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第一話 如月咲夜という女

「まずい。これは本格的にまずい」


目が覚めたのは4限目の数学が終わり、昼休みに入って10分経った頃だった。教室を見回してみるとみなそれぞれ机を寄せあったり、廊下に座り込んだりと思い思いの場所で昼ご飯を食べている。

完全に出遅れてしまった。

俺は立ち上がり購買に急ぐ。理由はただ一つ、購買の絶品パンを手に入れるためだ。うちの高校では昼休みになると近所のパン屋が焼き立てのパンやサンドイッチを売りに来るのだがこれがどれも絶品でものの数分で完売してしまう。特に塩バターロールはすさまじい人気で昼休みになると同時に争奪戦が始まってしまう。

階段を駆け下り、昇降口前の購買へ急ぐ。案の定、人でごった返していた。


「おばちゃん、焼きそばパンひとつ!」

「ちょっと、おさないでよ!」

「おい!抜かすんじゃねーよ!」

「カツサンド売り切れちゃってる~」


これは選んだりしてられないな。俺は人ごみの隙間に手を入れて適当につかんだアンパンを持ちレジに行く。人ごみをかきわけレジに向かう途中でアンパンはぺちゃんこになってしまった。あんこ飛び出ちゃったじゃねーか・・・

俺の名前は遠野とおの 正午しょうご

友達がいないことを除けばごくごく普通の高校二年生。特にこれといった特徴もないが強いて言うなら少し目が悪いことくらいか。

自販機でパックのコーヒーを買い、中庭もとい俺のベストプレイスへ向かう。

うちの高校は校舎が七個あり、学年ごとに校舎を分けられている。一年生のクラスが集まっている東校舎、二年生のクラスが集まっている南校舎、三年生のクラスが集まっている西校舎、文化系の部室が集まっている北校舎があり、四方を校舎に囲まれる形で中庭がある。残りの三つの校舎は職員棟兼特別教室、北旧校舎、南旧校舎となっている。

昼休みの中庭は人で溢れているが南校舎の影になっている場所だけとある理由で誰も寄り付かない。

中庭をぬけまっすぐに南校舎の影まで歩いていく。喧騒も影に近づくにつれ薄れていく。

そこにそのとある理由がいた。


青いベンチで本を読んでいる少女。

彼女の名前は如月咲夜きさらぎ さよ

猫を思わせる切れ長の大きな瞳に桜色の唇、病的なまでに透き通る白い肌と長い黒髪のコントラストが目を引く、すさまじい美少女だ。彼女を一目みたら誰もが心奪われるだろう。

