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第14曲

前説はレファ目線で、ナタリーとの会話がメインとなってます!


久しぶりの前節です!


見てくださったら嬉しいです!お願いします!

嵐のような方だった。


形容し難いほど整った旅のエルフ様は、普段街で見かけるエルフ様の何百倍も神々しく、覇気のようなものを纏っている気がした。


もちろん気がしただけだし、街のエルフ様を貶しているわけではない。


(ただ、このホテルを選んだり、奴隷の中からあいつを選ぶとなると…これはもしかしたら、嵐どころの騒ぎでは済まないかもしれない)


私がそのように思案していると、普段使っている支配人室の扉が重低音を奏でながらノックされた。


「どなたですかな?」


「支配人、ナタリーでございます。先程の件で少し…」


ナタリーか。

先程と言うと恐らくは“あの”エルフ様に関することだろう。


「入れ」


そう、私が扉の向こうへ一声かけると、軋むことなく隙間がスムーズに広がっていく。


「失礼いたします」


ナタリーが頭を下げながら扉の向こうから現れた。


この子は田舎から出稼ぎにきた、礼儀のなっている女性だ。

普段、特にエルフ様の前で大きな声を出したり、勝手な発言したりなど一切したことがない。


今回はおそらく、2人きりになったときに何かが起こったのだろう。


「支配人、先程は勝手な発言をしてしまい、大変申し訳ありませんでした!」


彼女は私の仕事机の目の前まで来ることなく、扉の真ん前で深く頭を下げた。


旅のお方だから良かったものの、この街のエルフ様だったら確実に首を跳ねられているか、奴隷に身落としされ、一生恥辱の限りを尽くされたことだろう。


さらに達の悪い方になると、この宿屋も取り壊されていたに違いない。


「はぁ、ナタリー。あなたは今までこのような過失を一度も犯したがありません。先程のエルフ様は旅のお方であり、国法を存じ上げないご様子でした。だからこそ助かったものの…一体何があったのですか?」


「はい、私が中級奴隷のリストを渡しに行くと、感謝してくださって…それで私、感動してしまって。感極まって涙を流してしまったんです、そんなこと初めてだったので。それに、謝罪の項を申し上げたものの、あのエルフ様は寛容に、『感謝はして当然だ』という旨を私に伝えてくださったのです!しかもこんな高そうなハンカチまで貸してくださってーー」


そう言ってナタリーは、自身のポケットから真っ白な、原料が予想もつかないほど綺麗なハンカチを取り出して見してくれた。


彼女はまだペラペラと喋っているが、要は感謝されて嬉し涙を流してしまった、と言うことだろう。


私が旅のエルフ様と接するのは、なにもこれが初めてではない。

しかし、エルフ様というのは皆一様に自尊心が高い種族であり、基本的に下に見ている者に対して感謝など述べたりしない。


今まで会った旅のエルフ様も同様に、これだけ国風がエルフ様を持ち上げているのだから、それなりに偉そうな態度へとなってしまうものだった。


ただ、彼の方は今まで会ったエルフ様の誰とも違う。

見たことのない素材でできた、一目で高いことがわかる衣服を見に纏い、物腰が低く、礼儀正しい。


雰囲気から見た目まで、何から何までが別モノだ。


恐らくではあるが、ただのエルフ様ではないのだろう。

王族の方々も普通のエルフ族ではないという噂話は聞いたことがあるが、実際に自分の目で見たことがあるわけではないため、なんとも言えない。


(しかし…ナタリーはいつまで話しているのでしょうか。はぁ、いつもはこんな子じゃないはずなんですが……)


「それでですね、端正な顔立ちをしていらっしゃって、私の目をあの金色の瞳で真っ直ぐと見てくださったんです!真摯に向き合ってくださって…それはもう感激でした!初めてです!あんなにお優しいエルフ様は!!はぁ〜、またお会いしたい…。あっ!でもハンカチを返さなければならないのだから必ず会わなきゃいけないわっ!そうよっ!これはチャンスよナタリー!気合を入れましょう!!そしてあの方のハートをこの私が射止めr………」


「ナタリー!」


流石に止めなければ、どこで誰が聞いているやもわからないこの部屋で、そんなおおそれたことを言わせられるはずがない。


この国においてエルフ様と人族の婚姻は認められておらず、特例として、エルフ様からのアプローチならば一応できなくもない。


しかし、人族からアプローチをしてしまうと反逆罪として逮捕されてしまう。

なにが反逆にあたるのかは定かではないが、これがこの国の法なのだから仕方がない。


「ナタリー、『壁にミミアリー 障子にメアリー』という諺があるのはあなたも知っているでしょう。昔に異界から来られた八柱のお1人がお教えくださった、大切な言葉なのですから。どこで誰が聞いているのかもわからないのですから、あまり大そうなことを口に出すべきではありませんよ」


