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#67 少年少女は遭遇する

 服の袖を掴んだ。フリフリと装飾がいたるところについている。


 疲れました。とんでもなく疲れました。とてつもなく疲れました。

 いや、正直なめてました。最初、コンセプトとか聞いたときは「なんだコレ」とか思ってました。ええ。


 まさかこんな大行列が出来上がっていて、初っ端から満員御礼だったとは。正直なところ、驚きとももにビビりもした。

 それに、なんでか知らないけど私にやたら指名はいるし、やたら絡まれるし、やたら、やたら。


 いったいなにがあったと言うんだ。


 まあ、そんなこんなでなんとかシフト時間が終わり、今は着ていた服の袖から腕を抜いたところ。


 感想はひとこと、疲れたに尽きる。


 けどまあ私も目立ったミスはなかった(はず)。それにやってる間は割と楽しかったなあとか。

 ……この服は、あんまり着たいとは思わないけど。


 でも、凄いなあ。この服だって既成品直したり、無かったらイチから作ってるんでしょ?

 こんな技術がある人と一緒のクラスだったとは、私は恵まれていたんだな。

 誰が作ったのかは知らないんだけど。


 制服の袖に腕を通す。うん。やっぱりこっちのほうが落ち着く。


「……早くしないと、遠野くんのことだからもう着替え終わって部屋の前で待機……とか有り得そう」


 そう笑いながらに着替えのスピードを上げる。


 スカートを止めて、ピタリ、と。手が止まる。


 よく考えてみれば、遠野くんと同じクラスで、こうやって気にかけてもらってるだけでも恵まれているのではなかろうか。


 ……いや、恵まれているのだろう。疑う余地もない。


 私は荷物の入った手提げカバンを右肩にかけ、カカカッと3度ほど靴先を地面に打ち付ける。


 そうして更衣室のドアから出る。

 案の定遠野くんは更衣室のドアを開けて数メートルの位置に立っていた。思わず笑ってしまう。


 遠野くんが首を傾げてこちらに来るので、簡単に謝って彼の横に立つ。






「ねえ遠野くん、あんなところにたこ焼き屋だって! あっ、あっちには綿あめも売ってる!」


「そうか、どれから行きたいんだ?」


「んーとね……」


 そうだなあ、たこ焼きもいいし、綿あめもいいんだよなあ。それ以外にもクレープ屋なるものがあったり、それからそれから。

 それから……あれ、待って。


 カアアと、顔が熱くなるのが分かった。やばい、今の私、ただの子供だ。


 普段遠野くんに「子供扱いしないで」と、(特に帰り道のときに)言ってるくせに、自分から子供のように振る舞ってしまって。

 なにやってんだと、自身のことを咎めながら。しかし、そんな中遠野くんの表情を伺う。


 いつも通り……というか、基本的にこれ以外の表情を見ることが少ない、それくらいに遠野くんの表情は変わらない。そう記憶している。

 とりあえず、多分はなんとも思われていない。……まあ、そもそも表情が変わりにくいんだから、言い切りにくいのもたしかにそうなんだけど。


「どうした?」


「あっ! ううん、なんでもないよ」


 あんまり注視していたので、不思議に思われてしまったようだ。

 私は慌ててどこに行きたいのかを考え始める。うーん、うーん。


「あ、葵じゃん。それから橘さん! おーい!」




   ***




 歩いていたら、遠目に知り合いが見えた。

 とりあえず向こうは気づいていないみたいだったし、声をかけてみる。


「あ、葵じゃん。それから橘さん! おーい!」


 割と大きめの声で言ったけど、まあ案の定周りの人たちは一瞬反応したけど、自分のことでないことを理解するとなにごともなかったかのように、先程までの様子に戻る。


 ただ、1組の男女、葵と橘さんだけが、こちらを向いた。

 タッタッタッと小走りで近づいていく。うん? よく見ると橘さん顔真っ赤だ。


