第17曲
遅くなってすみません!!
リアルがまたまた忙しくなってきてしまいました!
テスト、なぜこの言葉を聞くとサブイボが立つんですかね…。
嫌気がさします。
『この国は間違っている』
そう気づいたのはいつ頃だろうか。
悠久とも言える、長い“時間”と呼ばれる檻に閉じ込められている俺には、思い出すことさえ許されていないらしい。
まぁ、許してほしいとも今となっては思わないのだが…。
我々がしてきたことは、到底許しを乞うて赦しを得られるほど甘いものではない。
エルフ族に生まれたから偉い。
一体なぜ?
子供の頃からそうやって育ってきては、“なぜ”という疑問すら持たない。
祖父母から親へ、親から自分たちの世代へ…。
そうやって受け継がれてきた一種の伝統という名の洗脳は、長い間この国を犯してきた。
“人族は下等で、下劣。棄てられる残渣のような存在である”
この言葉は昔からよく聞かされる、国法書という法律の書かれた本に載っている一文だ。
俺も子供の頃は一切の疑問を持たず、無邪気に唱えていたものだ。
しかし、いつからか考えるようになった。
人族と関わったことのなかった俺は、ここまで言われる人族とはどんなものなのだろうか、と。
好奇心から来たこの感情は、さまざまな想像をかき立てた。
それはそれは醜い容姿をしており、獣人のように四足歩行なのではないか。
はたまた、ゴズのように人型ではあっても知能が著しく低く、言語など無用な無法集団なのではないか等々…。
今となっては懐かしく、それでいて心を締め付けられるほど罪悪感に駆られる思い出だ。
嫌なこととは得てして、忘れたくても脳裏から剥がれ落ちることはない。
初めて人族を見たときは、眼球を吸い取られてしまうと思われるほど釘付けになってしまった。
とまぁ、この話は長くなるのでまたの機会としよう。
とりあえず俺は自分の、いや、氏族の恥を思い知ることとなった。
なぜエルフ族が偉いのか、そんなものは今でもわからない。
しかし、我々が人族に対して悪辣なことをしているのは間違いないだろう。
それに気づいた私はすぐに行動に移した。
人族の街に住み、彼らのために働こうと…。
幸いなことに、私はエルフ族だ。
金銭面は問題ない。
人族の領域へ越すと両親に伝えたとき、父上にはかなり激昂されたため、ありったけの金を持っていく必要があり、仕送りなんかは期待できない。
昼間に出ていくと実力行使され力尽くで連れ戻されてしまうため、夜中にひっそりと家を出るしかない。
越すと伝えた時の母上の顔は今でも思い出すことができる。
1人息子である俺の行動、言動にかなりショックを受けた様子であった。
しかしだ、エルフ族という謂わば呪いのようなものに囚われているやつらに対し、俺から何か思うことはない。
早く気づいて欲しい。
それが身内に思う最後の情けだ。
この国の現状に気づかない限り、あの人たちは変わらないだろう。
そんなことを考えながら、日々人族のために尽力して過ごしていた俺だが、ある日急に投獄された。
罪状としては、人族の子供の誘拐罪だそうだ。
ここ最近行方不明になる子供が多発しており、容疑者として捕縛する、という旨で衛兵たちがやってきたときは心底驚くとともに、この日が来たかという気持ちになった。
驚きはその手法にだ。
その容疑をかけられると、今まで親しかった人族の人たちの顔が一変したのを今でも鮮明に思い出せる。
俺が、エルフ族である俺が、人族と仲良くしていたのは打算からだろうという失望と怒りで満ちた顔だった。
そして、この日が来たかというのは文字通りの意味だ。
いずれかは反逆罪で捕まると思っていた。
まぁ罪状は違かったんだが…。
言ってもこじ付けだから、結果として反逆の意思ありと判断されたのだろう。
そうこうして俺は今奴隷として身落ちしている真っ最中だ。
まぁ、“仲間”たちに囲まれているのでなんの問題もない。
いつか、いつの日にかこの国の連中に思い知らせてやる。
人族という名の素晴らしい種族の力と、我々の尊厳を踏みにじったことを…。
もうすぐだ、もうすぐ国落ちが開幕する。
この長い長い、悠久とも思える待ち時間が終わる。
さぁ、始めようーー。
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ケルートに案内してもらい、月の灯火亭で夕食を迎えることになった。
ここは表通りの、人通りがかなり多い場所に位置しており、人の入りが結構良いようだ。
俺らが入った時には既に出来上がっている人がチラホラおり、騒々しい感じでなによりだった。
「すみません、シギ様が気を害されるようでしたら別のお店へご案内いたします。まさかこんなにうるさいなんて…」
ケルートは友人から勧めてもらっただけのようで、実際に来店したことはなかったらしい。
「ご心配なく。楽しそうでなによりですよ」
「そう言っていただけると幸いでございます」
そのようなやりとりのあと、ケルートが西部映画に出てきそうな、上と下に隙間が空いている押し扉を開けてくれた。
ギギギと錆びついた音を上げつつ扉が開き、それを拍子に中にいた客やスタッフ含めこちらに注目する。
おそらくこれが来店の合図だというのはまだ理解できるが、客まで揃って見てくると慣れてないためか無駄に緊張してきた。
しかも、しかもだ。
なぜか先ほどまでの騒がしい雰囲気はどこへやら、急にスベり散らかした芸人のように、場が静まりかえったのだ。
誰も目線を外さない。
誰も話そうとしない。
おいそこの酔っ払い、さっきまでウェイトレスに絡んでただろ。
なんで急に顔面蒼白にしてんだよ。
もっと「お尻触らせろよ」とか言ってろよ。
やめろ、もう見ないでくれ……。
そんな緊迫感溢れる氷河期は、突如として熱を取り戻すこととなる。
「おいそこの店員、申し訳ないが席へ案内してくれないか?空いてないなら別のところへ行くつもりなのだが…」
ケルートォォォォォ!!