「っ!?も、申し訳ありません!以後気をつけさせていただきます!!」


彼女は自分が何を口走ろうとしたのかを察し、顔を真っ青にしながら頭を下げた。


素直なのは美徳であり、そこは評価に値する。


「はぁ、今回の件は大目に見ます。業務に戻りなさい」


「はい!失礼しました!」


私がそう言うと、ナタリーは真後ろにある扉から出て行った。


(はぁ、それにしても……)


あの作られたかの美貌は、男の私でも惚れ惚れするものがあるのは間違いないだろう。


しかし、それを抜いてもあの方には人を惹きつける魅力がある。

それが必ずしも良い方向のベクトルになるとは限らないが、集客力とは時に大きな力となるだろう。


なにかが起こりそうな予感がする。


そのなにかが、この国にとって良い方向になってくれるのを私は、ペンで執務をしながらただただ祈るのであった。


--------


扉からレファが伴って連れてきたのは、端正な顔立ちをした、線の細い男性のエルフだった。


黒いマントを羽織っており、俺が想像していたボロ布のようなものは纏っていない。


もしかしたら中に着ているのかもしれないが、少なくとも外見のマントは綺麗に手入れされているのが伺える。


(やっぱエルフだけあって筋肉はついてないみたいだな)


そう、こちらが観察していると、レファが口を開く。


「ではご挨拶しなさい」


紙面にケルートと書かれた男性に、自己紹介を促した。


「は、はい!私、《ケルート》と申します!今は姓はございません!これから身の回りのお世話をさせていただきます!よろしくお願いいたしますっ!!」


そう言って自己紹介をしたのは良いものの、驚いたことに跪いたのだ。


(まさかエルフにまで跪かれるとはな…)


奴隷だったらこれが普通なのだろうか。

しかし、レファの顔を窺って見ると、こいつも大そう驚いた様子だった。

どうやらケルートの態度は普通ではないようだ。


ただ、気になったのはこれだけではない。


紙面にあった名字やミドルネームはないようなのだ。

先程レファに説明してもらった中で、罪を侵したエルフは中級奴隷になると言っていたが、多分その際に剥奪されたのだろう。


ただ、このまま思案していても仕方がない。

自己紹介をしてもらったので、こちらもソファから立ち上がって自己紹介をすることにした。


「私の名前は《シギ》と申します。これからよろしくお願いしますね、ケルートさん」


「はっ!シギ様、これから誠心誠意尽くさせていただきます!」


「え、あ、はい。よろしくお願いします……」


上手く笑えてないのが自分でもわかる。

なんだこの熱血エルフは。


(まさか…こいつが男色なんじゃ……)


そう思った瞬間、背筋を悪寒が走り抜ける。

まるで身体をムカデが這いずり回っているような悪寒が。


決してケルートが俺のことを、いやらしい目線で舐めまわしているわけではない。

ただ、自分がこれからのことを想像して鳥肌が立っただけなんだが…。


それでもこの対応はおかしいだろ!

はぁ、このイベントに参加してからというものストレスが多すぎる。


(若いうちにハゲたらやだなぁ……)


そんな、半ば現実逃避的なことを考えながらケルートのことを窺うと、なぜかアイドルを見るような目で俺を見つめてきていた。


な、なんだそのキラキラした目は…。

なんでそんな目で俺を見つめるんだ!


さすがにこのゲームでも内臓までは再現されていないのに、ないはずの胃がキリキリ痛む感じがした。


しかし、このカオスな空間はまたしてもこの男によって切り裂かれる。


「さて、それではお部屋の方へご案内させていただきます。こちらへどうぞ」


レファはわかる男だ。

このどうしようもない空気を察してか、必ず酸・塩基反応のような中和をしてくれる。


「はい、よろしくお願いします」


そう言って俺は扉を開けて待ってくれているレファの下へ向かう。

今度は上手く笑えているだろう、自信がある。


俺が先に扉を出て、次にレファ、最後にケルートの順で退席した。


「それではこちらになります」


そう言いながらレファが部屋まで先導してくれる。


ケルートは俺の後ろにピタリとくっついて来ているのだが、どんな表情をしているのか、俺には見る勇気がなかった。


そうしてどのくらい歩いただろう。

割と長い道のりを歩き、とうとうレファが立ち止まる。


「ご苦労様でございました。こちらがエルフ様にお泊まりいただくお部屋になります。どうぞーー」


そう言って開けてもらった部屋は、まだ扉を越えていなくてもわかるほど豪華だった。


部屋は何畳なんだろうか。

シャンデリアが天井から吊るされており、煌々と部屋を明るく彩っている。


絨毯は赤く、幾何学な模様が刺繍されており、歩くたびに重力を全て反発してくれそうなほどフカフカそうだ。


そして長い廊下には高そうな絵画や壺が置いてあり、シャンデリアのあるリビングまでの道のりを落ち着きを伴って迎えてくれている。


ゲームでもこのくらいの宿場は泊まったことはあるが、なぜだろう。


心が感動している。


心臓が躍動している。


見慣れたはずの高級宿屋なのに。



(俺は…………何か見落としてないか?)



ご愛読いただき、ありがとうございます!


すみません、まだまだ序奏すら終わりそうにないです……。


頑張って更新頻度上げたいと思います!

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