こいつの内面の汚さを知らなければ。


「はあ・・・今日も来たのね」

「別にいいだろ。お前だけの場所じゃないんだし」

「毎日毎日、昼休みにあなたの顔を見るのは不愉快なの」


みたくないならあなたが移動すればいいんじゃないですかね。読書するなら図書室に行けよ。


「図書室は嫌いよ。あそこの司書さん、おしゃべりだから」


なるほどね。あの人しゃべりだすととまらないからなあ。

この高校は図書室がやたらと広く図書委員だけでは管理しきれないので司書の人が常駐している。

優しく愛想のいいおばあちゃんなのだが、どうやら話好きなきらいがあるらしく訪れた生徒を捕まえては話し相手にし昼休みがおわるまで開放しないらしい。


「まあ確かにな・・・てかナチュラルに俺の思考読むなよ。エスパーなの?」


咲夜は俺の言葉を無視して文句を言い続ける。


「だいたい教室で食べればいいじゃない」

「・・・静かなところで食べたいんだよ」

「とか言って教室に居場所ないだけなんじゃないの?あなた友達いないものね。嫌われ者だし」

「理由わかってるんなら聞くなよ!それにお前だって友達いないじゃねーか」

「友達なんて必要ないわ。大体同年代の子はバカばっかり、騒ぐことしか能のないおサルさんなんだからこの私とまともに会話できるとは思わないわ」


こいつほんと自分のことなんだと思ってるんだろうね


「お前の場合、友達作ろうとしても怖がられて誰も近寄ってこねーよ。現に避けられてるからいつもこの場所には人が寄り付かないんじゃないですかね」


昼休みのにぎやかな中庭で不自然なほど南校舎の周りには人がいない。いや、いないというのは間違いで寄り付かない。

この南校舎の影に人が寄り付かないとある理由とは何を隠そう、こいつがいるからである。


「だれかれ構わず罵倒するのやめたら話しかけてもらえるかもよ」

「話しかけてほしいと思ったこともないし、罵倒した覚えもないわ。事実を言っているだけだもの」

「そういうところだよ・・・まあできないことは仕方ないよな」

「一つ勘違いしないでほしいのは作れないんじゃなくて作らないだけよ。遠野くんみたいな友人を作る能力さえない社交性皆無のおサルさんとは一緒にしてもらいたくないわ」


こいつ、俺が反論しないことをいいことにめちゃくちゃ言いやがる。さすがに言われっぱなしというのも面白くないからな、ここでびしっと一言いってやらねば。


「おい、さすがにそれは失礼だろ。大体お前だって-------」

「そうよね、あなたなんかと一緒にしたら猿に失礼よね。サルでも立派なコミュニティを形成して生活しているもの。あなたなんかと比べたら可哀そうだわ、ごめんなさい」

「俺に謝れよ、俺に・・・」


しばらくの間、俺はパンをかじり、咲夜は無言でページをめくっていた。

やがて昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。咲夜は一つため息をつくと本を閉じて立ち上がり南校舎の入り口のほうに歩いていく。

さて、俺も教室に戻るか。立ち上がりかけたその時、咲夜が振り返った。


「今日は相談の予約がはいってるからちゃんと来なさいよ。一年生が二人と三年生が一人、私ひとりじゃ相手しきれないわ」

「・・・用事があっていけないって言ったら?」

「聞きたい?」


咲夜は満面の笑みで答える。目は全く笑ってないんだよなあ

あとあと水島先生にチクられても面倒だし今日のところは行っておくか。

ちなみに水島先生は俺たちの所属する部活の顧問である。


「どうせ今日は暇だからな。もともと行くつもりだったよ」

まあいつもひましているんですけどね、友達いないしすることないし。

「そうよね。あなたに用事なんてできるはずないものね友達いないし。毎日暇で暇で仕方ないものね」

「だから考えてること読んでんじゃねーよ・・・」


俺はため息を一つついてこんどこそ立ち上がる。


「じゃあな」

三階まで上がりきると俺は左へ、咲夜は右へ向かう。

左手側は普通科の教室、右手側は進学科のクラスがある。A~Iまで教室があり進学クラスはA組、残りは普通科のクラスとなっている。

この高校は一学年450人のうち上位45名が自動的に進学コースに入れられる仕組みになっていて、一年生の段階で進学コースは大学進学に向けて普通科とは違うカリキュラムになっている。そのため進学コースのみクラス替えがない。A組には、いわゆる意識高い系の成績優秀な者が集められるのだがその中でも咲夜は別格である。

咲夜は首席で入学をし定期テストでも一年生のころから常に一位、そして容姿端麗なのも相まってどこか近寄りがたい、よく言えば別次元の人間だと思われているらしく一種の畏怖すら抱かれている。まあ分らんでもないな。無表情で何考えてるかわからんし。

せっかく勇気を出して話しかけてくれる人がいてもお得意の罵詈雑言で相手のハートをたたき割る。

そら孤立するわな・・・

咲夜はまっすぐに自分の教室であるA組に歩いていく。

そして咲夜は扉に手をかけようとして振り返り、念を押すように言った


「放課後、部室にこなかったら・・・」

「・・・わかってるよ」

「そ」


今度こそ咲夜は教室に入っていく。

放課後のことを考え憂鬱な気分になりながら、俺も自分のクラスであるE組に向かった。

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