良くやった!良く溶かしてくれた!
言い方も申し訳なさそうに、それでいて相手へ敬意を払っているようでなによりだ。
少し偉そうなのは俺がいるためなのだろう。
舐められないようにしてくれるのはありがたいが、日本人の俺としてはもっと遜ってもいい気がする。
まぁこれはこれでケルートの優しさが出たんだと思うけど。
とりあえずケルートの一声により、凍結していた時間という概念が再び機能し始めたようだった。
「も、申し訳ありませんっ!エルフ様、こちらへお越し下さい!!」
人族の店員は華奢な体格で、美人さんだ。
いくつかはわからないが、女性というのは大人びて見えるものだから年上に見えてしまう。
そこまで焦らなくてもいいと思うが、美人な人が焦っているのを見ると少し面白おかしく思えてくる。
そうして案内されたところは行ったことがないためわからないが、居酒屋で言う4人くらいが座れるであろうテーブルだった。
2人なのだからもう少しこじんまりとしたようなところでよかったのだが…。
ただ、他と比べると少し綺麗なテーブルで、恐らくだがお偉いさんが来た時用のテーブルなのではないだろうか。
そんなことを思っていると、救世主であったケルートが次はとんでもない爆弾を投下し始めた。
「すまない、もう少し綺麗な机はないだろうか?こちらの方がお座りなるには些か汚く思えてしまうのだが…」
「っ!?た、大変申し訳ありません。こちらが当店で1番綺麗な机となっております。申し訳ありません……」
なんてことを言うんだこいつは。
先ほどの褒め言葉をぜひ撤回させていただきたい。
動き出したと思えた時間は、またもや氷河期を迎え凍結してしまった。
ようやっと客たちがポツポツと話し始めたと思ったらこれだ。
どうしてくれるんだほんとに…。
「私は構いませんよ、ケルートさん。せっかくなのですから、たくさん食べましょう。美味しそうな匂いが漂ってきて、先ほどからお腹が鳴りそうなんです」
そう言ってフォローするのが精一杯だ。
笑顔がぎこちないとは思うが、これで勘弁してもらいたい。
しかし、これが功を奏したのかはわからないが、所々で『おぉぉ』という歓声とも取れる声が聞こえてきた。
そんな声が聞こえるほど良いことを言った覚えはないが、これも“エルフ様効果”なのだろうか。
「そうでございますか。失礼いたしました、それではこちらにーー」
そう言いながらケルートは椅子を引いてくれる。
本物の貴族になったような気分で悪くはないのだが、人前でこき使ってる様で申し訳ない気持ちと同時に恥ずかしさが押し寄せてきた。
ただ、もう既に椅子は引いてもらってるわけであり、ここから断るのもどうかと思い『ありがとう』と言いながら着席する。
しかし着席したのも束の間、またもや俺は頭を抱えることとなった。
なぜかケルートがずっと俺の斜め後ろに立っている。
なぜかケルートが座ろうとしない。
「あの…ケルートさん。貴方もご着席ください」
苦笑まじりにそう伝えてみるが、反応は芳しくなかった。
「いえ、私は奴隷という身分であるため、ご主人様と同席するなど恐れ多いことはできかねます」
いやいやいやいや、待て待て。
それは俺が、人には食わさず自分1人だけ飯を食えと…?
「先ほども宿屋で申し上げましたが、共に腹を満たすためにここへ来たわけで…。1人で寂しく食べるよりも2人で話しながら食卓を囲んだ方が楽しいではありませんか。どうか座ってはいただけませんか?」
こういうのを奴隷根性とでも言うのだろうか。
別に誰と誰が食べていようとそんなことを気にする必要はないと思うんだが…。
「そ、そんな…。奴隷と卓を囲むなど、シギ様の品位が疑われてしまいます!私個人としてはとても嬉しいお言葉なのですが……」
「はぁ、そうですか。それでは仕方ありませんね、宿屋に戻って部屋で食べましょう。それなら外聞を気にしなくて済むでしょう?」
「い、いえ、そういうことではなくてですね…。奴隷と卓を囲むという行為自体のことをーー」
「ですから、部屋で食べていれば誰に何を言われるわけでもありません。それであれば誰にも迷惑をかけないでしょう、と申しているのですよ」
「え、いや、その……。んん、わかりました。ご主人様の命令なのですから、せっかくなのでご好意頂こうと思います」
やっと折れたか、頑固者め。
ケルートは渋々、といった感じで着席したものの、顔は少し嬉しそうだ。
恐らく今の胸中はとても複雑なのだろう。
ただ、俺の知ったことじゃない。
後ろで人に見られながら食事なんて真っ平ごめんだ。
もういい加減にしてくれ。
ただの食事なのにすごい疲れたわ…。
まぁいい、これでようやくゆっくり話ができる。
聞きたいことが山ほどあるんだ。
そう思いつつ2人分の食事を頼もうとウェイトレスを探していると、入り口の扉が錆びついた音を上げながらゆっくりと開く。
これだけの音が鳴ったら確かに入り口を見てしまうのもわからないでもないな。
しかし、扉から現れたのは意外な人物だった。
「相変わらず人族は汚いところで恵みを貰ってるようだな。ふんっ」
尊厳な態度で入店してきたのは、ここへ来てから初めて見る“エルフ”だった。
まぁた嵐の予感がしてきたぞ。
これ、飯食えんのか??
前回のは編集でそこそこ長くなってます!
読んでない方はそちらの方もぜひ読んでください!!
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