表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/179

#95 少女は問い詰める

 これ以上騒がれる方が厄介だということで、碧原が一旦部室の中に招かれた。

 紫崎先輩も黄乃ちゃんも正直かなり限界っぽい感じだったが、体育祭の一件のこともあり、下手に噂になったりすることは望ましくないのだろう。


「それで、ちゃんと説明してもらおうかしら」


「……どっちから?」


 まるで聴取をする警官のような口調の碧原に、おどけるわけでわないが、そう聞き返した。


「黒崎くんの、話しやすいほうからでいいわ」


「そうか」


 俺が一旦碧原から目をそらし、紫崎先輩と黄乃ちゃんを見る。

 紫崎先輩は目を伏せ、小さく頷いてくれる。黄乃ちゃんも動作こそ示してくれなかったが、しかたないとでも言いたげな表情でややうつむいていた。


 改めて碧原に向かい合い、口を開く。


「ここは数研……数学研究部だ。いちおう正式に部活として通ってる。まあ、活動はあってないようなものだけれども」


 たまに紫崎先輩が数学について簡単な講義をしてくれたり、あとは主に牧坂がわからないことを聞いたりすることはあるが、基本的には活動はない。


「そもそものこの部活の主目的は、そこにいる女の子、黄乃ちゃんの保護だ」


「……保護?」


 俺の言葉に、碧原はそう聞き返す。


「ああ。……なんていうか、すごく言葉にしにくいんだが。あー、えっと、黄乃ちゃんはここにいる誰とも。いや、今ここにいない他の部員とも、血縁関係にない」


「待って待って。……えっ、どういうこと?」


 碧原の疑問は当然のものだろう。俺だって最初はかなり混乱した。

 通常そうそうあることではないだろうが、仮に高校に小学生かあるいはそれより幼く見える子供がいたなら、誰かの家族か、あるいは親戚と考えるのが普通だ。


「いちおう……ではないな、うん。正式に、でいいのか? 紫崎先輩が保護者にはなってるんだが、ふたりに血のつながりはない。戸籍上も家族ではない」


「余計に混乱してきた……」


 碧原は眉間に右手を寄せ、考え込む。

 なんとかわかりやすく説明をしたいのだが、ふたりにとってデリケートな事柄なため、どこまで説明していいものか。


「はやい話が、私が家出して、転がり込んだ居候先が龍弥。ということです」


 見かねてか、ここまでずっと黙っていた黄乃ちゃんが口を開いた。


「家出!? そんなのダメだよ。家に帰らないと!」


「まあ、良識的に考えるとそうなるよな。……実際はそんな簡単な問題じゃあないんだけど」


「でも、親御さんだって心配して探してるんじゃないの!?」


 机に手を立ち、立ち姿勢になりながら、声を荒らげそう言った。


「あのねあのね! 碧原さん。それについては大丈夫なの」


 牧坂がそう言った。すると、碧原は食らいつくように牧坂の方を向いた。すこし、牧坂がビクつく。


「大丈夫なわけないでしょう! だって娘がいなくなったわけでしょう! そんなの――」


「碧原! 気持ちはわかるが一旦落ち着いてくれ」


 俺がそう言うと、碧原はハッとしたようでバツの悪そうな表情になり「ごめんさい……」と小さく言った。

 牧坂は「大丈夫だよー」と言っていたが、あそこまで萎縮した牧坂は初めて見た。相当な剣幕だったのだろう。


「でも、大丈夫なわけないじゃない」


「普通に考えたら、そうだ。だが、現実は思っている以上に奇妙で、今回は牧坂の言うことが正しいんだ」


 また息巻きかけた碧原に、先んじて「順を追って説明するから」と言う。


「まあ、最初こそ本当にただの家出だったんだが、少し前に色々あって黄乃ちゃんの親御さんに会って、正式に家出を認めてもらってる」


「それって家出なの?」


「……さあ? まあ、一応形式上は家出になるんじゃないかな」


 父親の方はまだ納得しきってないだろうし。という言葉は飲み込んだ。


「とかく、そういうことで彼女の保護っていう目的があってこの部活は存在してる」


 紫崎先輩が下宿生活で日中家に誰もいないとうことも添えて説明を補強した。


「……待って。じゃあ旧校舎の花子さんって」


「なんだそのどこの学校にでもありそうな怪談は」


