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#91 ゲーマー少年は久しく登校する

「隆俊!」


「蓬莱くん!」


 教室のドアを開けると、ふたつの声がまず真っ先に飛んできた。

 氷空のものと、橘さんのものだ。

 ガタッとイスが荒ぶる音とともに二人が立ち上がり、タッタッタッとこちらに駆け寄ってくる。


「隆俊、久しぶりだな。大丈夫か?」


 遅れてそう言ったのは葵だった。相変わらず落ち着いた様子で、そう尋ねてくる。


 姉ちゃんいわく、俺は体調不良で通っているらしい。もちろんそんな事実は微塵もなく、ただまあ登校できるような精神状態だったかというとそれは無理があるのだが、しかし嘘であることに変わりはないのでどうしても罪悪感が生まれてくる。


 コツン、と。後ろから背中を小突かれる。

 そこにあったのは、少々不機嫌そうな、紀香の顔。


 ああ、わかってるさ。とっとと入れってことだろ? 言われなくたって。


「いやあ、心配かけたみたいだな。悪かった。もう大丈夫だ」


「ほんとだよ! ずっと来なくてとっても心配だったんだから!」


 橘さんがそう言って、少し怒り気味な様子だった。まあ、仕方ないか。

 しかし、それにしても、


「橘さん、ちゃんと俺のこと覚えててくれたんだな」


「……! も、もちろん! だって友達だもん!」


 その質問に、橘さんはかなり動揺したのか、慌てた様子で声も少し震えており、若干額に冷や汗が見えた。


「冗談冗談、冗談だって! いや、冗談に聞こえなかったのなら、ごめん」


 うーむ、やらかしたな。地雷踏み抜いたか。


「あー、隆俊が橘さんをいじめてるんだー、いけないんだー」


「こんのっ!」


 ニヤニヤと、そんな表情で紀香が俺の脇から姿を現した。


「あ、灰原さん! おはよ!」


「おはよう橘さん! それから氷空も!」


 俺たちがそんなやり取りをしていると、おそらく今ここにいる中で一番落ち着いた人物であろう、葵が一足遅れてこちらに来る。


「まあ、季節の変わり目は体調を崩しやすいからな。治ったからといって気を抜かないほうがいいぞ」


「ああ、注意する」


「それから、こっちが隆俊でこっちが灰原だな」


 そう言って彼は紙束を俺たちに寄越す。


「休んでいたときのノートだ。授業受けるついでだったから軽くまとめといた」


「うっそだろ! 神かよ葵!」


「最高じゃん! ありがとうございます神様仏様葵様!」


 灰原は一日分だったからそこまで枚数はなかったが、俺の方はずっしりいっぱいあった。

 こんな量を……ありがたいとしか言いようがない。

 横では両手の平で貰った紙を挟み、葵のことを拝んでいる紀香がいた。いやしかし、これはそうされるに値するだろう。


「授業受けながらでこういうの作れるって、ほんと葵って賢いよな」


「うんうん」


「マジで羨ましいわ」


「うんうん」


「どっかの猿に爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいよ」


「うんうん……うん、うん?」


 さっきまでずっと同調していた紀香だったが、さて、どこかおかしい点にでも気づいたのだろうか。

 それとも、どこか遠回しに自分がバカにされているように聞こえたのだろうか。


「…………たっ、隆俊ぃいいいいいい!」


「うおっ、いきなり飛びかかってくるんじゃねえ!」


「お前、誰が猿じゃあああああああ!」


「そーゆーことするから猿なんだよ!」


 そもそも、猿だと認めたくないのなら、猿と言われて反応するんじゃねえよ。

 そこで反応するってことは、自覚があるってことだろうが。


 クスクスクス、橘さんが小さく笑っていた。


「よかった、元気になったみたいで」


「そうだね! やっと元通りって感じだね」


 橘さんの声に、氷空がそう同調する。


「ああ、俺は元気になったぞ」


「いや、そうじゃなくってね」


 うん? ああ、そうか。昨日だけは紀香コイツも休んでたのか。


「灰原さん、蓬莱くんが来なくなってから寂しそうで、ずっと元気なかったか――」


「ああああああああああああっ!」


 俺に襲いかかるのをやめ、大きな身振り手振りと大きな声で、そうやって無理矢理に言葉を遮断した。