「橘さん大丈夫? 熱中症?」


「えっ、ううん、なんでもないよ大丈夫だよ!」


 慌ててアワアワしている。なんか、悪い子としてしまった気がする。


「なんだ? 大丈夫か、橘」


 葵が様子を見ようと顔をぐっと近づけた。途端、顔から火が出るんじゃないかというくらいにカアアと真っ赤になる。


 あ、なるほど。そういうことか。それはちょっと悪いことをしちゃったなあと。

 お邪魔しちゃったなあ、と。離れようとしたとき。


「あら、氷空が急に走り出すから何事かと思えば、いつぞやの……えっと……葵くんと橘ちゃんじゃない、お久しぶりねえ」


 ぐいっと、体重がかかる。覆いかぶさる形でお姉ちゃんが現れた。


「ちょっと、お姉ちゃん……重い……」


「あああ! 氷空ったら、女の子に重いとか言っちゃダメなのよー!」


 なんか上でプンスコプンスコしているが、正直なところいろいろあたってるし、まともに身動き取れないのでどいてほしい。


 やっとこさお姉ちゃんがどいてくれて、ほっと一息ついていたら。案の定だろうか。


「それで、葵くんと橘ちゃんはデート中なの?」


「ちょっ、お姉ちゃんそれは!」


 いくらなんでも不躾すぎやしないだろうか。現に橘さんはアワアワを更に増やしているし、いくら葵だって困惑するは――。


 いや、いつも通りだ。いつも通りすぎて、逆に怖くなるくらいに、まるで、なんとも思っていないのか、と。それくらい。


「いや、普通にシフトが同じタイミングで終わったので一緒に回ろうかってなっただけです」


「へー、そうなんだー」


 なぜか平然と進んでいる会話の中、視線を橘さんに移してみる。うん、なんというか、ちょっと凹んでる気がする。

 全体的に、暗めのオーラを若干被っているというか。


「そんなお二人こそ、デートですか?」


 ビクッと、葵の言葉に今度は俺が反応してしまう。


「そんなわけないじゃない、だって私たち姉弟なのよ? 普通に姉弟として、一緒に回ってるだけよ」


 ……うん、そうだよね。わかってたさ。うん。

 ただ、お姉ちゃんから「一緒に文化祭回ろ!」って言われたときは、デートっぽい(むしろデートではないか?)って舞い上がっちゃったんだよ。


 でも、よく考えてみればそうだよな……。俺は弟だし、お姉ちゃんは姉だし。

 同世代の他の誰より長く関わり合ってきていても、付き合うとか、デートとか、そういうものからは誰よりも遠く、かけ離れている。


 横ではお姉ちゃんと葵が楽しそうに話している。

 その隣の俺とそれから橘さん。ふと、目があってきっと互いに互いがなにか通じ合ったのだろう。


 力なく、微笑みあった。






 それからそんなこんなあって。


「栗子さん、こんな店ありますよ」


「でかした橘ちゃん、行くぞ!」


 なんかよくわからないけど、一緒に行動することになった。というか、女性2人が謎に意気投合した。


「なあ、氷空。お前まだ諦めてないんだろ?」


「…………!」


「図星か」


「ああ。諦めなきゃとは思ってるんだけど。……変だし、やばいやつだよな、俺」


「いや、全然問題ないと思うぞ」


 前の2人の方を見ながらに、葵は言ってくれる。


「自分の気持ちをちゃんとしっかりと持ててるのは凄いと思うし、尊敬する」


「……なんだよそれ、まるでお前が自分の気持ち持ててないみたいじゃないか」


「そうだな、言い方が悪かったか」


 ははは、と。2人で適当に笑う。

 まあ、葵みたいな凄えやつに尊敬されてるって言われたのは、結構嬉しかったり。


「ほらー! 2人とも早くー!」


 お姉ちゃんより、催促がかかった。

 葵と目を合わせて互いに意思疎通して、同時に駆け出した。


「ごめん、今行く――」


 俺の愛しい姉のもとへ。

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