これからも、よろしくね
外に出ると本当にいい天気で、ぽかぽか陽気に背伸びをしたくなる。
水族館前に広がる芝生広場のベンチに座って休憩を取りつつ、イルカショーで濡れた服を乾かそうと手足を伸ばした。
青空と心地よい柔らかな風と、そして隣には優しい彼。
さっきプレゼントしてもらったイルカのぬいぐるみを袋から出すと、嬉しさで自然と笑顔になった。
「ぬいぐるみほしがるところが詩織っぽいね。」
「…子供っぽいよね。」
「ううん、可愛いと思う。」
何か今日はやたら「可愛い」って言ってくれる。
嬉しいんだけど恥ずかしくて、どんな表情をしていいかわからず、イルカのぬいぐるみに顔を埋めた。
「いつも詩織に先を越されちゃって、さっきも危なかったんだけど…。」
「…?」
飯田くんが何を指して「先を越された」と言うのかわからなくて、埋めていた顔を少しだけ上げて彼を見る。
視線がかち合って、真剣な目をした飯田くんから目が離せなくなった。
「俺と結婚してくれないかな?」
え、今何て?
私はイルカを抱きしめたまま、言われたことを頭の中で反芻する。
ちょっと待って。
もしかして、まさかのプ、プロポーズ?
驚きのあまり固まった私に、「詩織?」と心配そうに顔を覗き込んでくる。
はっと我にかえって、
「わ、私でよければお願いします。」
と返事をした。
妙に恥ずかしくなってしまって、頬に熱を帯びるのがわかる。
「ごめんね。本当は指輪とか用意できればよかったけど。今いいたくなった。こればっかりは詩織に先を越されるわけにはいかないよね。」
「何も先越してないよ?」
飯田くんの言葉に、私の頭の中は疑問符でいっぱいになる。
「いいパパになりそうだなんて、そんなプロポーズめいた言葉を聞かされたら、焦るよ。先に詩織に言わせるわけにはいかないって。」
そういえば、迷子の女の子に対する対応に感動したあまり、そんなことを言った気がする。
あー、そっか、それって聞きようによってはプロポーズになるのか。
…って、しまった。
私ったら何て大胆な発言をしてしまったんだ。
「それから、今日のワンピース、よく似合ってるね。」
不意打ちだよ。
無防備なときにさらりとそういう胸キュンな言葉を言うんだから。
恥ずかしくてイルカに顔を埋めながら「ありがとう」と言うと、くすりと笑う気配があって、肩を引き寄せられた。
全然ロマンチックでもなんでもないのに、嬉しくて仕方がないのは、彼のことが大好きだから。
彼の優しさに包まれて、一生ついていこうって思った。
私も彼にたくさん優しさを与えたい。
これからも、よろしくね。