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#84 モブは違和感を感じる

 夕方。


「今日はほんっとにごめんね、それからありがとうね」


「いいのいいの、友達なんだから」


「まあ、また何かあったら俺のことも頼ってくれていいから」


 私はブンブンと頭を縦に振ってお礼を言った。郷沢くんの顔がちょっとだけ苦笑いだった。


「それから、ほんっと、マジでごめんね。よく考えたら詩織の好きな人は遠野だって私知ってたのに。ついついテンパっちゃって変な疑いかけちゃって」


「ううん、私だってあのときはテンパっちゃったもん」


「面白かったぞ、ふたりとも」


「郷沢くんも、あのとき変な言い方しないでよね! おかげさまでなんか変な方向に進みかけたじゃない!」


 プンスカとちょっと頬を膨らませた詩織だった。なかなかにかわいいと思う。

 ここに遠野が偶然いれば、なかなか面白いことになっただろうに。


 郷沢くんはというと、ニヘラニヘラとそこまで反省の様子もなく、言葉だけ「悪い悪い」と謝っていた。


「んじゃ、俺らは今日のとおりに動けばいいんだよな?」


「私も、だよね?」


 ふたりが私のことを見て、そう尋ねてくる。


「えっ、あ、うん。いや、別に嫌ならしなくていいんだよ?」


「嫌なわけないじゃない。友達の恋を応援できるなんて楽しいし!」


「俺は純粋に面白そうと思って参加してるだけだからな」


「郷沢くん! そういうことは本当でも言わないの。そこは嘘でもいいからカッコいいこと言えばいいのに」


 ……なんか、とてつもなく複雑な気持ち。


「ま、そのうち雨宮と遠野をくっつけよう大作戦もしないといけないしな」


「なっ……!? いや、そそそ、それはしなくても」


「あー、ほんとだー、やらないとー」


 とっさの判断で棒読みになってしまったが、私もここぞとばかりに反撃を入れる。


「麻衣ちゃんまで!」


 ククク、ケラケラ、笑い声。夕闇の中に三人分が消えてゆく。




   ***




 おかしい。これはさすがにおかしい。


「なあ、郷沢」


「なんだ、野鴨」


「最近さ、お前変じゃね?」


「そうか?」


「おう、だってお前――」


 チラリ、と教室の一方に目を向ける。


「最近麻衣の事ばっかり話してねえか?」


「んー、そんなことないぞ。気にしすぎじゃねえか?」


 そうかそうか、ただの気にしすぎか……ってなるか。


「いやいやいやいや、気にしすぎとか言うレベルじゃないし、たまたまとかいうような頻度じゃないからな?」


「うーん、俺にそう言われてもなあ……」


 そう言いながらも郷沢はチラチラと麻衣の方を見ていたりする。


 ……まさか。


「ちょっと耳かせ」


「ん? いいぞ」


 郷沢の横顔がぬっと近づく。自分で頼んでおきながらちょっとビビる。


「お前さ、もしかして麻衣のこと狙ってんのか?」


 周りにもれないように小さな声を意識しながらなそう言う。顔を離した郷沢は、3秒くらい固まった。まさか、そうなのか。


「おいおい、やめとけ。アイツはやめとけ。お前も夏休みに見たろ? アイツの本性、実際はあのときの数倍はヤバイからな。うん、悪いことは言わないからやめとけ」


 そう忠告する。二人が帰ったあと、俺がどれだけ大変だったか(おかげさまで宿題は終わったけど)。

 そして、俺の忠告を聞いた郷沢は、


「あっははははははは! ないない、そういうんじゃないから安心しろって」


 驚いたことに、なんか笑っていた。


「んだよ、てか、そういうんじゃないってことは別の何かはあるのか?」


 そう、冗談のつもりでツッコむ。


 すると、郷沢は青い顔をする。


「えっ……、マジ?」


「うーん、いや、別になんでもない」


「いや、その反応はなんかあるんだろ」


「ないない、ないから」


「いーや、絶対あるね。白状しろっ!」


「ないものを白状はできねえよ」


 コイツ……あくまでしらを切るつもりだな。いいだろう。


「絶対に白状させてやる! それまでつきまとうぞっ!」


「勝手にどうぞ、何もないからずっとつきまとってどうぞ」


 言ったな、言ったな? よーし、つきまとうからな。つきまとうからなっ!


 そして、俺、野鴨 信太の郷沢をつきまとって白状させよう大作戦が開始した。

 そして、この作戦はその日のうちに終結した。


「ごめん、さすがに家まではつきまとうのはどうかと思うからさ……そろそろ白状してくれないかな?」


「だから、ないものを白状はできないって言ってるだろ?」


「……帰る」


「懸命な判断だ」


 正門前、敗北を喫した俺はとぼとぼと帰路についた。

 しばらくすると、麻衣が後ろから突っ込んできた。勢いよく体当たりしてきたので、割と痛い。コケなかっただけでも良かった。


「んで、もうつきまとってないってことは聞き出せたの?」


「…………」


 どうやら、からかいに来たようだった。麻衣の顔が全てを物語っている。

 この顔は、聞き出せていないことを知っている顔だ。そして、俺のことをイジりたおさんとする顔だ。


 俺は、辛く、笑った。




 そういえば、最近変わったのは郷沢だけではない。

 というか、どっちかっていうと、こっちのほうが深刻である。


 雨宮さんに、避けられている(気がする)。それも、突然のことだった。


 話しかけようとして近づこうとしたら、なんか別のところに行っちゃうし。たまたま目があったかと思うとすぐに目をそらされるし。


 それも、唐突なことだから、原因に全く心当たりがない。


(気づかないうちになにかやっちまったのかな……)


 とても不安になってきた。もしそうなのだとしたら謝るべきなのだろうが、まず何をやらかしたのかの推測すらつかない。


(えー……マジで何やったんだ俺)


 教室の中、自分の席に座って頭を抱える。本人に聞くなんて論外だし(そもそも聞こうとして近づいたらどこか行くし)、郷沢に聞いても仕方ない気がするし、麻衣は論外だし。論外だし。

 論外だし。


 頼りになりそうな人で、俺がそれなりのコネクションを持っている人物……誰か、誰か。


 ガリガリガリガリ、頭を掻きむしる。


 ……そういえば。


 頭に当てていた手を離し、頭を上げた。


 教室の端っこで、四人組で話している人溜まりを見つめる。その中にいる、一人。

 遠野 葵。あいつなら、もしかすると知っているかもしれない。なにより、文化祭で一緒に行動してたわけだし、文化祭以来雨宮さんが遠野に積極的に話しに行っている様子を何回も見かけたし。


 ……よし、遠野に聞くか。


 俺は立ち上がり、歩く。


 すぐに立ち止まる。


 ……遠野が一人のときにしよう。他の人が喋ってるのに邪魔するのも悪いし、うん。


 こうして、俺は尋ねるのを延期した。

 言うまでもなく、次も、次もと尋ねるのが後回しになり(というのも遠野と橘さんの席が前後だからすぐに会話が始まる)、結局話しかけられたのは翌日の放課後だった。

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