第1話 涅槃のヒエラルキー
ドグラマグラ太郎
ある日の事でございます。
なろう民さまは撮り貯めておいたアニメを、独りでぶらぶらご覧になっていらっしゃいました。
テーブルの上に咲いているじゃがいもの薄切りの揚げたものは、みんな揃ったように狐色で、そのまん中に点々とある乳白色の塊からは、何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへあふれて居ります。
なろう民さまは丁度撮り貯めたアニメを見終えて御暇なのでございましょう。
やがてなろう民さまはそのテーブルのふちに御たたずみになって、水晶で覆われているインターネットのさらに下の、なろうサイトの下の様子を御覧になりました。
なろうサイトの下は、丁度小説地獄の底に当って居りますから、水晶を透き徹して、三途の河や針の山の景色が、丁度覗き眼鏡を見るように、はっきりと見えるのでございます。
するとその地獄の底に、ドグラマグラと云う小説が一人、ほかの小説罪人と一しょに蠢いている姿が、御眼に止まりました。
このドグラマグラと云う小説は、人を殺したり家に火をつけたり、いろいろ悪事を働いたような感じがする三大奇書に数えられた小説でございますが、それでも数えきれないほど、エロい表紙で刷った覚えがございます。
と申しますのは、ある時この小説が闇の深い編集会議の森の中を通りますと、エロい表紙が一枚、ドグラマグラの表紙候補の中に残されてあるのが見えました。
そこで真面目な編集者は早速手を挙げて、本の内容にあった表紙にしようと致しましたが、
「いや、いや、このエロも小さいながら、誰かが引っかかって読んでくれるチカラになるものに違いない。
この小説を無暗に読まないまま人生を終えると云う事は、いくら何でも可哀そうだ。」
と、こう急に思い返して、とうとうドグラマグラがそのエロい表紙になるのを助けてやったからでございます。
なろう民さまは小説地獄の容子を御覧になりながら、このドグラマグラは確かエロい表紙であったことを御思い出しになりました。
そうして表紙がエロい小説ならその内容はちょっぴりエロい話かもしれない、それならこの小説地獄から救い出してやろうと御考えになりました。
幸い、側を見ますと、血色のよい色をした右手の先に、全てを決める右人差し指が一本、何を押すべきか迷って美しい踊りを空に描いております。
なろう民さまはその右手の人差し指をそっとのお部屋の中から、遥か下にある小説地獄の底へ、まっすぐにそれを御下しなさいました。