第20曲
遅くなり申し訳ありません!!
前回はだいぶ少なくなっちゃって、編集してつけたそうとは思っていたんですが……。
意外にもキリが良かったので新しい話として付け加えさせてもらいました!
読んでくださると嬉しいです!
俺の心内は梅雨知らず、マグリットを後ろに伴ってこちらへレーブレと呼ばれたエルフは向かってくる。
目が合ったとき一瞬だけ歩みがぎこちなくなったが、先ほどマグリットが教えてくれたように潜在的に上位種だということに気が付いたのだろう。
しかし、だからといって歩みが止まることも遅くなることもなかったのだが…。
一度部下に対して豪語してしまったがために、無駄なプライドによって後に引くことができなくなったのだろう。
その事実がまた、油に火を注ぐことになるとも知らずにーー。
「食事中にすまない。こちらは環境局1等局員であるレーブレ・エルファ・クラリーノである。後ろにいるマグリット3等局員から旅のエルフだと伺ったのだが、その席はこの国に属するエルフが優先的に着席するためのものである。申し訳ないが、退席していただいてもよろしいだろうか」
敬語を使っているものの、所々に見え隠れする高圧的なこの態度。
本当に腹立たしいことこの上ない。
国に属するエルフ限定の優先席だと?
なんだその馬鹿げたプライオリティの精神は。
最早燃え滾った炎は鎮火し、その代わりに黒く粘度のあるヘドロのようなへばりついたイライラが募っていく。
「これはこれはご丁寧に。私は旅をしているシギと申します。旅をしている最中に立ち寄ったが故、お恥ずかしいことにこちらの地理に詳しくなくて……。お店を知らないのでご勘弁いただけないでしょうか?」
「申し訳ないがそうはいかないのだ。この下民どもが暮らす中央地区では、エルフの優先席を置くところが遺憾なことに少なく、我々が食事をするに値するのがここともう一つくらいしかない。環境管理局として譲ってしまうと示しがつかないため、ここはどうか退席していただきたい」
下民……ね…。
多分人間のことを指しているのだとは思う。
が、これだけ罵られてなぜ周りの人間はなにも言わないんだ。
俺のアバターは確かにエルフではあるが、だからといって中身は生身の人間だ。
別に自分自身がエルフなわけじゃない。
ガタガタッと椅子が音を立てて後ろに倒れる。
俺が立つ前に勢いよく立ったのはケルートであった。
驚いて顔を覗くと、そこには鬼のお面を被ったような、眉間にシワを寄せたとても厳しい顔をしているケルートの表情を確認できる。
そういえばケルートは奴隷ではあるが、エルフの奴隷というのは珍しいらしい。
なにかしらの大罪を犯さないと奴隷落ちまではいかないと、例の紳士的な支配人が教えてくれたことを思い出した。
お店を迷わず教えてくれたのもケルートだ。
もしかしたらケルートは、エルフでありながら人族に否定的ではないのかもしれない。
睨みつけるケルートではあるが、なにも発さない。
それは、発そうと思っても、喉から音が出ない様子であった。
「ん?お前は……確か奴隷落ちした同族であるな。奴隷の身でありながらその目はなんだ?」
なるほど、合点がいった。
ここは援護射撃をするべきだな…。
「これはこれは申し訳ありません。私が拝借しております奴隷が大変失礼をいたしました」
そういいさり気なく椅子から立ち、頭を軽く下げる。
背後で息を呑んだ気配を感じたが、別に本当に心の底から謝っているわけではない。
「ふん。いくら旅のものと言えど、奴隷を借りるのであればそれなりに“躾け”というものをするべきではないだろうか。まぁ、旅の者といえど我が同族、ここは我も寛容になるべきだな」
「ありがとうございます」
「あぁ、こういう場合はお互いが気を使うべきであるからして、気にすることはない。それで、そろそろ席を退いてもらいた——」
「お断りします」
一瞬、なんと言われたかわからない顔をするレーブレ。
まさか断られるとは微塵も思っていないことだろう。
「は?え、いや、すまない。なんと言ったかもう一度聞かせてもらってもいいか?」
「お断りします、そう言いました」
再びそう伝えると、段々と理解が及んできたのか顔が険しくなっていく。
眉は眉間でくっつきそうなほど寄り、目は吊り上がる。
イケメンがキレるととても怖いと思い知った一幕でもあった。
「拒否……ということでいいのだな?」
「ええ、構いません」
「なるほど……」
険しい顔のまま、器用なことに何やら思案顔まで作り上げていた。
どのような表情筋をしているのだろうと方やこちらも思案しつつ、状況の流れを把握する。
「そうか、それは残念である。それでは、環境管理局として、正当に処分を下さざるを得ない。今ならまだ許してやらないこともないが——」
「いえ、構いません。こちらは拒否いたしますゆえ」
そう微笑みと共に告げてやると、今までの表情筋はどこへやら、全ての顔の筋肉を落としてきたかのように無表情へと転ずるレーブレ。
(これは相当おかんむりのようだ…)
少し煽りすぎたのかもしれない。
しかし、ここまで煽り耐性がないとは思わなかったのだ。
「そうか。それでは、公共役員への命拒罪として逮捕させてもらう」
なるほど、環境管理局とは警察のようなものっぽいな。
逮捕権があるとは思わなんだ。
しかし、俺はこう言う。
「拒否します」
笑顔でそう伝えた。
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