4.周囲の精神力がどんどん削られていく
ここまで来てしまうと、夜会の趣旨と来賓の手前、断罪だけで終わらせる事も難しい。
両陛下の御様子から、大分お怒りになっておられる事は間違いない。
その後ろに控える宰相はブリザードを思わせる目で、王子の後ろに控える己の3男を見つめ、宰相の横に立つ近衛隊長は、目を限界まで開いて宰相子息の隣に立つ甥を威圧している。
保護者に射殺さんばかりに睨まれている”ご学友”の二人は、ガクガクと震えて顔を床に向けている。立っているのがやっとのようだ。
そんな騒ぎの元凶、お花畑カップルはウットリとお互いに見つめあったまま。
下位貴族エリアの騒ぎなど、気づきもしていない様子である。
大変シュールな光景であった。
それにしても、ずいぶんと冷たい方なのね、とエルーナローズは思った。
先ほどの騒ぎの中で、父であるジニエ男爵を呼ぶ悲鳴が上がったのに、当の娘の耳には届いていないようなのだから。
そんなエルーナローズの側に、侍女が近づきジニエ男爵の様子を伝えてきた。
ワイエ大公夫人の家に古くから仕える一族で、情報収集や隠密活動を得意とする侍女Aである。
どうも、広間から運び出された男爵の様子から見るに、娘の行動は家族にとっても予想外だったようだ。
ジニエ男爵夫妻は娘を3人ともない来場したが、次女のアルマが会場入りしてすぐに、どこぞに行ってしまったそうだ。その為、付き合いのある知人に姿を見なかったかと聞きながら探していたそうだ。
そうこうしているうちに、玉座の下で何やら高位貴族の方々が騒然としておられる、何事だろう?と注目してみれば。
まさかの第一王子がアルマの腰を抱いて、大公令嬢へ婚約破棄宣言が行われていた。
ジニエ男爵夫妻と姉妹の顔色は、この時に一気に悪くなったそうだ。
そして続く、第一王子からの婚約宣言。そのお相手はアルマだという。
そのアルマは、陛下に礼を取ることもせずに、ただ、王子の肩にすがりついている。
絞首刑待った無しの無礼~はにかみ笑顔を添えて~
ジニエ男爵の胃は、唐突に限界を迎えた。
かろうじて妻のドレスの裾を引っつかんで口元を覆ったおかげで、祝賀の場として設けられた大広間を、血で汚すことだけは避けられた。
懇意にしていた他家の者が慌てて侍従を呼び、男爵夫妻と2人の姉妹を会場から運び出す。夫人は自分のドレスの裾で口を覆う夫の咄嗟の判断の意味に気づき、ドレスの裾ごと夫を抱きしめた。夫妻と姉妹は涙を流し、延々謝罪を口にしているそうだ。
本当に、大変、お気の毒である。
・・・これは、何をどうすれば納まるのかしら・・・
早く何とかしないと、王子と男爵令嬢以外の周囲の精神力がどんどん削られていく。
エレーナローズは、思わず天井に視線を向けるのだった。