壁を作り出すウォーターウォール、氷の槍を飛ばすアイスランスなどがある。
俺がいろいろ戦闘について考えていると、教官が話し始めた。
「じゃあお互いに準備はいいな?」
そう言われ、俺は槍を構え、ルーイは剣を構える。互いの手に持つ武器は模擬戦用に刃を潰されているが、金属の塊なので当たり所が悪ければ死んでしまうだろう。
教官が手を挙げた。
「これより、リーダー候補どうしの戦いを始める……始め!!」
教官がそう言って手を下げた。
瞬間に俺は、身体強化を使い距離を一気に詰めた。
その勢いのまま槍を突きだしこのままルーイに当てに行く。
「――水壁」
しかし、目に前に水の壁が出てきて、俺の一撃は防がれた。
殺さないように手加減していたとはいえ槍の一撃はそれなりの威力があったはずだが防がれたということはなかなかに耐久度はありそうだ。
「――氷玉」
さらに俺に追い打ちをかけるように氷の塊が勢いよく発射された。当たれば骨くらいは折れそうな勢いだ。
それを避けるために一時的に後ろに俺は引いた。
対峙してみてわかったが、水属性は俺にとってはなかなかに厄介だろう。火や風と違って質量で壁を作ってくるのでなかなかに近づけない。無理に壁を破壊して、突破しようとすれば魔法を正面から当てられるだろう……しかしなんとかなりそうだ。
「なかなか言うだけはあるんだな」
「あなたこそ、身体強化が凄いですね……気づいたら目の前でした。ですがその一撃で決められなかったあなたの負けです」
「それはどうかな? じゃあ行くぞ」
俺はもう一度は距離を詰めた。
するともう一度水の壁を作り出されたので、槍を突くのではなく、振ることでそれを切り裂く。
水の壁が破られ、ルーイの姿が見える。
今度は氷の塊ではなく、氷の槍がさっき以上のスピードで飛んできた。
その氷の槍が俺に当たる瞬間、ギリギリ槍でそれで防いだ。
速度の緩急があったため、防ぐのがギリギリであと少しで当たるところだった。
「っな!! アイスボールよりも速いアイスランスを防ぐなんてあり得ない」
もう距離は近い、魔法の詠唱は間に合わないだろう。俺が槍を振るう。
キン、とルーイは焦りながらも剣でその一撃を防いだが威力に耐え切れずに剣を手放す。
俺はそのまま勝負を決めようと攻撃したが、今度はギリギリでルーイは「――水付与」と詠唱する。
水を身体に纏わせその一撃を防ぐ。
殺さないように手加減しているため水の衣を突破できなかったようだ。
「凄いな三度も攻撃が防がれるなんてな、でも君はもう手に武器を持っていないし、この近距離では魔法は使えない……降参したら?」
「まだ勝負は終わってないです。魔法の使えないあなたにだけは負けるわけにはいかないんです」
ルーイにも何か事情があるように言った。
そして、今度は「――氷創造」と言って氷の剣を手に作り出した。
そのまま俺たちは槍と剣で打ち合った。
しかし、その均衡は長くは持たなかった。俺の方が身体強化と武器の練度も高いため、近距離で打ち合っていると数十秒のうちに氷の剣は折られ、俺が優勢になった。
そして、槍をルーイの首に突き付けた。
「まだ奥の手がある?」
「降参です」
ルーイが降参して、俺の勝ちが決まった。
――――
「まさか、希少級魔法師に勝つとはな――」「私もルーイが勝つと思っていましたがまさかですね」「あの距離でアイスランスを防ぐとは凄まじい」
「それに凄い身体強化の練度で速かったな」「身体強化だけではなく槍の練度も凄いですね、リク教官に匹敵するほどだ」
「これなら奴隷部隊の隊長を任せられるでしょう」「そうですね」
リク教官以外の試合を見ていた教官たちがざわめいている。
「あの距離で魔法を切り落とすとはな……凄かったじゃないか」
リク教官が俺に近づいてきて声をかけてきた。
「教官との鍛錬が身になっただけです。ありがとうございます」
「初めのころと比べて、お前も強くなったもんだな。俺は最初からこの勝負は勝てると思っていたが、魔法が使えなくても努力し続けたお前自身の成果だよ」
教官が褒めてくれている。だが気がかりが有る。
「ありがとうございます……ちょっとあっちでルーイと少し話をしてきます」
俺は落ち込んで座り込んで下を向いているルーイに声をかける。
「凄い魔法だったので、手加減をあまりできなかったです。怪我はないですか?」
「怪我はありません。あとお世辞はいりません」