「昼間に旧校舎に行くと、小さな女の子の幽霊がトイレにいるっていう噂があるのよ!」


「あー……」


 なんか、クラスの誰かがそんなことを言ってたような気がする。


「黄乃ちゃんが、トイレに行ってたとこをたまたま誰かが見かけたのかも」


 いや、旧校舎に誰かが来ることは滅多にないか遠目に見た窓から黄乃ちゃんがいるところが見られて、それに尾ひれがついてこうなった……といったところか。


「……まあ、とりあえずこれで黄乃ちゃんのことと、なんで彼女がここにいるのかってのはわかってくれたか?」


「それなりには。……納得はしきってないけど」


 ふう、と小さくため息をつきながら、彼女はそう言った。眉間に寄った少しの皺が、彼女の今の心境を物語っている。


「それより、もうひとつのほうの話をしてもらおうかしら」


「……わかった」


 ここまで来たら、腹をくくってしまおう。自分の不始末で紫崎先輩や黄乃ちゃん。牧坂を巻き込んでしまったた以上、逃げ回るのはさらなる迷惑をかけかねない。


「じゃあ、改めて聞くね。黒崎くん、なんで君はそんなにも自分のことを下げたがるの?」


 ズン、と。言葉が重く、強く、のしかかる。


 答えると言った手前、話さないわけにはいかない。けれど、なかなか口が開かない。


「それは――」


 そして、なんとか紡ぎ出したその声は。


「おっまたせー! いやあ、遅れちゃってごめんね? ちょっと先生に用事頼まれちゃって」


「おお、今日は他のみんな揃って……誰?」


 勢いよく開け放たれた扉に消し飛ばされた。


「あー、白石、鈍川……えっとだな」


 紫崎先輩が、入ってきたふたりに状況を説明しようとして、しかし、少し困った様子になり。


「……あれ、もしかして私たち、すっごくタイミング悪かった?」


 苦笑いをしながら、白石先輩はそう言った。


「なあ、碧原」


「なに? 黒崎くん」


「やっぱ、言うのやめていい?」


「ダメッ!」


 ですよね。






「それでこの子は? 入部希望者?」


 鈍川先輩が、そう尋ねた。


「いいや、黒崎への来客だ」


「へえ」


 紫崎先輩がそれに受け答えし、その間にふたりは自身の席に腰を掛けた。


「それで、碧原ちゃんだっけ? あなたは黒崎くんにどんな用事できたの?」


 白石先輩がそう聞くと、突然のことで気が抜けていた碧原は改めて気を持ち直して、口を開いた。


「黒崎くんが、自分自身のことを下げようとするので、それは何でなのかを聞こうと思って」


「ふうん、そっか」


 そう言うと、先輩は今度は俺のほうを見て、


「で、黒崎くんはこの話、私たちに聞かれても大丈夫な話なの?」


 優しく、そう聞いてくれた。


「大、丈夫です。巻き込んでしまったこともあるけど、ここまで来たら一緒に聞いていてほしいです」


 半分は、今度は逃げないように逃げ道をふさいでいてほしいから。半分は、信頼しているみんなにいて欲しかったから。


「わかった。じゃあ、碧原ちゃんに質問。黒崎くんが自分のことを下げてるってのは具体的にどういうこと?」


 ここから先の話をちゃんと理解するために、と。先輩はそう言って尋ねた。


「黒崎くんが、周囲からの自分自身の評価を意図的に下げようとしてるってことです。悪い点数を取ってバカを演じたり、下ネタを言って変態っぽく見せかけたり」


「さっきも言ったが、何を根拠にそんなこと――」


 そう、言おうとしたが。この場にいた他の全員から「ああ……」という声が漏れる。


「やっぱり、そうなんじゃない。……まあ、さっき逃げた時点で間違いないとは思っていたけど」


「……わかったよ。話す、話すよ」


 まだ、心臓がバクバクと強く鼓動する。

 思い出すと、嫌なことが頭をめぐる。


 すう、と大きく息を吸って。はあ、と吐き洩らす。


「あれは、中学の頃だった――」

長い間更新を停止していてすみませんでした

リアルのほうがある程度落ち着いてきたので、たぶん毎週水曜日の更新が再開できそうです(今日は長期休みのこともあっての例外更新です)


また、明日には大罪人の方の更新があります(こちらも毎週金曜日の更新を再開する予定です)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