#72 少年少女は遊園地でデート(?)する
「……なあ、聞こえるか?」
「いや、全然。そっちは?」
「こっちも。やっぱり周りの騒音が結構邪魔してて」
「だよなあ」
葵と雨宮さんの二人がいる側の壁に耳をピトッとくっつけ、耳を澄ませてみたが、意味はなかった(後から改めて考えてみると席の仕切りは別に天井まで続いているわけじゃないからやっても意味はなかった)。
「おまた……せ…………しまし……た」
料理を持ってきてくれた店員さんに「何やってんだこの二人」みたいな目で見られたのは、言うまでもない。
◇◇◇
「ごめんなさい、遠野くん。ちょっと遅くなっちゃった」
「いや、俺もついさっき来たばっかりだから、全然大丈夫だぞ」
遊園地、約束の時刻に少し遅刻して私は到着した。
遠野くんのその言葉は、優しい声だったけど、嘘なのを私は知っている。
だって、私がここについた、集合時刻の30分前。既に遠野くんがいたから。
……30分前に来たのは、誘ったのは私だから遅れたら申し訳ないなーとか思ったからで、決して楽しみで朝の4時半頃に目が覚めたからではない。決して。
そして、万全の準備のもと、集合場所に来たら――遠野くんがいた。
正直ビビったし焦ったし、どうしようかと本気で思った。いや、このタイミングで行ってもいいけど、なんかめちゃくちゃ楽しみにしてたやつみたいだし(どのみち30分前に来てる時点で楽しみにしてるやつっぽいけど)、何分前くらいに行くのが最適? なんて、物陰から遠野くんの様子を伺いながら考えること35分くらい。途中、小さな子に指をさされたり、いろいろあった。
そして、既に集合時刻超えていることにそこで気づき、慌てて遠野くんのもとへ駆けていったのである。
(少なくとも30分は余裕で待ってるっていうのに、なんでこんなに優しいんだろう……)
すぐに出ていけばよかったと、自分の行動に負い目を感じながら、しかし、完全に私が悪いにも関わらず、遠野くんのその言動に形容し難い嬉しさを覚えて。
「それじゃあ、行くか」
「はいっ!」
私は完全に浮かれていた。
「そういえばさ、今日の雨宮さんって普段と雰囲気ちがうよね」
「へ? そ、そうかな」
「うん、なんていうか、全体的にふわっとした感じっていうか」
「うううう、浮かれてなんか、ないよっ!」
私は慌ててそう言って、しかしすぐに気づいて。
(あああああ、もうっ! ふわっとした感じって、それは私が浮かれてるどうこうじゃなくって服装の話じゃないっ!)
今日の服装は、今回のこの企画を考えてくれたり(購入済みのチケットを無理やり渡してくるなど、半強制的に)実行に移すきっかけをくれた麻衣ちゃんが選んでくれたものだった。……というか、麻衣ちゃんの私物だ。
普段私が絶対に着ないような服を、敢えてチョイスされてしまった。ワンピースなんて着るの、小学生以来かもしれない。
学校ではしっかりと制服を来てるつもりだし、それとの対比でよりふわっとした印象を受けたのだろう。
それを私というやつは過剰に受け取り……うわあ、ほんとに恥ずかしい。
「まあ、声をかけた俺が言えたたちでもないと思うけど。とりあえずここは電車の中だから、もう少し声を控えようか」
思わず出した声は思ったよりも大きな声だったらしくて、私の顔はより赤くなった。
「ほー、こりゃすごいな。こんなところめったに来ないから、慣れてないだけかもしれないけど」
「私もあんまりこんなところ来たことないから、とっても不思議な感覚だよ」
園内に入ると、それはもう空気が違っていた。楽しげな音楽と、そこかしこにいる色んな人達。
遊園地なんて、最後に来たのいつだろう。
「遠野くん、何に乗る?」
「雨宮の乗りたいのでいいぞ」
「うーん、それじゃあ」
……あれ? ちょっとまって。
「それじゃあ……それじゃあ…………」
待って、待って! もしかして、私。
(遠野くんと一緒に来れるってことに浮かれて、中で何するとか全く考えてなかったああああ!)
仕方がない、ここは遠野くんの乗りたい物に……。
「遠野くんは、何に乗りたいとかあるの?」
「ん? あー、ごめん。全然考えてなかったよ」
……どうしよ、マジで。
でもよく考えてみたら、私遠野くんが自分の意志を主張してるところとかあんまり見ることなかったなあとか。そんなことを思ったり。
「えと……んー、じゃあ、とりあえずぶらぶら歩く? 気になるのがあったら乗るってことで」
「雨宮がいいならそれでもいいぞ」
なるほど、今気づいた。遠野くんの特徴。
良くも、悪くも、周りの意志を尊重してるんだな。返して言えば、流されやすいとも言える。
……まあ、私も同じようなところあるんだけど。
この二人で、遊園地なんてまともに回れるのだろうか?
まあ、なんとか回れていた。けど、個人的にはかなりしんどい。
というのも、なんでこう、いちいち何か起こるのだろうか。
「この先には何があるんだ?」
「ちょっと待ってね。今地図広げるから」
そう言って、園内地図を広げると、遠野くんは顔を覗かせて来る。あんまりの近さに思わず顔を背けて、
「つ、使っていいよ」
「うん? そうか、ありがとう」
少し不審に思われたかもしれないけど、正直あのまま至近距離にいたら恥ずかしくてとにかくしんどい。
きっとそんなことには気づいていないのだろう、遠野くんは何度も同じようなことを繰り返していた。色んな意味でしんどい。
……まあ、その反面嬉しくもあるのだけれども。
実際、ここまで近くにいれたことだって、初めてだし。なんなら今日は私と遠野くんの二人しかいないわけで。
なんか、独占欲みたいなのは私には到底ないものだと思っていたけど、こうしてみると、湧くものなんだなあとか。
いろんなことを知れて、その上遠野くんと一緒にいれて、とても幸せ。
「そろそろお昼ご飯にするか?」
「うん、そうしようか」
腕時計を確認してみたら、現在時刻は12時を少し過ぎたくらい。歩き回っているからか、お腹も結構空いてきていた。
「それじゃあ、いただきます」
「私も、いただきます」
手を合わせてそう言う。目の前には真ん中に堂々と陣取るハンバーグ、周りにはサラダやらご飯やら。
私はハンバーグ定食というものを頼んでみた。思っていたより量が多い。
対面の遠野くんは唐揚げ定食らしかった。
「ねえ、遠野くん。ハンバーグ少し食べない?」
「いいのか? じゃあ貰ってもいいか?」
コクリと頷くと、私は何も食べてないままの食器でハンバーグを少し切り、遠野くんのお皿に載せた。
……よし、この量なら全然食べられる。
「じゃあ、お返しに唐揚げちょっとあげるな」
「えっ……」
気を取られている間に、2個の唐揚げが更に置かれた。
…………元の木阿弥だ。でも、遠野くんから貰えたのか。
そう思うと、少し嬉しいような。……というか、なんかやってることがカップルっぽくて恥ずかしいような。
だめだだめだ。自意識過剰じゃん、私。
遠野くんは絶対そういうこと思いながらやってないから。だって遠野くんだし。
そんなことを頭の中で反芻しながら。時々遠野くんに首を傾げられて「なんでもないよ」と返しながら。
やっとこさ落ち着いたので、私はもらった唐揚げを食べることにした。
サクッとした衣の中から、じんわりと肉汁が滲み出してきて。
うん、美味しい。熱いけど、美味しい。