ルーイはそう言って、そっぽを向く。
「最後のアイスランスはアイスボールの速度で来ると思っていた俺の意表がつけていて、防ぐのがギリギリになってしまい危なかったです。ほんとに凄かった、魔法も凄かったけど……なにより頭もいいんですね」
「凄いのは魔法だけです」
ルーイはそう言って、顔を俯かせる。とても暗い顔だ。過去に何かあったのだろうか。でも俺の気持ちは本当だ。魔法だけが凄いとは思わない。
「いや、そんなことはないですよ、魔法だけじゃなくて戦略も詠唱速度も凄くて、あと俺の攻撃を剣で防いでたじゃないですか。自慢じゃないですけど、俺の攻撃を防げるのは奴隷の中でもそう多くはないと思いますよ。ちゃんと魔法だけじゃなくて訓練をしてるんだなと思いましたよ」
「ですがそんなのは関係ないです! 僕の価値は魔法だけなんです!」
その言葉は俺にとっても聞き捨てならない。
「……人の価値が魔法だけのわけはないだろ!」
「あなたに何がわかるんですか!!」
何がわかるか、確かにルーイの過去に何があったのかわからない。それでも魔法だけが人の価値だとは思わない。何より魔法の使えない俺がそれを認めるわけにはいかないしな。
「君のことはわからない。でも俺も鉱山奴隷だったときは、魔法の適性の無いこの白い髪のせいでさんざん嫌な目にあってきた……それでも今はこうして強くなっている、リク教官に認められている。別に魔法がなくても強くなれるし、人に認められるじゃないか……君の過去に何があったのかわからないけど、過去と今の君は違う! 俺は今の君を認めているんだよ」
俺がそう言うとルーイは涙を流した。
「なんで褒めてくれるのですか? 僕はあなたを貶したんですよ」
「褒めてるわけじゃなくて事実だし、別にそんなに気にしてないよ。魔法が使えない無能だからどうしたって感じだね」
「え? でもさっきは怒ってましたよね?」
あ……たしかに何故だろう? でも今は全然、怒りの感情はない。さっき貶された時は感情が抑えられなかった。まるで自分の感情じゃないかのように、もしかして戦闘でスッキリしたのか?感情というのはよくわからないものだ。
「まあ、あの時は戦闘前で気が立っていたかもしれないな。ごめんなさい」
「僕の方こそすみませんでした。魔法の使えない無能などと言って、人を傷つけるなんて僕は最低ですね。無能と言われる痛みは知っているはずなのに……」
「別にいいよ。俺は傷ついてないし、俺も悪口言ってしまったし、これからお互い気を付けよう」
「はい」
俺とルーイは無事仲直り出来たみたいだった。
「そういえば、凄い身体強化の練度と槍捌きでしたね。相手をしていて思わず見惚れてました」
「ありがとう。でもそれならよかった努力したかいがあったもんだね」
「こちらこそ私のことを褒めてくれてありがとうございます」
俺とルーイはお互いを褒めあった。
「そういえばお互いさ、君とかじゃ分かりにくいし、俺のことはクオンでいいよ」
「ではクオンと呼びますね。僕のことはルーイと呼んでください。ちなみに僕は男ですよ」
ルーイはどうやら男だったらしい。見た目は女にも見えるけど本人が言うならそうなのだろう。
「じゃあ、ルーイって呼ぶね」
「はい、わかりました」
これで試合前のごたごたは解決でいいだろう。
しかし、俺は感情が高ぶって、ため口になっていたことに気付いた。
「あ、なんか熱くなって話してたら気づいたらため口使ってしまいました。不愉快だったらごめんなさい」
「ふふ、全然不愉快じゃないですよ。ため口で大丈夫です」
俺がそう言うとルーイは初めて笑顔を見せた。その笑顔は男であるとわかっていてもドキッとするとても魅力的な笑顔だった。
「わかったよ。じゃあルーイも気軽にため口でいいよ」
「僕はこのままで大丈夫です。こっちの方が慣れているので」
「了解! ところで水の魔法のこと良かったら教えてくれよ」
「いいですよ! じゃあ私にも身体強化のコツとか教えてください」
「そうだね―――」
一時はやばい奴が来たと思ったが、どうやら、ルーイと仲良くなれそうだった。これから一緒に戦場に行くのだし仲良くなっておいて損はないだろう。
それに男のくせして可愛いし、ってあれ俺ってホモじゃないよな?
ルーイの基礎能力
魔力量:C
身体能力:E+
魔力操作:C+
精神力:E
魔法:水の希少級加護
剣術:D+




