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#85 モブはやっと質問をする

「んで、話ってなんだ?」


「いやー、その前に一つだけいい?」


「いいぞ」


 やっと遠野に話を聞ける状況になった。

 放課後の教室。中にいるのは俺と遠野だけ。


 ……じゃなかった。


「なんで橘さんがいるの?」


「いちゃマズイのか?」


「いや、全然そういうわけじゃないんだけど」


 ちょっとだけ気まずい雰囲気になる。


「あの、もしお邪魔だったら私外に出てるよ?」


「いやいやいやいや、いいよ」


 俺は慌てて引き止める。いや、出てもらったほうがたしかにありがたいっちゃありがたいんだけども、絶対に必要ってわけじゃないのに出てもらうのは忍びない。


「それで、話は何?」


「それなんだがな……」


 くっ、ここに来て躊躇いっていうか、良心? っていうか、

 その場に当人がいないのに雨宮についてのことを又聞きするのはだめじゃないのかー? みたいな変な善意を掻き立てようとしている俺がいる。やめて。


 そうやって悩んでいるうちに、遠野が俺のことを凝視してるし。


 ええい、ままよ!


「最近俺さ、雨宮に避けられてる気がするんだが、なにか知らないか?」


「さっぱりだな」


「即答かよ! ……いや、なにか心当たりがあるとかなんとかでもいいからさ」


「だからさっぱりだって」


 ……ものの見事に頼みの綱が切れちまった。それも、メチャクチャアッサリと。

 いちおうもうちょっとだけ粘ってみるけど。


「ほら、遠野ってさ、一緒に文化祭の実行委員してたわけじゃん?」


「そうだな」


「そのときになにか聞いたとか」


「聞いてない」


「そのときに俺がなにかやらかしてたとか」


「信太はしっかり自分の仕事をこなしてたと思うぞ、俺は」


「その後で俺がなにかやらかしてたとか」


「別にずっと見てたわけじゃないからなんとも言えないが、俺が見たお前は普通だったぞ」


「終わったあとで雨宮さんからなにか聞いたとか」


「終わってから何回か話してるけど、そもそも信太のことは話題にあがってないぞ。遊園地に行ったときも」


「そっか……」


 やっぱり頼みの綱は切れてたか。修復不可能なくらいに。

 遠野が嘘つくやつだとは俺は思えないし。


 ……ん? ちょっと待て。


「遊園地行った?」


「おう」


「誰と?」


「雨宮と」


「誰と?」


「雨宮と」


「……誰と?」


「だから雨宮とだって」


「他には?」


「いないぞ」


「デートでは?」


「全くもって違う」


「ちなみになんで行ったの?」


「チケットが余ったから一緒に行ってくれと頼まれた」


「……マジで?」


「おう。なんでかは知らないが俺と行きたかったそうだ」


 ……ふーん。……へー。……そっかー。


「遠野、頑張れよ」


「何が?」


「……違ったな。これは雨宮が頑張らないといけない事案だな」


「いや、だから何がだよ」


 ふと気になって橘さんを見てみると、ぽかんと口を開けて遠野のことを見ていた。

 かと思うと、意識が覚醒したのか目を見開いて、


「遠野くん私も遊園地行きたい遊園地行きたい遊園地行きたい」


 と、子供みたいに連呼していた。ポカポカポカポカと軽く殴りながら。

 そういえば、この二人って噂はあったよな。結局ガセだってことだったけど、


 この様子だけを見てみれば、遠野に橘さんが懐いているって感じだけど、ずっとこの状況が、そういえば春から続いているということを考えれば。


 ……依存。ふと頭に浮かんだ言葉だった。


 遠野に関しては、まあ問題ないだろうが、橘さんについては、ありそうである。

 まあ、別に依存がだめとかそういうことを言いたいわけじゃないんだけども。


(……これは、不幸な事態が起こりかねないだろうなあ)


 少なくとも、橘さんか雨宮さんか。このいずれかが……。


 仕方ないといえば仕方ないのだろうけど。


「遠野、公開のない選択をしろよ?」


「お、おう。とりあえずこの場合は一緒に行ってやったほうがいいのか?」


 ……クスッ。思わず笑ってしまった。そういうことじゃねえっつーの。

 でも、まあ。


「それは、自分で考えることじゃねえか?」


 そういうのが、こいつらしいっていうか。


「とりあえず、今日はありがとう。またなんか埋め合わせするから」


「おう、てか埋め合わせとかいらないから、橘をなんとかしてくれ」


「んー、断る。じゃあな!」


「おい!」


「遊園地遊園地遊園地ー!」


「わかったから! わかったから!」


 ……全く。面白いやつらだ。


 タッタッタッ、と。廊下を駆け抜ける。


「ふんふんふんっ! こっちから面白そうなネタのニオイが……」


 すれ違いざまに、女の子が一人。同級生だったとは思うんだけど、名前が思い出せない。

 見たことなあるんだよなあ。あと結構人気だったはず。


 ……でも、なんか違う感じがする。こんなキャラのやつだっけ?




   ***




「おーちーつーけーっての!」


「遊園地遊園地遊園地! 連れてって!」


「わかったから! わかったから落ち着け!」


「他のみんなも一緒にね!」


「他のみんな……?」


「弟さんと、妹さん!」


「あー、アイツらか。いいが、美弥だけ微妙だぞ?」


「美弥ちゃん? なんで?」


「アイツ受験だからな。夏はなんとかつめて行けるようにしたけど」


「むー」


「お前、美弥の受験に責任取れるのか?」


「無理ですごめんなさい」


「はい、じゃあとりあえずはこの話はここまで。またどこかで遊園地はいけるようにしてやるから、今日のところは帰るぞ」


「はーい」


 よし。やっと落ち着いた。

 まさか子供のようにごねられるとは思わなかった。高校生に。


 高校生に。


 信太に見捨てられたときはどうしていいかわからなかったが。というか、あいつの悩みは解決したのか? 全然力になれた気がしていないんだが。


 教室を出て、廊下を歩き始め……、


「どうしたの?」


 教室を出て左に曲がってすぐ、急に立ち止まった俺に、橘がそう尋ねる。


「誰だ?」


 クルッと後ろを振り向いた。


「薄ヶ谷さん……だっけ?」


 橘に言われて、思い出した。そうだ。

 ……橘に人の名前を教わる日が来るだなんて思わなかった。ドヤ顔してる彼女の顔が見える。


「だいっせいっかい! こんなところで会うだなんて偶然だね! 二人は今から帰るの?」


「そうだけど」


 ……俺はそう言いつつ、薄ヶ谷の顔を見る。やはり真意が掴めない。言葉と動きと表情のすべてが全くに乖離している気がする。

 声色や表情の端には恐怖や緊張の表れがある。しかし、言葉や行動には喜びがある。

 

「やっぱり仲がいいんだね!」


「そりゃ、ここまで学校で一緒に過ごしてたらな」


「へー! そうなんだー!」


 ……本当に何がしたいんだ。

 あんまりコイツに相手して時間を無駄にするのもどうかと思うし、早く切り上げよう。


「ところでさー、こんな時間まで何を――」


「悪い、俺たち帰るから」


「えっ、ちょっと、なら一緒に」


「ほら、橘。行くぞ」


「へ? あ、うん」


 腕を引っ張り、ちょっと強引に連れて行く。


「チッ……」


 舌打ちが聞こえた気がした。

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