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クマムシに仲間を与えられました。

 広間に行くと、そこには僕も含めて八人の男女、そして八匹のクマムシがいた。

 八人の人間と八匹のクマムシが集まる広間、この光景は異常でしかなかった。気持ち悪いとしか言いようがない。

 そう思いながらも僕はゆっくりと八人の人間の顔をじっくりと見た。

 やはり知った顔は一つもなかったが、本当にこの人たちの中に生前好きだった人と嫌いだった人がいると思うと何だか変に緊張する。


「ミナサン、適当に座って」


 僕たちはクマムシに促されるまま、それぞれ長テーブルに腰掛けた。

 僕の目の前に座る男はやたらと体が大きく、ヤから始まる危ない職業の人みたいだ。目があったのでとりあえず笑みを浮かべてみると彼にチッと舌打ちをされた。


「俺、お前嫌いだわ」


 笑いかけてやっただけなのに嫌いと言われた僕を可哀想だと思ってくれるヤツは誰もいないのか?というか初対面で人の好き嫌いがわかるのか?

 失礼なヤツめ。


「ホラ、福太郎も雄一もケンカしないノ。昔の同級生ヨ」


 クマムシに喧嘩を止められる人間とは何とも情けない。雄一という名前らしい男はまた舌打ちをして、苛立たしげに足を組み直した。

 育ちが良くて繊細な僕にはこんな態度の友達はいないはず。多分、こいつが生前嫌いだったヤツだな。


「じゃ、ミナサンにはビデオ見てもらうヨ」


 クマムシがそう言うと突然、昭和っぽい箱型のテレビが動き出した。そこにうつされたのは大破している大型バスだった。

 わけがわからないのは僕以外の七人も同じらしく彼らは皆一様にキョトンして画面を見つめている。


『これは12月6日、君たちが乗っていた観光バスだ』


 気持ち悪いボイスチェンジャーの声が耳をくすぐるように語り出した。


『やあ、こんにちは。

 僕はゲームマスターのクマムシ。あ、ちなみにそこにいるぬいぐるみのクマムシたちは僕が開発したAIロボットの一種だ。かわいいだろ?』


「気持ち悪いだけなんだけど」


 僕の右隣に座っていたギャル風の女子が全員思っていたであろうことを代弁してくれた。思ったことをはっきり言える点は尊敬するがあまり関わりたくないタイプだ。

 この人が好きだったということはないだろう。ギャルは怖い。


『その口が悪い君は霜月しもつき彩葉いろはさんだね。

 じゃあ彩葉さん、申し訳ないけどみんなにクマホを配ってくれるかい?』


「クマホ?」


「これヨ、これ」


 ぬいぐるみのクマムシが彩葉にスマートフォンらしき電子機器を手渡した。しかしよく見るとそのスマホカバーにはクマムシのイラストが描かれている。

 正直、センスが悪い。


「何これ?だっさ」


 そう言いながらも彩葉は久しぶりのスマホ――いや、クマホに夢中だ。立ち上げたりボタンを押してみたり表情さえも少し明るくなっている。

 結局、彩葉に代わりなぜか僕がみんなにクマホを配ることになった。だが「ありがとう」の一つ言ってもらえず、すでに僕の人権はないがしろにされていることに気付かされた。

 でもタイプの女子はいた。

 黒髪ロングのおとなしそうな女の子だ。クマホにあった名前は『斎藤美尋さいとうみひろ』。

 彼女がいるだけであと一週間は頑張れそうだ。あの世にそんな時間の概念があるかはわからないけど。


『ゲームの期限は三か月。

 そこで生前好きだった人物、嫌いだった人物を探して今から配る紙に書いて僕に提出してください。クマホはいろんなアプリとかあって機能性抜群だから役に立つと思うよー!

 じゃ、僕忙しいから。諸君の健闘を祈る』


 一方的に話したい事だけ話してプツンとビデオは切れてしまった。そしてまたもや僕がGMゲームマスターが言っていた紙を配るはめになる。これで小田福太郎はカースト最下層という共通認識が生まれてしまった。

 部屋に戻ったら一人で泣こう。もしかしたら斎藤美尋が慰めに来てくれるかもしれない。


「ちょっと、何ニヤけてんの?キモイんだけど」


 彩葉に思いっきり睨まれた。いけない、こういう妄想は部屋に戻ってからにしよう。

 それにしても本当に僕たちは生きていたころ同級生だったのか?そう思うほどにまとまりがなく、会話なんてものは弾むどころかキャッチボールさえままならない。

 かと言って下っ端決定の僕が何かするのもキャラじゃないので黙っていることにした。


「提案なんだけど……一回この紙書いてみない?」


 その可愛らしい声に皆がいっせいにクマホから顔をあげた。

 斎藤美尋の声だ。彼女は少し恥ずかしそうに僕が先ほど配った紙を手にしている。

 そういえばクマホに夢中でよくその紙に目を通していなかった。僕とみんなはシンクロダンスみたいにそろってその紙をながめる。

 内容はいたってシンプルだった。

 好きだった人、嫌いだった人を書く欄が無機質に並んでいる。たったそれだけ。


「もちろん、まだゲームマスターには提出しないよ。

 でも……第一印象って結構大事じゃない?だから一回書いてみよう…なんて」


 一番最初にうなずいたのは意外だったけど彩葉だった。


「いいよ、私はだいたいわかったから。

 早くこんなクソみたいなとこ抜け出したいし今この紙を書いてそのまま提出するわ」


「……提出はやめといたほうが良いと思うよ。だって、まだみんなのこと何も知らないし……」


「はあ?第一印象が大事って言ったのあんたじゃない。

 それにどっちにしろ他人のあんたらに止められる筋合いはないから。生きてた頃どれほど仲が良くっても今じゃほとんど初対面でしょ」


 彩葉のきつい言葉に美尋は今にも泣きそうな顔をした。

 それでも誰も何も言わなかった。それは紛れもなく、彩葉の言葉が正論だったから。


 僕らは同級生でも友達でもなんでもない、赤の他人なんだ。


「ねえ、ぬいぐるみ。

 これゲームマスターに渡しといて」


 彩葉は紙を書き終えると押し付けるようにそれを手放した。


「ホントに提出でいいんですネ?」


「良いって言ってるじゃない。はやくして」


 ぬいぐるみたちは彩葉の紙を持ってぞろぞろと部屋をでていく。そんなに大ごとなのかと思ったが確かに彼女の生死が決まるんだ。

 そう思うと僕まで緊張する。

 その時だ、再びオンボロテレビの電源がついてGMの声が聞こえた。

 

『えー、霜月彩葉さん。

 あなたの予想、見させていただきました』


「前置きとかいらないから、私を早く生き返らせて」


『じゃあ、言わせていただきます』


 そう言いつつGMはもったいぶるように少し間をおいた。


『残念ながらあなたは地獄行きです』

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