 が、きちんと聞き取れた。


「ほほう。お前、俺がいなくて寂しかったのか」


「なわけないじゃん。隆俊とかいなくても私元気だったし」


「ふーん、へー。そうかそうか、寂しかったのか」


「なんでそうなるんだよ!」


 食い気味で、そう噛み付いてくる。


「お前なあ、嘘つくの下手なんだよ。お前が嘘つくときは、いっつも声が若干高いし、目が左上と右上を行き来する」


「なっ……」


「伊達にお前と長い間付き合ってはないからな。それくらいわかる」


「隆俊の癖にぃ……」


 だが。心配して、寂しく思ってくれていたのかと思うと、そう悪い気もしない。

 迷惑をかけたな。俺は紀香の頭に手を当て、ぐしゃぐしゃと撫でててやる。


「やめろーやめろー!」


「はっはっはっ、そういう割には引き剥がそうとしてないじゃないか。やっぱり寂しかったんだな?」


「こんのっ!」


 紀香が俺の腕を掴み、そのまま大きく体をジャンプさせた。

 おいまて、それはマズイ。俺がお前の力に勝てるわけがなかろう。紀香が、斜め上に飛び上がりながら俺のことを押すものだから、俺がバランスを崩さないわけがない。なんとか耐えようと頑張っては見るが、この運動神経オバケめ、全くもって耐えられなかった。


 ゴンッ、背中から倒れた。くっそ痛え。……だがまあ、半分は俺のせいだからなんとも言えないのだが。


「あっ……」


 少し、紀香が申し訳無さそうな顔をする。おう、この痛みの半分はお前のせいだからな。……なんてな。


 まあ、いろいろあったが、本当に助かった。……ありがとう。それと、これからもよろしくな。紀香。


 ………………絶対に、言葉で伝えはしないが。






   ***






 準備よし、覚悟は……よくないけど、よし、……やっぱよくない!


(もう、麻衣ちゃんったら、無理だってー!)


 あの後、第二回の会議があって、そのときになぜか私のことについても話し合うことになってしまった。


『とりあえず、一緒にお昼ごはんを食べるってのはどう?』


『おお、いいな。葵はよくあの四人で食べてるし、……最近は隆俊が休みでいないが。そういえば今日は灰原もいなかったよな』


『でも、その代わりに氷空くんと一緒に食べてたよ! 一緒に食べてって頼んだらお昼のときに迎えに来てくれたってさ!』


『ほら、いけるいける。とにもかくにも善は急げ、思い立ったが吉日だ。明日実行』


『いいね! じゃ、応援してるから頑張ってね詩織!』


 無理だってー! もう、麻衣ちゃんも郷沢くんも無茶言うんだからー!


 計画では、昼休みになるまでになんとか声をかけて、約束を取り付けるというものだったけど、今日に蓬莱くんの体調が回復して、灰原さんも回復してて、遠野くんはその二人と一緒にいて、周りに人がいっぱいいて、……全然話しかけられなかった。

 まあ、私も行動を起こしたのかって聞かれると、それはいいえになるんだけども。


 じいっと、こちらを凝視してくる瞳が四つ。麻衣ちゃんと郷沢くんの視線の圧がすごい。

 言え、言うのだ、一緒にお昼ごはん食べてもいいですかって、言えと。無言の圧力はメガネでも遮れず、私は思わず目を伏せてしまう。


 そんなとき。


「お、今日は氷空も一緒なのか」


「えへへー、昨日から一緒にお昼ごはん食べさせてもらってるんだー」


「いいじゃんいいじゃん! いっぱいいるほうが楽しいし!」


 後ろから、そんな会話が聞こえてくる。


 視線の圧力が、更に増す。


 今言わなければ、今日はもうチャンスがないだろう。

 逆に言えば、これでこの圧力から逃れられ……、はしないか。

 仮にここで行かなければ、きっと今日が終わってから(主に麻衣ちゃんから)責められるだろう。そして明日、もっと圧が増す。

 つまり、どのみち言わなければならない。なら、


 ええい、ままよ!


「遠野くんっ!」


 私は、頑張って声を張ってみる。

 ああ、恥ずかしい。顔があげられない。私は俯いたままで、……あれ? なんて言えばよかったんだっけ。


「どうした? 雨宮」


「あ、あの……、えっと……」


 ああ、そうだ。言え、言うんだ私。


「そのっ! 私も一緒に、お昼ごはんが食べたいです!」


 言っ…………ちゃった。

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